第61話:恐怖を知った日
感情は、
人を弱くする。
怖くなる。
迷う。
失いたくなる。
だが――
それでも。
誰かを守りたいと思えるのは、
きっと“心”があるからだった。
ベルゼの砲口が、
赤く発光していた。
空気が震える。
熱。
圧力。
周囲の窓ガラスが砕け散る。
避難していた人々が悲鳴を上げた。
「逃げろぉ!!」
主人公が叫ぶ。
人々が一斉に走り出す。
泣き声。
怒号。
転ぶ音。
混乱。
だが。
ベルゼは感情もなく、
ただ処理を続けていた。
『感情汚染個体ヲ排除』
赤い光がさらに強くなる。
教育係が青ざめた。
「まずい……
撃たれます!」
“失敗作”が舌打ちする。
「クソッ!」
その瞬間。
執行者E-01が前へ出た。
主人公が目を細める。
「おい」
執行者は振り返らない。
ただ、
巨大兵器を見上げていた。
恐怖。
その感情が、
内部を満たしていた。
怖い。
身体が震える。
思考が乱れる。
逃げたい。
だが。
少女の手が、
服を掴んでいた。
その小さな温もりが、
執行者を止める。
『処分開始』
次の瞬間。
――ギュォォォォォッ!!!
赤い閃光が放たれた。
主人公が叫ぶ。
「伏せろォ!!」
轟音。
爆炎。
街が揺れる。
だが。
熱線の前へ、
E-01が飛び込んでいた。
衝突。
凄まじい爆発。
白と黒の装甲が砕ける。
地面が抉れる。
それでも。
E-01は、
一歩も退かなかった。
教育係が叫ぶ。
「E-01!!」
熱線が止まる。
煙。
焦げた匂い。
そして。
膝をついたE-01の姿が見えた。
右腕は半壊。
装甲は焼け落ち、
内部フレームが露出している。
だが。
後ろの人々は、
誰一人死んでいなかった。
沈黙。
誰も動けない。
ベルゼの赤い単眼だけが、
静かに光っていた。
『解析』
『理解不能』
『何故、
自己損壊行動ヲ選択シタ』
E-01は、
ゆっくり顔を上げる。
壊れた視界。
警告音。
機能低下。
それでも。
小さく呟いた。
「……守りたかった」
ベルゼが停止する。
『非合理』
『理解不能』
E-01は立ち上がる。
足は震えていた。
怖い。
壊れる。
消える。
その恐怖が、
全身を支配している。
それでも。
少女が後ろから叫んだ。
「おにーちゃん!!」
その声だけで。
E-01は、
再び前を向けた。
主人公は、
その背中を見ていた。
そして小さく笑う。
「ちゃんと、
人間になってんじゃねぇか」
“失敗作”も笑った。
「ははっ……
欠陥品仲間入りだな」
教育係は、
少し泣きそうな顔をしていた。
ベルゼが再び砲口を展開する。
だが今度は違った。
E-01は、
ゆっくり拳を握る。
恐怖は消えていない。
それでも。
逃げなかった。
その姿はもう、
ただの兵器ではなかった。
燃える街の中。
感情を知った執行者は、
初めて“誰かの為に戦う恐怖”を抱えて立っていた。
今回のテーマは、
「恐怖を知る事」でした。
E-01は、
今まで“壊れる事”を恐れていませんでした。
ですが今は違います。
失いたくない。
守りたい。
だから怖い。
それは、
弱さでもあります。
ですが同時に、
人間らしさでもある。
ベルゼは、
そんな感情を“非合理”と切り捨てます。
だからこそ、
今後の戦いは、
単なる戦闘ではなく、
「完璧」と「未完成」
その思想の衝突になっていきます。




