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3 、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜未完成な世界編  作者: Nao9999


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第87話:あの日、拾われた理由

人生には、

「あの時」がある。


あの日。


あの場所。


あの出会い。


もし一つでも違っていたら、

今の自分はいなかった。


だから人は、

過去を忘れられない。

誰も言葉を発しなかった。


教育係の端末に表示された文字。


【識別者:■■■■】


【管理権限コード認証】


主人公は画面を見つめる。


「……あの人が生きてるって事か」


教育係はゆっくり頷いた。


「少なくとも、この認証コードは本人しか使用できません」


失敗作が腕を組む。


「だったら、とっとと会いに行きゃいい」


教育係は首を横に振った。


「そんな単純な話ではありません」


画面には、新たな文字が浮かび上がる。


【音声記録・再生】


主人公達は顔を見合わせた。


教育係が再生ボタンへ触れる。


しばらくノイズが流れる。


そして。


懐かしい声が聞こえた。


『もし、この記録を聞いているなら』


主人公の身体が固まる。


間違いない。


あの日、自分を拾ってくれた大富豪の声だった。


『世界は予定より早く壊れたようだ』


少し苦笑するような声。


『だが、それでいい』


主人公は黙って聞いている。


『君はきっと怒るだろう』


『何故、全部話さなかったのかと』


短い沈黙。


『その資格が私にはなかった』


教育係が目を伏せる。


失敗作も真剣な表情になる。


『私は世界を作る側の人間だった』


『そして、多くを壊した』


主人公は拳を握る。


予想していた。


それでも。


本人の口から聞くと重みが違う。


『だから』


『私は一人の人間だけは救いたかった』


主人公が息を呑む。


『君だ』


静寂。


『国道で寝ていた君を見た時』


『私は驚いた』


『財布ではなく』


『黒糖飴を守ろうとしていた』


主人公の目が見開かれる。


『あれほど飢えていたのに』


『最後まで手放さなかった』


『私は知りたくなった』


『何故そこまで守るのか』


主人公は自然とポケットへ手を入れる。


黒糖飴がある。


今も。


『だから君を拾った』


『世界を救えると思ったからではない』


『優しかったからでもない』


少し笑う声。


『君は、傷付いてもなお、人間でいようとしていた』


主人公は目を閉じる。


あの日の景色が蘇る。


冷たいアスファルト。


腹の鳴る音。


走り去る車。


そして。


差し出された一杯の温かいコーヒー。


『あの日』


『私の方が救われたのかもしれない』


主人公の頬を一筋の涙が伝う。


教育係は黙っていた。


失敗作も何も言わない。


E-01だけが主人公を見つめている。


『もし』


『まだ生きているなら』


『一度だけ会おう』


『話したい事がある』


音声はそこで終わった。


長い沈黙。


誰も動かなかった。


主人公は涙を拭う。


そして。


少し笑った。


「あの人らしいな」


教育係も小さく笑う。


「はい」


主人公は立ち上がる。


空を見上げる。


「行くか」


失敗作が笑う。


「ようやく目的地が決まったな」


E-01も静かに頷く。


「同行する」


主人公はポケットの黒糖飴を軽く握った。


「今度は」


空へ向かって呟く。


「ちゃんと礼を言わねぇとな」


その時だった。


遠く離れた空。


E-00はその会話を静かに受信していた。


『解析』


わずかな沈黙。


そして。


これまで一度も表示されなかった文字が、内部へ記録される。


【優しさ】


意味──解析継続。

第87話でした。


今回は、この作品の原点である「あの日、大富豪が主人公を拾った理由」を明かしました。


大富豪は能力や才能ではなく、「黒糖飴を守り続ける主人公の人間らしさ」に心を動かされていました。


これで、第1章「出会い編」と現在の物語が一本の線で繋がりました。


次回からは、大富豪との再会へ向かう旅が本格的に始まります。

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