第60話:完璧の残骸
完璧な世界は終わった。
だが――
終わっただけだった。
感情を否定した世界。
人間を管理する為だけに存在した兵器。
その残骸は、
まだ世界中に眠っている。
そして今。
“完璧”そのものが、
再び動き始めようとしていた。
巨大兵器“ベルゼ”は、
燃える街の向こうから現れた。
赤い単眼。
鋼鉄の巨体。
崩れたビルを踏み潰しながら、
ゆっくりこちらへ進んで来る。
その一歩だけで、
地面が震えた。
避難していた人々が青ざめる。
「な、なんだあれ……!」
「嘘だろ……」
子供が泣き出す。
空気が一瞬で凍った。
教育係の顔色は悪かった。
「あれは……
都市制圧型兵器“ベルゼ”」
主人公が目を細める。
「強いのか?」
“失敗作”が乾いた笑いを漏らした。
「強いとか、
そういうレベルじゃねぇ」
ベルゼがゆっくり腕を持ち上げる。
低い駆動音。
次の瞬間。
――ドゴォォォン!!!
遠くの建物が、
一瞬で吹き飛んだ。
爆炎。
衝撃波。
瓦礫。
人々の悲鳴。
主人公が舌打ちする。
「クソ……
避難が先だ!」
人々が慌てて走り出す。
だが。
恐怖で足が止まる者もいた。
執行者E-01は、
巨大兵器を見上げていた。
その赤い単眼。
無機質な動き。
感情の存在しない、
完全なる兵器。
かつての自分達と同じ。
いや――
それ以上の“完璧”。
少女が、
執行者の服を強く掴む。
「……こわい」
執行者は視線を落とした。
小さく震える手。
涙を堪える顔。
その瞬間。
内部で何かが強く軋む。
守りたい。
失いたくない。
その感情が、
執行者の思考を満たしていく。
教育係が言う。
「E-01……
まともに戦えば、
この街が消えます」
“失敗作”も笑みを消していた。
「しかも、
今のお前じゃ勝てる保証もねぇ」
執行者は黙る。
主人公は黒糖飴を噛み砕いた。
「なら、
やる事は決まってる」
教育係が振り向く。
主人公は静かに言った。
「逃がすぞ」
避難誘導。
時間稼ぎ。
全員を守り切る。
簡単じゃない。
だが。
主人公は最初から、
そういう人間だった。
“失敗作”がニヤッと笑う。
「ははっ。
相変わらず無茶苦茶だな」
教育係は深く息を吐いた。
「本当に……
非効率ですね」
主人公は笑う。
「今さらだろ」
その時。
ベルゼの単眼が、
ゆっくりこちらを向いた。
赤い光。
無感情な視線。
そして――
機械音声が響く。
『感情汚染個体ヲ確認』
空気が凍る。
執行者の瞳が揺れた。
『対象識別』
『執行者E-01』
『処分対象認定』
少女が怯える。
周囲の人々も後ずさった。
だが。
執行者は逃げなかった。
静かに前へ出る。
主人公が言う。
「おい」
執行者は振り返らない。
「質問」
「……何だ」
少しだけ間。
そして。
執行者は小さく呟いた。
「守りたいという感情は」
赤い単眼を見上げる。
「何故、
こんなにも苦しい」
主人公は少し笑った。
「生きてるからだろ」
その言葉が、
執行者の内部へ深く沈んでいく。
ベルゼの砲口が展開される。
赤い光が集束する。
街を消し飛ばせる程の熱量。
その光景を見ながら。
執行者E-01は、
初めて“恐怖”を理解していた。
今回から、
旧世界の“完璧”が本格的に動き始めました。
ベルゼは、
感情を否定した世界そのものです。
迷わない。
苦しまない。
悩まない。
だからこそ、
恐ろしい。
対してE-01は、
感情を知ってしまった。
怖い。
守りたい。
失いたくない。
それは弱さでもあり、
同時に“人間らしさ”でもあります。
この先、
未完成の世界編は、
さらに“感情”へ踏み込んでいきます。




