第62話:非合理な命
合理的なら、
助からない命がある。
非効率だから、
守れる心がある。
完璧な世界は、
それを“無駄”と呼んだ。
だが――
未完成な人間達は、
その無駄の為に立ち上がる。
ベルゼの赤い単眼が、
静かにE-01を見つめていた。
燃える街。
崩れた道路。
熱風。
その中心で。
二体の“執行者”が向かい合う。
『質問』
ベルゼが機械音声を響かせる。
『何故、
人類ヲ庇ウ』
E-01は黙っていた。
『人類ハ非効率』
『争イ』
『裏切リ』
『感情ニヨリ崩壊スル』
赤い光が強くなる。
『管理対象ニ過ギナイ』
その言葉に、
避難していた人々が顔を強張らせた。
恐怖。
怒り。
後悔。
様々な感情が入り混じる。
だが。
主人公は黒糖飴を噛みながら、
小さく呟いた。
「まぁ……
間違っちゃいねぇな」
教育係が目を見開く。
「ちょっ……!」
“失敗作”が吹き出した。
「ははっ!
お前そういう事言う!?」
主人公は肩を竦める。
「実際、
人間なんて面倒臭ぇだろ」
ベルゼが反応する。
『肯定』
『故ニ管理ガ必要』
主人公は笑わなかった。
静かに、
ベルゼを見る。
「でもよ」
少し間。
「だからって、
全部奪っていい理由にはならねぇ」
空気が止まる。
ベルゼの単眼が揺れた。
『理解不能』
主人公は続ける。
「泣いたり、
怒ったり、
後悔したり」
黒糖飴を噛み砕く。
「そういう無駄込みで、
人間なんだろ」
ベルゼは沈黙する。
処理。
解析。
だが、
答えは出ない。
その瞬間。
後方で悲鳴が上がった。
崩れかけた建物。
逃げ遅れた老人がいる。
瓦礫が落ちる。
人々が叫ぶ。
「危ない!!」
だが。
誰も動けない。
恐怖で足が止まっていた。
その時。
E-01が飛び出した。
教育係が叫ぶ。
「待ってください!
その損傷状態では――」
E-01は止まらない。
崩れる建物。
降り注ぐ瓦礫。
そして。
E-01は老人を庇うように抱え込んだ。
――ドゴォォン!!!
轟音。
煙。
衝撃。
瓦礫が崩れ落ちる。
主人公が舌打ちした。
「E-01!」
煙の中。
ボロボロになったE-01が立っていた。
左肩は完全に破損。
火花が散る。
だが。
老人は無事だった。
老人が震えながら見上げる。
「なんで……
ワシなんかを……」
E-01は少し黙った。
以前なら、
合理性で答えていた。
だが今は違う。
内部で、
言葉を探していた。
そして。
小さく呟く。
「……死んでほしくなかった」
空気が止まる。
老人の目から涙が零れた。
ベルゼが、
静かにその光景を見ていた。
『理解不能』
その声は、
以前より微かに乱れていた。
『何故、
ソコマデ非合理ヲ選択スル』
E-01は、
ゆっくりベルゼを見る。
壊れた身体。
痛み。
恐怖。
それでも。
少女の笑顔。
人々の声。
“ありがとう”
その記憶が、
内部を満たしていた。
E-01は静かに答える。
「……温かいからだ」
ベルゼが停止する。
『……温カイ?』
その瞬間。
主人公は気付いた。
ベルゼの処理に、
ほんの僅かな“揺らぎ”が生まれている事に。
今回のテーマは、
「非合理な優しさ」でした。
完璧な世界にとって、
感情は無駄でした。
ですが。
その“無駄”があるからこそ、
人は誰かを守ろうとする。
E-01は、
合理性ではなく、
感情で動き始めています。
そして今回、
ベルゼにも小さな変化が生まれました。
それが希望になるのか。
それとも、
さらなる悲劇へ繋がるのか。
未完成の世界編は、
ここからさらに深く、
“心”へ踏み込んでいきます。




