第55話:守る理由
第55話です。
自由になった世界は、
少しずつ壊れ始めていた。
人は、
優しくもなれる。
だが同時に、
残酷にもなれる。
その中で主人公達は、
初めて“新世界の選択”を迫られる。
施設の空気は重かった。
モニターには、
各地の混乱映像が流れ続けている。
炎。
暴動。
略奪。
悲鳴。
教育係が険しい表情で画面を見つめる。
「区域B、制御不能……」
「区域Dでも衝突発生……」
“失敗作”が舌打ちした。
「思ったより早ぇな……」
俺は黙ってモニターを見る。
自由になった世界。
だが、
人類はまだ“自由”の扱い方を知らない。
その時だった。
《救援を……!》
スピーカーから、
女性の泣き声が流れる。
《子供達がまだ中に……!》
映像が切り替わる。
燃えている建物。
崩れた道路。
そして。
数人の武装した男達。
「……武器庫を奪った連中か」
“失敗作”が顔をしかめる。
男達は叫んでいた。
《食料も武器も全部俺達のもんだ!!》
《力がある奴が生き残るんだよ!!》
教育係が悔しそうに拳を握る。
「こんなの……」
執行者は静かに映像を見ていた。
感情を知った瞳。
そこに、
迷いが見える。
「……質問」
小さな声。
全員が執行者を見る。
「何故人間は、互いを助ける一方で、奪う」
沈黙。
難しい問いだった。
「両方、人間だからだ」
俺は静かに答える。
執行者がこちらを見る。
「矛盾している」
「してるよ」
即答。
「でも、それが人間だ」
執行者は黙る。
理解しようとしている。
その時。
モニターの向こうで、
小さな女の子が泣いていた。
煙の中。
一人。
助けを求めている。
教育係が息を呑む。
「まだ取り残されてる……!」
“失敗作”が低く言う。
「行くか?」
沈黙。
危険なのは分かっていた。
今の街は、
管理が消えた直後。
どこで何が起きてもおかしくない。
だが――
俺は迷わなかった。
「行くぞ」
教育係がこちらを見る。
「本気ですか?」
「子供いるんだろ」
それだけだった。
執行者が静かに聞く。
「何故助ける」
「助けたいから」
即答。
「効率ではない」
「知ってる」
少し笑う。
「でもさ」
執行者を見る。
「理由なんて、それで充分なんだよ」
空気が静まる。
執行者の瞳が揺れる。
「……助けたい」
小さく繰り返す。
まるで、
新しい言葉を覚える子供みたいに。
その時。
“失敗作”がニヤッと笑った。
「ははっ」
肩を回す。
「なら決まりだな」
教育係も小さく息を吐く。
「本当に無茶苦茶ですね……」
でも。
その顔は少しだけ笑っていた。
執行者がゆっくり立ち上がる。
そして――
胸へ手を当てた。
「この熱」
小さな声。
「理解を開始」
沈黙。
執行者は、
燃える街を見る。
「私は」
静かに続ける。
「守りたい」
その瞬間。
教育係が目を見開いた。
“失敗作”も笑みを消す。
完璧だった存在。
命令だけで動いていた存在。
その執行者が――
初めて、
自分の意思で“誰かを守りたい”と言った。
読んでいただきありがとうございます。
第55話では、
執行者が初めて“守りたい”という感情を口にしました。
これは、
命令ではありません。
自分自身の意思。
つまり執行者は今、
本当の意味で“生き始めています”。
次回、
主人公達は混乱する街へ向かいます。
引き続きよろしくお願いします。




