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ハリス

「もうすぐです」

 アロイス王子に続いて倉庫が並ぶ敷地内に入る。いや、入るというのは語弊だろう。正確には、入らされるのだ。なぜなら今俺は情けないことに車椅子で押されているのだから。

 そしてその押し人であるマリーが不思議そうに問う。

「ここの倉庫に、ドラグノイドが? でも……誰の? ドラグノイドに打開策のヒントがあるなんて思えないけど……」

「そうか、マリーさんは知らないんですね。俺のドラグノイドですよ」

 その言葉にマリーは「え!?」と声を裏返し、

「どういうこと? だって、ドラグノイドは鋼竜騎士団にのみ与えられる特別な機体よ? 一般人が手に入れられるわけがないわ」

 ヴァンは少し嬉しそうに笑い、

「そうですよね。不思議がるのは当然です」

 マリーの疑問に、端的に答えた。

「俺のドラグノイドは、拾ったんです」

「拾ったって……そんなことが?」

「ええ、あれは――」

さらに疑問を膨らませるマリーだったが、アロイスの言葉でひとまずは中断することになる。

「ここです。この倉庫の中に、ヴァンのドラグノイドがあります」 

 マリーさんに車椅子を押され、アロイスに続き倉庫の中に入っていく。すると天井の照明が自動で点き倉庫内を明るく照らした。そしてその部屋の一角に目をやると、見慣れた機体が無惨な姿で横たわっていた。

 ドラグノイドは半身が無く、恐らく墜落の衝撃でだろう、頭部は半分潰れたようになっている。ボディーの下腹部も同じような状況で酷く変形していた。大空を飛ぶための翼は片翼が根本からちぎれ飛んでおり、もう一方は力無く垂れている。

 その惨状にヴァンは「うわあ」と低く唸る。

 ううん、分かっていたけど……改めて酷い有り様だと思い知らされちまうな。これ、無事に起動するのか?

 マリーさんに押されドラグノイドの近くまで来ると、ヴァンは車椅子から立ち上がりドラグノイド傍に行き、

「今、この状況を打破出来る可能性があるのはお前だけだ。目覚めてくれよ!」

 掛け声と共にドラグノイドを機動させる。アースクリスタルのエネルギー転換装置が動き出し、エネルギーの奔流がドラグノイドを駆け巡っていく。そして半壊したデュアルアイに光が灯ると、

『久しぶりですねヴァン。お互い酷くやられてしまったようですが、こうして再会できて嬉しいです』

 聞き慣れた機械音声。

「ああ、ハル。無事だったんだな! 本当に良かった!」

『はい。そして、まさかこのように再会するとは思いませんでした。お元気そうでなによりです。マリー博士』

「無事機動して良かった。実はお前に……って、ええ!? お前、マリーさんを知ってんの? ってか、博士!?」

 びっくりして振り返る。マリーは手を口の前に当て驚きに満ちた表情をしていた。そして次第に喜びに変わる。

「ええ……本当に久しぶりね。ハリス!」

「ど、どういうこと? マリーさん。博士って?」

「ふふ、私は本当は医療関係者じゃないの。先の戦いで医療関係がどこも人手不足だから、手伝いをしてただけなのよ。でも本当は技術開発の人間なの。ハリスは私たち開発スタッフが創った特別なAI。それにこのドラグノイド……半壊している上にあっちこっち改造してあって分かりにくいけれど、これは私たちが手がけた試作ドラグノイドね」

「試作……ドラグノイド?」

 その言葉に首を傾げる。マリーはドラグノイドの外装を見周りながら、

「そう、ハリスもこのドラグノイドも、ある目的のために創られたものなのよ」

「ある、目的?」

 マリーは「ええ」とうなずき、

「外界が危険に満ちているのは、外界を生業にしているヴァンくんなら一番分かっているわね? だからガイアとの貿易は命懸けの仕事になるわ。当然、貿易艦の安全を確保するために護衛を何人も雇わないといけない。この問題を解決するために、数年前からあるプロジェクトが進められていたの」

「あるプロジェクト?」

 マリーはドラグノイドの頭部に手を添えながら、

「そう、貿易を安全に確保するための、ね。AIによる完全自立型貿易艦。その艦の名はモビーディック。そして、艦の制御用に創られたAIがハリスよ。艦の護衛にはハリスからの遠隔操作によるドラグノイドを使用するの。プロジェクトが完成すれば、円滑な貿易と無人化による安全性の確保が出来るようになるわ」

 マリーの説明にヴァンは「えええ!?」と驚愕の声をあげとドラグノイドに収まっている相棒、ハルをマジマジと見て、

「お前そんなに凄いAIだったのか! 通りで、他のサポートAIとは違うわけだ」

 ヴァンがあげた感嘆の声にマリーは満足そうに微笑んだ。そして説明はさらに続く。

「このハリスとドラグノイドは技術面で優れていたディオーネが手掛けたのだけれど、貿易艦は資源の豊富なガイアで造られていたの。そして、艦が完成したという知らせを受けて、私たちは試験運用の為にハリスと試作ドラグノイドを乗せた高速艦に乗りガイアに向かったわ。でも……」

 急に、マリーの表情が曇る。それが何を意味するかはすぐに察しがついた。

「何か、事故が起きたんですね」

「ええ、ディオーネとの交流を良しとしない者たちから攻撃を受けたの」

「それってまさか、テロリストってことですか」

「そう……テロリストの攻撃を喰らって高速艇は高度が下がっていったわ。このままでは近くの山に墜落……いえ、その前に艦が撃墜されかねなかった。だから私たち開発チームはすぐに脱出艇に乗り込んで脱出したわ。ハリスと、この試作ドラグノイドを囮としてね……」

 その表情に悲しみを滲ませるマリー。

「囮? 一体どういうことです?」

「普通に脱出してもテロリストに撃墜されるのは分かりきっていたわ。だから、安全圏まで脱出する時間を稼ぐためにハリスシステムを使うしかなかったの」

「ハリス、システム?」

 プロジェクトに続き、またも始めて聞く言葉にヴァンは首を傾げる。その反応にマリーは「ええ」と頷き、

「ハリスによる艦の制御とドラグノイド遠隔操作システムのことよ。幸いなことに高速艇には高性能コンピューター、それに艦に載せたハリスと試作ドラグノイドと全て揃っていたからシステムを起動させたのよ。被弾した高速艇の操作と試作ドラグノイドの遠隔操作をハリスが同時にすることで、テロリストの注意をそっちに向けさせたの。そのお陰で私たちは今こうして生きてる。けど、その変わりに……」

「高速艇にハリス、それにドラグノイドを失ったんですね」

 ヴァンの言葉に、沈痛な面持ちでマリーは頷く。

「それから数日後、私たちは高速艇の回収に向かったのだけれど、高速艇は山に墜落した衝撃で炎上した形跡を色濃く残していたわ。ハリスがセットされていたコクピットのガラスは割れ、吹き荒ぶ雪に埋もれていた……ハリスは既に回収不可と判断。ドラグノイドも見当たらず、テロリストに破壊されたと思われていたの。でもそうじゃなかったのね」

 そう言うマリーさんは嬉しそうにドラグノイドを撫でるとヴァンに優しい眼差しを向けて、

「ハリスとドラグノイドは、ヴァンくんの元に渡っていたのね」

 その言葉に頷くと、ヴァンはハルとドラグノイドを手に入れた経緯を話し始めた。

「ええ、俺はその頃は親父たちが使っていたガンシップに乗っていて、ギルドの依頼で山脈の貴重な鉱脈を回収に行ったんです。そして、雪山に墜落炎上した高速艦とボロボロになったドラグノイドを見つけたんです。俺は炎上した艦の中を調査したんですけど、コクピットで画面がチカチカ光るボックスを拾った」

「それが、ハリスだったのね」

 頷くマリー。だがふとした疑問を投げかけてきた。

「でも、どうしてヴァンくんはハリスじゃなくてハルって呼んでいるの?」

「ああそれは、刻まれていた文字に傷が付いてて読めなかったからです。ハリス……HALISEの後ろ半分が傷で読めずにHALとしか見えなかった」

「なるほどね、それで全てに納得がいったわ! それにしても、まさかあの時テロリストに襲撃されて諦めていたのが、あの後あなたが手に入れてこうしてまたここにあるなんて、本当に驚くばかりだわ。ねえ、ハリス……ううん、あなたはもうヴァンのサポートAIなのだから、ハルって呼んだ方がいいかしら?」

『確かに、今の私はヴァンのサポート役として存在します。ですが博士が必要としたときにはすぐにハリスに戻りましょう』

 マリーはその言葉に微笑み、

「まあ、うれしいわ。その時はお願いするわね」

『はい、博士。ところでヴァン、ガイアとの戦争はどうなったのですか?』

「ああ、その事でハル、おまえの力を借りたいんだ……。ガイアにハッキング出来るか? 何でもいいんだ。情報が欲しい」

『なるほど、しかし残念ながら、この機体の通信システムは完全に破壊されています』

 ヴァンは「そんな……」と肩を落としたが、「それなら」とマリーが、

「私の施設に行きましょう。その方がこの子の能力を十分に発揮できるわ」

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