第80話:集まる火種
希望は一人では生まれない。
誰かの言葉。
誰かの行動。
誰かの優しさ。
それが少しずつ繋がって、
やがて大きな火になる。
だが。
火は希望にもなるし、
災いにもなる。
世界が動いていた。
教育係の端末には、
次々と情報が流れ込んでくる。
途切れていた回線。
沈黙していた地域。
消えたと思われていた都市。
世界中から。
声が届き始めていた。
「通信回線が増えています」
教育係が驚いていた。
「こんな事はありえません」
主人公が肩を竦める。
「今さらだろ」
確かにそうだった。
管理社会が崩壊してから。
ありえない事ばかり起きている。
その時。
通信が入る。
別の回線。
男の声だった。
『こちら旧北方連合』
『そちらの状況を確認したい』
さらに別の回線。
女性の声。
『こちら海上自治都市アーク』
『旧兵器群の進路を共有する』
さらに。
さらに。
次々と。
世界中から。
声が届く。
主人公は少し驚いていた。
昨日まで。
世界はバラバラだった。
奪い合い。
争い。
憎しみ。
そればかりだった。
なのに今。
人々は協力し始めている。
教育係が呟く。
「希望が連鎖しています」
主人公は黙る。
その言葉が妙に胸へ残った。
その時だった。
E-01が空を見る。
「質問」
主人公が振り向く。
「何だ」
E-01は静かに聞く。
「何故人類は協力する」
教育係が考え込む。
難しい問いだった。
だが。
主人公はすぐ答えた。
「怖いからだろ」
全員が見る。
主人公は頭を掻いた。
「一人じゃ無理だからだ」
少し間。
「だから誰か探す」
E-01は黙る。
主人公は続ける。
「弱ぇからだよ」
風が吹く。
「でも」
空を見る。
「弱ぇから助け合う」
E-01の瞳が揺れる。
理解した訳ではない。
だが。
何かが少し積み重なった。
その時。
遠くで子供達の笑い声が聞こえた。
少女達だった。
瓦礫の近くで遊んでいる。
昨日まで泣いていた子供達。
今日。
少しだけ笑っている。
主人公はそれを見る。
E-01も見る。
少女が気付いた。
手を振る。
「おにーちゃん!」
E-01が固まる。
主人公が吹き出す。
「呼ばれてるぞ」
E-01は戸惑う。
数秒。
そして。
ぎこちなく手を上げた。
少女達が笑う。
その光景を見て。
教育係が小さく笑った。
“失敗作”も笑う。
F-00は黙って見ている。
赤い瞳で。
まるで。
何かを思い出しているように。
だが。
平和な時間は長く続かなかった。
空が暗くなる。
教育係の端末が警告を鳴らす。
全員の表情が変わる。
「来ます」
主人公が立ち上がる。
「どこだ」
教育係は空を見る。
そして。
言った。
「全部です」
沈黙。
主人公が顔をしかめる。
「全部?」
教育係は震える声で答える。
「旧兵器群」
「全機」
「進路変更完了」
世界地図が表示される。
そこには。
三十を超える光点。
全てが。
この街へ向かっていた。
まるで。
何かに引き寄せられるように。
その中心には。
E-00。
そして。
主人公達。
“失敗作”が舌打ちする。
「最悪だな」
教育係も青ざめる。
「街はもちません」
誰も反論できなかった。
その時だった。
通信回線が一斉に開く。
世界中から声が届く。
『こちらアーク』
『迎撃準備完了』
『北方連合も出る』
『南部共同体も支援する』
『進路上の兵器を引き受ける』
『そっちだけに戦わせない』
主人公が固まる。
教育係も。
E-01も。
世界中の人々が。
動いていた。
助けるために。
守るために。
その光景を見て。
主人公は小さく笑った。
「変わったな」
誰に言ったのか。
自分でも分からなかった。
世界か。
人類か。
それとも。
自分自身か。
その時。
E-00が空から声を響かせる。
『観測完了』
全員が空を見る。
赤い瞳。
巨大な翼。
そして。
冷たい声。
『感情汚染率』
『予測値超過』
沈黙。
E-00は続ける。
『最終浄化開始』
その瞬間。
空全体に巨大な光の輪が出現した。
街の人々が息を呑む。
教育係の顔から血の気が消える。
「まずい……」
主人公が聞く。
「何だ」
教育係は震えていた。
「旧世界最大兵装です」
沈黙。
そして。
教育係は絶望した顔で言った。
「都市どころではありません」
風が止まる。
「大陸が消えます」
第80話でした。
ここで未完成の世界編は、
街の危機から世界規模の危機へ完全移行しました。
ただし重要なのは、
敵の強さではありません。
今回の本質は、
「人類が初めて自分達の意思で繋がり始めた」
という事です。
かつて管理されていた世界。
今は未完成な世界。
だからこそ、
助け合うという選択が生まれています。
次回は、
E-00が持つ旧世界最大の力と、
主人公達の選択が描かれます。




