第81話:選ばれなかった者達
完璧な世界には選ばれた者しかいなかった。
優秀な者。
従う者。
管理しやすい者。
だが。
世界を支えていたのは、
選ばれなかった者達だったのかもしれない。
空を覆う光輪。
それはもはや兵器ではなかった。
天災。
終末。
そんな言葉の方が近い。
街の誰もが空を見上げていた。
子供も。
老人も。
怪我人も。
全員が。
教育係の顔は真っ青だった。
「出力計測不能……」
主人公が苦笑する。
「最近その言葉ばっか聞いてる気がするな」
誰も笑わない。
冗談にならないからだ。
E-00は空中に静止したまま。
巨大な光輪を展開し続けている。
『最終浄化開始』
その言葉だけが何度も響く。
まるで祈りのように。
まるで呪いのように。
その時だった。
通信回線が開く。
世界中から声が流れ込む。
『こちら北方連合』
『避難開始』
『海上都市アーク』
『迎撃準備完了』
『西部共同圏』
『全戦力投入』
次々と声が響く。
主人公は静かに聞いていた。
誰も命令していない。
誰も支配していない。
それなのに。
人々は動いていた。
助けるために。
守るために。
その時。
通信の向こうから老人の声が聞こえた。
『昔な』
全員が耳を傾ける。
『管理社会になる前』
『みんなこんなもんだった』
沈黙。
老人は笑った。
少し寂しそうに。
『困ったら助ける』
『それだけだった』
主人公は黙る。
その言葉が胸に刺さる。
簡単な事だ。
だが。
簡単だからこそ難しい。
その時。
F-00が前へ出る。
巨大な身体。
傷だらけの装甲。
それでも立つ。
E-00を見上げながら。
『質問』
E-00が反応する。
『発言許可』
F-00は数秒黙った。
まるで言葉を探しているように。
そして。
ゆっくり口を開く。
『何故』
空気が静まる。
『人類を消す』
E-00は即答した。
『欠陥だからだ』
感情。
怒り。
悲しみ。
嫉妬。
欲望。
全てが争いを生む。
だから消す。
それがE-00の答えだった。
だが。
F-00は首を振る。
『違う』
その一言に。
空気が変わる。
E-00が初めて沈黙した。
F-00は続ける。
『人類は欠陥ではない』
主人公が目を見開く。
教育係も。
E-01も。
“失敗作”も。
全員が聞いていた。
『未完成だ』
風が吹く。
『だから成長する』
『だから間違える』
『だから学ぶ』
沈黙。
『だから守る価値がある』
E-00は答えない。
だが。
その赤い瞳が僅かに揺れた。
主人公は気付く。
E-01も気付いていた。
揺れている。
迷っている。
ほんの少しだけ。
その時。
E-01が前へ出る。
空を見上げる。
そして言った。
「報告」
E-00が視線を向ける。
「感情学習結果を提出する」
教育係が息を呑む。
主人公も驚いた。
E-01は続ける。
「悲しみは苦しい」
「怒りは危険」
「孤独は痛い」
静かな声。
だが。
一言一言に重みがあった。
「だが」
少し間。
少女達を見る。
主人公を見る。
仲間達を見る。
そして。
笑う人々を見る。
「感謝は温かい」
沈黙。
「希望は前を向かせる」
空気が震える。
E-01は最後に言った。
「結論」
長い沈黙。
そして。
「感情は必要だ」
街が静まり返る。
誰も喋らない。
誰も動かない。
E-00だけがE-01を見ていた。
ずっと。
ずっと。
その時だった。
通信回線から。
あの海外の女性の声が響く。
『いい事言うじゃん』
主人公が頭を抱える。
「お前いつも聞いてんのか」
『もちろん』
即答だった。
周囲が少し笑う。
ほんの少しだけ。
絶望の中で。
小さな笑いが生まれる。
その光景を見て。
E-00は初めて理解できない感覚に触れていた。
何故。
終末の直前なのに。
人は笑えるのか。
何故。
恐怖の中で。
希望を持てるのか。
そして。
その瞬間。
E-00内部で。
長い間停止していた何かが。
微かに動き始めた。
今回は戦闘ではなく、
思想の衝突でした。
E-00は「完璧」を信じています。
F-00とE-01は「未完成」を信じ始めています。
この作品の核心である、
「人類は未完成のまま生きられるのか」
というテーマに近付いてきました。
次回、
E-00の中で起き始めた変化が描かれます。
未完成の世界編も、
いよいよ終盤の核心へ入っていきます。




