第77話:空から来る絶望
人は希望だけでは生きられない。
絶望だけでも生きられない。
だから前へ進む。
何度傷付いても。
何度立ち止まっても。
それが人間だからだ。
空が唸っていた。
まるで世界そのものが警告しているようだった。
誰も喋らない。
誰も動かない。
全員が空を見ていた。
北の空。
黒い雲の向こう。
巨大な光が何度も走っている。
教育係が端末を握る。
その手が震えていた。
「ありえません……」
主人公が聞く。
「何がだ」
教育係は画面を見つめたまま答える。
「速度です」
「E-00は封印施設から移動しているはずです」
「ですが……」
言葉が止まる。
主人公が眉をひそめる。
「ですが?」
教育係は顔を上げた。
青ざめている。
「もう到着していてもおかしくありません」
空気が重くなる。
E-01が空を見ている。
じっと。
まるで何かを感じ取ろうとしているみたいに。
F-00も動かない。
その赤い瞳だけが空を見つめていた。
主人公が呟く。
「嫌な感じしかしねぇな」
その時だった。
遠くで悲鳴が上がる。
誰かが叫ぶ。
「空だ!!」
全員が振り向く。
そして。
見た。
雲が割れていた。
巨大な影が現れる。
あまりにも大きい。
一瞬。
誰も理解できなかった。
人型。
だが。
異常な大きさ。
高層ビルほどの巨体。
白い装甲。
無数の黒い亀裂。
背中から伸びる巨大な機械翼。
そして。
赤く輝く瞳。
街全体が静まり返る。
子供が泣く事すら忘れるほど。
誰も動けない。
教育係が震える声を漏らす。
「E-00……」
主人公も言葉を失った。
想像以上だった。
兵器じゃない。
災害だ。
あれは。
存在してはいけないものだった。
E-00は空中で停止する。
まるで神が地上を見下ろすように。
静かに。
ゆっくりと。
街を見下ろした。
そして。
口を開く。
声が空から降る。
『確認』
低い。
重い。
感情の無い声。
だが。
どこか冷たすぎる。
『感情汚染率』
『許容範囲外』
街の人々が震える。
意味が分からなくても。
本能が理解していた。
危険だと。
E-01が前へ出る。
主人公の前へ。
教育係の前へ。
少女達の前へ。
守るように。
E-00の瞳が動く。
E-01を捉える。
数秒。
沈黙。
そして。
初めて。
E-00の声に変化が生まれた。
『E-01』
その名を呼ぶ。
E-01が答える。
「肯定」
『異常確認』
『感情発生確認』
『修正対象認定』
主人公が舌打ちする。
「修正だぁ?」
E-00は主人公を見る。
初めて。
その赤い瞳が主人公を捉えた。
背筋が冷える。
まるで全てを見透かされるような感覚。
『原因個体確認』
教育係が息を呑む。
主人公が苦笑する。
「俺かよ」
『肯定』
即答だった。
空気が凍る。
E-00は続ける。
『感情汚染源』
『排除対象』
その瞬間。
街中の人々が主人公を見る。
主人公自身も笑うしかなかった。
「随分嫌われたもんだな」
だが。
次の瞬間。
前へ出た者がいた。
E-01だった。
「拒否」
静かな声。
しかし。
迷いは無い。
E-00の瞳が揺れる。
僅かに。
本当に僅かに。
『理由』
E-01は答える。
「守る」
沈黙。
誰も喋れない。
E-00が再び聞く。
『理由』
E-01は主人公を見る。
教育係を見る。
少女を見る。
瓦礫を運ぶ人々を見る。
そして。
小さく言った。
「希望だからだ」
空気が止まった。
主人公が目を見開く。
教育係の瞳が揺れる。
“失敗作”が笑う。
F-00ですら動かなかった。
希望。
かつて感情を持たなかった存在が。
今。
その言葉を口にした。
だが。
E-00は静かだった。
長い沈黙。
そして。
ゆっくりと言う。
『理解不能』
その言葉と同時に。
空が裂けた。
E-00の背後に。
無数の光輪が展開される。
教育係が叫ぶ。
「全員退避!!」
「街が消えます!!」
絶望が降りてきた。
だが。
その瞬間。
F-00が前へ出た。
巨大な身体。
黒い装甲。
赤い瞳。
そして。
壊れた親心を抱えた最初の失敗作。
F-00は空を見上げる。
そして。
初めて怒りを宿した声で言った。
『保護対象』
その一言で。
空気が変わった。
怪物と怪物。
世界最強クラスの二体が。
ついに向かい合った。
いよいよ未完成の世界編の大きな山場へ入りました。
今回の中心は、
E-01が自分の意思で「希望」という言葉を選んだことです。
かつて感情を持たなかった存在が、
人間達と共に生きる中で得た答え。
そして次回。
E-00とF-00。
旧世界が生み出した二体の怪物が激突します。
ただの戦いではありません。
これは、
感情を否定する世界と、
未完成を受け入れる世界の衝突でもあります。




