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3 、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜未完成な世界編  作者: Nao9999


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第82話:あの日の甘さ

世界が終わるかもしれない夜。


それでも人は、

昔を思い出す事がある。


温かかった事。


優しかった事。


忘れたくなかった事。


それは案外、

生きる理由になる。

E-00は動かなかった。


巨大な光輪を背負ったまま。


空に浮かんでいる。


まるで考えているように。


街にも奇妙な静寂が訪れていた。


誰もが空を見上げている。


主人公は瓦礫へ腰を下ろした。


「……どうしたもんかな」


珍しく弱音だった。


教育係が隣へ座る。


「怖いですか?」


主人公は少し笑う。


「当たり前だろ」


即答だった。


教育係も少し笑った。


「そうですね」


風が吹く。


焦げた匂い。


崩れた街。


遠くで誰かが復旧作業を続けている。


そんな中だった。


小さな足音が近付く。


振り返ると。


あの少女だった。


炎の中から助け出された女の子。


「おにーちゃん」


主人公が手を振る。


「元気そうじゃねぇか」


少女は頷いた。


そして。


小さな手を差し出す。


そこには。


一粒の飴。


主人公が固まる。


黒かった。


丸かった。


黒糖飴だった。


時間が止まる。


教育係が主人公を見る。


少女は笑った。


「これあげる!」


主人公は動けなかった。


胸の奥が痛む。


懐かしい。


温かい。


苦しい。


色んな感情が一気に押し寄せてくる。


少女は首を傾げる。


「きらい?」


主人公は慌てて首を振った。


「違ぇよ」


声が少し震えた。


少女は嬉しそうに笑う。


「お母さんがね」


「ありがとうは形にした方がいいって」


主人公は言葉を失う。


昔。


同じ事を聞いた事があった。


幼い頃。


暗い部屋。


寒い夜。


痩せた母親。


その手の中にあった黒糖飴。


『優しさはな』


『ちゃんと渡さないと伝わらないんだよ』


記憶が蘇る。


忘れたと思っていた。


いや。


忘れたふりをしていただけだった。


主人公は飴を受け取る。


掌の中の小さな重み。


それだけなのに。


妙に重かった。


少女が笑う。


「またね!」


走っていく。


母親が頭を下げる。


主人公も軽く手を上げた。


そして。


少女の姿が見えなくなった頃。


教育係が静かに聞く。


「黒糖飴」


主人公は黙る。


少しだけ空を見る。


夜空だった。


星は見えない。


でも。


昔の記憶だけは見えた。


「母親がな」


小さく呟く。


教育係は何も言わない。


主人公は続ける。


「貧乏だったんだよ」


笑う。


少しだけ。


「笑えるくらいな」


風が吹く。


「でも」


掌の飴を見る。


「たまにくれたんだ」


教育係は黙って聞いていた。


主人公は続ける。


「たった一個なのにな」


少し間。


「世界一うまかった」


教育係の表情が柔らかくなる。


主人公は笑った。


だけど。


その目は少しだけ赤かった。


その時だった。


E-01が近付いてくる。


主人公の掌を見る。


黒糖飴を見る。


そして聞いた。


「質問」


主人公が振り向く。


「何だ」


E-01は静かに言った。


「それは希望か」


教育係が目を見開く。


主人公は少し考えた。


そして。


笑う。


「違うな」


E-01が首を傾げる。


主人公は飴を見つめた。


「これは」


長い沈黙。


そして。


静かに答える。


「優しさだ」


風が吹く。


誰も喋らない。


だが。


その言葉だけは。


確かに皆の胸へ残った。


空の上では。


E-00がまだ止まっている。


まるで。


その言葉を聞いていたかのように。

第82話でした。


今回は久しぶりに、

この作品の原点である黒糖飴へ戻りました。


世界を変えるのは兵器でも力でもなく、

誰かから受け取った小さな優しさ。


それがこの作品の根っこです。


次回は、

止まったままのE-00と、

主人公達の間で少しずつ変化し始める空気が描かれます。

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