第86話:世界からの手紙
遠く離れた誰かの想いは、
届かないようで届く。
姿は見えなくても。
名前を知らなくても。
人は、
誰かの言葉に救われる事がある。
翌朝。
街は少しだけ賑やかになっていた。
子供達の笑い声。
鍋から立ち上る湯気。
瓦礫を運ぶ人々。
まだ傷だらけの街だった。
それでも。
確かに生きていた。
教育係が慌ただしく主人公の元へ駆け寄る。
「大変です!」
主人公が欠伸をしながら振り向く。
「朝から騒がしいな」
「通信です!」
「またか?」
「今回は違います!」
教育係は端末を主人公へ見せた。
そこには、
世界各地から送られてきた無数のメッセージが映し出されていた。
『こちらは南方居住区。あなた達のおかげで住民同士の争いが止まりました。』
『北部農業共同体です。子ども達が笑うようになりました。』
『海上自治都市アークより。黒糖飴の話を子ども達へ聞かせています。』
主人公は目を丸くする。
「……黒糖飴?」
教育係も驚いていた。
「誰かが話を広めているようです」
さらに画面を送る。
『小さな優しさが世界を変える』
『私達も誰かへ優しくします』
『ありがとう』
『生きようと思えました』
主人公は何も言えなかった。
失敗作が横から覗き込む。
「有名人じゃねぇか」
主人公は苦笑した。
「勘弁してくれ」
その時。
少女が走ってくる。
「おにーちゃん!」
主人公はしゃがむ。
「どうした?」
少女は胸を張った。
「今日ね!」
「黒糖飴を半分こした!」
主人公は優しく笑う。
「そっか」
「お友達と?」
少女は大きく頷いた。
「うん!」
「泣いてたから!」
主人公は頭を優しく撫でる。
「偉いじゃねぇか」
少女は嬉しそうに笑って母親の元へ戻っていく。
その後ろ姿を見ながら。
主人公は静かに呟いた。
「……母さん」
「ちゃんと繋がってるぞ」
教育係はその言葉を聞き、少し目を潤ませた。
その時だった。
E-01が静かに口を開く。
「報告」
主人公が振り向く。
「何だ?」
E-01は世界中から届いた通信を見つめていた。
「優しさが伝播している」
教育係が頷く。
「はい。数値化はできませんが」
E-01は続ける。
「感情は感染する」
主人公が笑う。
「悪いもんだけじゃねぇって事だ」
E-01も小さく頷いた。
「肯定」
その一言には。
以前にはなかった温かさがあった。
だが。
その穏やかな時間を破るように。
教育係の端末が再び鳴る。
今度は通信ではない。
旧管理システムからの自動信号。
画面には一行だけ表示されていた。
【管理権限コード認証】
【識別者:■■■■】
教育係の表情が凍る。
「……そんな」
主人公が覗き込む。
「知ってる奴か?」
教育係はゆっくり頷いた。
震える声で答える。
「この認証コードは……」
長い沈黙。
そして。
「大富豪です」
主人公の目が大きく見開かれる。
ポケットの中の黒糖飴を握る手に。
自然と力が入っていた。
第86話でした。
今回は、この作品の原点である「黒糖飴」が、主人公一人の思い出ではなく、世界へ広がる「優しさの象徴」になり始めたことを描きました。
そして最後に、長らく消息不明だった大富豪へ繋がる手がかりが現れます。
ここから物語は、世界の再建だけでなく、主人公の原点にも再び踏み込んでいきます。




