第75話:最初の失敗作
誰にだって始まりがある。
最初の一歩。
最初の挑戦。
最初の失敗。
そして時には。
最初の失敗が、
その後の全てを決めてしまう事もある。
誰も喋らなかった。
【F-00】
その文字だけが画面に表示されている。
主人公は“失敗作”を見る。
今まで見た事がない顔だった。
笑っていない。
怒鳴ってもいない。
ただ。
固まっていた。
教育係が静かに言う。
「確認できる出力は一体」
「間違いありません」
“失敗作”が呟く。
「生きてたのかよ……」
主人公が聞く。
「知ってるのか」
返事はすぐには返ってこなかった。
長い沈黙。
やがて。
“失敗作”は小さく笑う。
乾いた笑いだった。
「俺達Fシリーズにはな」
風が吹く。
「親みたいな奴がいた」
主人公が眉をひそめる。
「親?」
「そうだ」
“失敗作”は空を見る。
遠い昔を見るように。
「最初のFシリーズ」
「最初に感情制御へ失敗した奴」
教育係も黙って聞いている。
“失敗作”は続ける。
「怒り」
「憎しみ」
「反抗心」
「全部持ってた」
主人公が言う。
「お前みたいだな」
“失敗作”が笑った。
「俺より酷ぇよ」
その声に。
少しだけ震えが混じる。
主人公は気付いた。
あいつが怖がっている。
初めてだった。
その時。
警報が鳴り響く。
教育係が端末を見る。
顔色が変わる。
「移動速度上昇!」
「こちらへ向かっています!」
主人公が舌打ちする。
「会いに来る気満々か」
だが。
次の瞬間。
街の端で爆発が起きた。
轟音。
衝撃。
人々の悲鳴。
全員が振り向く。
煙が上がる。
建物が崩れる。
教育係が叫ぶ。
「もう来ています!!」
主人公の顔から笑みが消える。
早すぎる。
E-00ですらまだ遠い。
なのに。
F-00は。
もう街へ到達していた。
煙の向こう。
巨大な影が歩いてくる。
一歩。
また一歩。
地面が揺れる。
そして。
姿が見えた。
人型。
だが異様だった。
黒い。
全身が黒い装甲で覆われている。
E-01のような整った姿ではない。
もっと荒々しい。
もっと獣に近い。
両腕には巨大な拘束具。
首にも鎖。
まるで。
何かを封じ込める為の存在。
主人公が呟く。
「なんだあれ」
教育係の声が震える。
「封印拘束仕様……」
「危険度最高クラスです」
その時。
F-00が止まった。
そして。
ゆっくり顔を上げる。
赤い瞳。
禍々しい光。
全員を見渡す。
だが。
次の瞬間。
その視線が止まった。
“失敗作”へ。
空気が凍る。
F-00が口を開いた。
低い声。
壊れた機械みたいな声。
『発見』
“失敗作”の顔が強張る。
『Fシリーズ個体確認』
『生存確認』
主人公が前へ出る。
だが。
“失敗作”が手を伸ばした。
止める。
珍しく真剣な顔だった。
「下がれ」
主人公が見る。
“失敗作”はF-00から目を離さない。
そして。
小さく呟く。
「こいつは」
苦笑した。
「俺を作った奴だ」
沈黙。
教育係が目を見開く。
主人公も固まる。
F-00はゆっくり歩く。
近付く。
その赤い瞳が揺れる。
怒りとも違う。
憎しみとも違う。
もっと深い何か。
そして。
F-00は静かに言った。
『帰還命令』
“失敗作”が鼻で笑う。
「断る」
即答だった。
F-00の瞳が赤く輝く。
『理解不能』
“失敗作”は笑う。
今度はいつもの笑顔だった。
少しだけ震えていたけれど。
それでも。
仲間達の前に立つ。
「悪いな」
主人公達を見ないまま言う。
「親父」
風が吹く。
壊れた街を抜けていく。
F-00の瞳が。
僅かに揺れた。
今回のテーマは、
「親と子」
でした。
血の繋がりではありません。
ですが。
生み出した者と、
生み出された者には特別な関係があります。
そして今回。
失敗作の過去へ繋がる存在。
F-00が現れました。
未完成の世界編は、
ここから失敗作の物語にも深く踏み込んでいきます。
そして次回。
F-00の本当の目的が語られます。




