第83話:選ぶということ
人は毎日、
何かを選んで生きている。
助けるか。
見捨てるか。
信じるか。
疑うか。
その積み重ねが、
その人を作っていく。
朝日がゆっくりと街を照らし始めていた。
焼け焦げた建物。
崩れた道路。
それでも。
人々は動いていた。
瓦礫を運ぶ者。
炊き出しを始める者。
泣いている子供をあやす者。
誰かに命令された訳じゃない。
それでも動く。
主人公はその光景を見つめ、小さく笑った。
「悪くねぇな」
教育係も頷く。
「昨日とは別の街みたいです」
その時だった。
一人の老人が主人公達へ歩いてくる。
両手には大きな鍋。
「朝飯だ」
主人公が目を丸くする。
「俺達にか?」
老人は笑う。
「昨日、お前さん達が守ってくれた街だ」
「今度はわしらの番だ」
主人公は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「……ありがとな」
老人は笑顔で鍋を置く。
湯気が立ち上る。
質素な野菜スープだった。
豪華ではない。
でも。
温かかった。
主人公は一口飲む。
「うめぇ」
思わず漏れた一言に、周囲が笑う。
教育係も恐る恐る口をつける。
目を見開いた。
「温かい……」
失敗作が吹き出す。
「飯は冷たいより温かい方がいいに決まってんだろ」
教育係は少し恥ずかしそうに俯いた。
E-01は皆を見ていた。
「質問」
主人公がスープを飲みながら答える。
「何だ?」
「何故、この者達は我々へ食料を渡す」
主人公は少し考えた。
そして答える。
「借りを返したいんじゃねぇか」
老人は首を振った。
「違う」
主人公が見る。
老人は穏やかに笑った。
「返すんじゃない」
「繋ぐんだ」
静かな言葉だった。
「昨日、お前さん達が助けてくれた」
「今日、わしらが誰かを助ける」
「明日は、その誰かがまた別の誰かを助ける」
老人は空を見上げる。
「そうやって、人は生きてきた」
主人公は黙った。
胸の中で何かが繋がる。
母親。
黒糖飴。
大富豪。
自分。
全部が一本の線になり始めていた。
その時だった。
空にいたE-00が静かに口を開く。
『解析』
誰もが空を見る。
『理解不能』
初めてだった。
E-00が迷っている。
E-01が一歩前へ出る。
「質問」
『許可』
「何故、人類を理解しようとしない」
沈黙。
E-00は答える。
『理解は不要』
『排除で十分』
主人公は立ち上がる。
「違うな」
E-00の赤い瞳が主人公を見る。
主人公は静かに続けた。
「理解しようとしねぇから、間違えるんだ」
風が吹く。
「俺も昔、そうだった」
教育係が主人公を見る。
主人公は遠くを見つめていた。
「あいつの話を聞いてりゃ……」
そこで言葉が止まる。
救えなかった誰か。
まだ語られていない過去。
主人公は拳を握る。
「……いや」
首を振る。
「今はいい」
その時。
E-00の内部で、一つの記録が呼び起こされる。
管理社会が始まる以前。
一人の少年が、転んだ老人へ手を差し伸べている映像。
その記録は、不要として封印されたはずだった。
だが今。
その映像が何度も再生される。
『……何故』
E-00自身が呟いた。
その声は。
これまでより少しだけ小さく。
少しだけ迷いを含んでいた。
第83話でした。
今回は「助ける理由」ではなく、
「優しさは繋がるもの」というテーマを描きました。
また、主人公の「救えなかった過去」を少しだけ匂わせています。
そしてE-00にも、
初めて"迷い"が生まれ始めました。
物語はいよいよ、第3章の終盤へ向けて大きく動き始めます。




