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3 、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜未完成な世界編  作者: Nao9999


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第59話 : 泣けなかった執行者

世界は、

まだ壊れていた。


火は消えていない。


悲鳴も。


怒りも。


後悔も。


それでも――


人は、

少しずつ誰かの手を取ろうとしていた。


そして今。


感情を持たなかった存在が、

初めて“心の痛み”を知ろうとしていた。

夜。


燃えた街の熱気は、

まだ空気に残っていた。


崩れた道路。


黒煙。


焦げた匂い。


だが。


さっきまでとは違う音が、

街に響いていた。


「そっち支えてくれ!」


「水だ!

まだ足りねぇ!」


「子供を先に運べ!!」


怒号ではない。


助け合う声だった。


主人公は、

瓦礫へ腰を下ろしながら黒糖飴を舐める。


「……変わるもんだな」


教育係が隣へ立つ。


「ええ……」


少しだけ、

表情が柔らかかった。


「人類は愚かです」


だが。


続ける。


「同時に、

優しい生き物なのかもしれません」


“失敗作”が鼻で笑う。


「今さら気付いたのかよ」


その時だった。


小さな足音。


振り返ると、

昼間助けられた少女が立っていた。


その後ろには母親もいる。


だが。


少女はずっと、

執行者の服を掴んでいた。


避難所へ移動した後も、

離れようとしなかったのだ。


執行者は困惑していた。


「……何故離れない」


少女は即答する。


「怖いから」


「理解不能」


「でも、

おにーちゃんいると安心する!」


執行者が止まる。


母親が深く頭を下げた。


「本当に……

ありがとうございました」


震える声だった。


執行者は返答できない。


感謝。


その概念は、

理解し始めている。


だが。


どう返せばいいのか分からなかった。


主人公が横から言う。


「そういう時は、

適当に頷いときゃいい」


「……肯定」


ぎこちなく頷く執行者。


母親が少し笑った。


その時。


少女が小さな包帯を差し出す。


「これ!」


執行者は見下ろした。


「……何だ」


「ケガ!」


焼けた腕。


砕けた装甲。


少女は不安そうに言った。


「痛いでしょ?」


執行者の内部で、

何かが揺れる。


痛み。


以前なら、

ただの損傷判定だった。


だが今は違う。


胸の奥が、

妙に熱かった。


「……問題ない」


「ダメ!」


少女は少し怒る。


「ケガしたら、

ちゃんとしないと!」


主人公が吹き出した。


“失敗作”も笑う。


教育係は口元を押さえている。


少女は、

必死に包帯を巻き始めた。


ぐちゃぐちゃだった。


全然上手く巻けていない。


でも。


執行者は動かなかった。


小さな手。


震える指。


真剣な顔。


その全部が、

執行者には理解不能だった。


なぜ。


こんなにも、

胸が苦しいのか。


少女は笑った。


「できた!」


執行者は、

巻かれた包帯を見る。


歪んでいる。


戦闘では意味がない。


だが。


胸の熱は、

少しだけ和らいでいた。


執行者は小さく呟く。


「……ありがとう」


少女が嬉しそうに笑う。


その瞬間。


周囲にいた人々が、

静かに執行者を見ていた。


恐怖。


警戒。


その中に――


別の感情が混じり始めていた。


老人が近付く。


顔には傷。


避難中に怪我をしたのだろう。


老人は執行者を見る。


「昔、

アンタらに連れて行かれた奴を見た」


空気が少し張る。


「だから、

ずっと怖かった」


執行者は黙って聞く。


老人は続けた。


「でもよ」


小さく笑う。


「今のアンタは、

違う顔してる」


執行者の瞳が揺れた。


顔。


そんな概念、

以前は存在しなかった。


主人公が言う。


「人間っぽくなったろ」


“失敗作”が笑う。


「最初はクソつまんねぇ機械だったのにな」


教育係も少し微笑む。


「感情とは、

そういうものです」


執行者は、

静かに夜空を見る。


煙で、

星はほとんど見えない。


それでも。


遠くに、

小さな光があった。


その時だった。


――ドゴォォォン!!!


遠方で巨大な爆発。


地面が揺れる。


悲鳴。


人々が空を見上げる。


赤い閃光。


そして。


黒煙の向こうから、

巨大な影が立ち上がった。


教育係の顔色が変わる。


「……まさか」


“失敗作”が舌打ちする。


「チッ……

最悪だ」


主人公が目を細めた。


「あれは何だ」


教育係が震える声で答える。


「旧・制圧兵器……

都市制圧型兵器“ベルゼ”です……!」


巨大な単眼。


鋼鉄の巨体。


崩れたビルを踏み潰しながら、

こちらへ進んで来る。


完全なる秩序。


完全なる管理。


感情を持たない、

本当の“完璧”。


執行者は、

その姿を見た瞬間。


初めて理解した。


怖い。


失いたくない。


守りたい。


その感情が、

身体を震わせていた。


少女が、

執行者の服を掴む。


「……いなくならないで」


執行者の動きが止まる。


以前なら、

迷わず戦闘へ向かっていた。


だが今は違う。


この温もりを、

失いたくなかった。


主人公が立ち上がる。


黒糖飴を噛み砕く。


「さて」


小さく笑った。


「未完成の世界らしく、

また問題が増えたな」

今回のテーマは、

「優しさは連鎖する」でした。


恐怖で暴れていた人々が、

少しずつ“助け合い”を始める。


そして、

感情を持たなかった執行者が、

初めて“心配される側”になる。


不格好な包帯。


戦闘では意味のない優しさ。


でも、

この作品で描きたいのは、

そういう“非効率な善意”です。


そして後半。


ついに、

旧世界の“完璧”が動き始めました。


感情を持たない、

本当の管理兵器。


今の執行者達とは違う、

旧世界の象徴です。


次回から、

未完成の世界編はさらに加速していきます。

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