第76話:壊れた親心
守る方法を間違える人がいる。
愛し方を知らない人がいる。
優しさを伝えられない人がいる。
そして。
大切だからこそ、
壊してしまう者もいる。
風が吹いていた。
瓦礫の街。
崩れた建物。
その中央で。
F-00と“失敗作”が向かい合っていた。
誰も動かない。
誰も口を挟めない。
空気が重い。
まるで。
二人だけ別の時間を生きているみたいだった。
F-00が言う。
『帰還命令』
『再通達』
“失敗作”は鼻で笑う。
「しつこいな」
『帰還』
「嫌だね」
即答だった。
F-00は沈黙する。
主人公は様子を見ていた。
妙だった。
攻撃してこない。
敵なら既に街は消えている。
だが。
F-00は違う。
何かを確かめるように。
ただ“失敗作”だけを見ていた。
教育係も気付いていた。
「攻撃意思がありません……」
E-01が呟く。
「質問」
「何ですか」
教育係が返す。
E-01はF-00を見る。
「何故執着する」
沈黙。
だが。
答えたのはF-00だった。
『保護対象』
その言葉に。
全員が固まる。
主人公が聞き返す。
「は?」
F-00は続ける。
『Fシリーズ』
『保護対象』
『処分禁止』
教育係が目を見開く。
「まさか……」
“失敗作”が苦い顔をする。
「そういう事かよ」
主人公だけが分からない。
「何だよ」
教育係が説明する。
声が少し震えていた。
「F-00は」
「Fシリーズの管理責任者です」
主人公が眉をひそめる。
「管理?」
“失敗作”が笑う。
乾いた笑いだった。
「違うな」
少し間。
「子育て担当だ」
空気が止まる。
主人公が固まる。
教育係も。
E-01も。
数秒後。
“失敗作”が吹き出した。
「ははっ!」
主人公も笑いそうになる。
「お前らの親父役だったのか」
F-00は否定しない。
ただ。
静かに言った。
『保護対象』
その言葉だけを。
何度も。
何度も。
繰り返す。
その姿を見て。
主人公の胸に妙な感覚が生まれる。
この存在。
壊れている。
だが。
根っこにあるものは。
憎しみじゃない。
その時だった。
少女が近付いてくる。
あの子だ。
周囲の大人達が慌てる。
「危ない!」
だが。
少女は止まらない。
真っ直ぐF-00へ向かう。
F-00が視線を向ける。
赤い瞳。
巨大な身体。
普通なら泣く。
逃げる。
けれど。
少女は小さな手を伸ばした。
そして。
こう言った。
「おじちゃん」
空気が凍る。
主人公が吹き出した。
“失敗作”も腹を抱える。
教育係まで肩を震わせている。
F-00だけが固まる。
完全停止だった。
少女は続ける。
「さみしかったの?」
沈黙。
誰も笑わなくなった。
F-00は答えない。
答えられない。
だが。
その赤い瞳が。
僅かに揺れた。
主人公は気付く。
E-01も。
教育係も。
“失敗作”も。
全員が見た。
今。
確かに。
揺れた。
その時だった。
空が震える。
轟音。
全員が空を見る。
北の空。
黒い雲。
その向こうで。
巨大な光が走った。
教育係の端末が悲鳴を上げる。
警報。
警報。
警報。
「反応確認!!」
主人公が顔を上げる。
「今度は何だ!」
教育係の顔から血の気が消えていた。
「E-00です」
沈黙。
教育係は震える声で続ける。
「進路変更」
主人公の嫌な予感が当たる。
「どこへ向かってる」
教育係が答える。
絶望した顔で。
「この街です」
風が止まった。
E-00。
最初の執行者。
感情を憎む者。
そして。
F-00。
壊れた親心を持つ存在。
二つの怪物が。
同じ場所へ向かっていた。
今回のテーマは、
「守り方」
でした。
F-00は壊れています。
ですが。
根底にあるのは支配ではなく、
守りたいという歪んだ感情です。
未完成の世界編では、
感情が人を救う事もあれば、
感情が人を壊す事も描いていきます。
そして次回。
ついにE-00が動きます。
未完成の世界編最大級の転換点が近付いています。




