第74話:感情を憎む者
人は傷付く。
裏切られる。
失う。
だから。
感情なんて無ければ良かった。
そう思う者もいる。
だが。
本当にそうだろうか。
空気が重かった。
誰もすぐには喋れない。
旧制圧兵器群。
二十七体。
そして。
それを起動させている人間。
主人公が頭を掻く。
「つまり」
ため息。
「また人間か」
大富豪が答える。
『そうだ』
主人公は苦笑した。
「結局いつもそうだな」
怪物でもない。
兵器でもない。
最後に問題を起こすのは人間。
それが少し皮肉だった。
教育係が通信へ向けて聞く。
「その人物の情報は」
『少ない』
珍しく大富豪も即答できなかった。
『だが一つだけ分かっている』
周囲が静かになる。
『感情を憎んでいる』
風が吹く。
燃え跡の匂いが流れる。
『管理社会崩壊後』
『各地で同じ言葉が確認されている』
主人公が眉をひそめる。
「言葉?」
大富豪は答えた。
『感情は人類最大の欠陥』
その瞬間。
教育係の顔色が変わった。
「まさか……」
主人公が見る。
「知ってんのか?」
教育係はゆっくり頷いた。
苦しそうに。
「旧世界にいました」
沈黙。
「感情否定派です」
“失敗作”が鼻で笑う。
「まだ生き残ってやがったか」
教育係は続けた。
「管理者よりも過激でした」
主人公が目を細める。
管理者ですら極端だった。
そのさらに上。
想像したくなかった。
大富豪が言う。
『奴らは信じている』
『感情さえ無ければ』
『争いは無くなると』
主人公は空を見る。
崩れた街。
泣いていた人々。
助け合う人々。
笑い始めた子供達。
そして。
少女から黒糖飴を受け取ったE-01。
ゆっくり言う。
「違うな」
誰も喋らない。
主人公は続ける。
「争いは減るかもしれねぇ」
「でも」
少し笑う。
「笑う事も減るだろ」
教育係が主人公を見る。
E-01も。
“失敗作”も。
主人公は肩を竦めた。
「俺は嫌だな」
静かな言葉だった。
だが。
その言葉は不思議と重かった。
大富豪が小さく笑う。
『だからお前を選んだ』
主人公が嫌そうな顔をする。
「勝手に選ぶな」
『今さらだ』
“失敗作”が爆笑した。
その時だった。
E-01が動く。
ゆっくりと。
少女から貰った黒糖飴を見ている。
小さな飴。
何の力も無い。
兵器を倒せる訳でもない。
世界を救える訳でもない。
それでも。
E-01は呟いた。
「質問」
主人公が見る。
「何だ」
E-01は飴を見たまま言う。
「感情は何故必要だ」
沈黙。
教育係も答えられない。
大富豪も黙る。
難しい問いだった。
主人公はしばらく考える。
そして。
黒糖飴を一つ取り出した。
懐から。
いつものように。
それをE-01へ投げる。
E-01が受け取る。
主人公は言った。
「必要だからじゃねぇよ」
「……?」
「無くせねぇんだ」
風が吹く。
主人公は空を見上げた。
「悲しい時は悲しい」
「嬉しい時は嬉しい」
「腹立つ時は腹立つ」
「好きな奴は好きだ」
少し間。
「それが人間だろ」
E-01は黙っていた。
理解できた訳じゃない。
でも。
少しだけ。
分かった気がした。
その時だった。
教育係の端末が再び警告を鳴らす。
全員の顔が変わる。
「反応です!」
主人公が立ち上がる。
「どこだ!」
教育係が画面を見る。
そして。
顔色を失った。
「北ではありません」
主人公が固まる。
「は?」
教育係の声が震える。
「この街です」
沈黙。
誰も動かない。
画面には巨大な反応。
たった一つ。
だが。
E-00に匹敵するほどの出力。
そして。
表示された識別名。
【F-00】
“失敗作”の顔から笑みが消えた。
完全に。
「……おい」
その声は。
今まで聞いた事がないほど低かった。
「なんで生きてる」
誰も答えられない。
だが。
“失敗作”だけは知っていた。
その番号の意味を。
Fシリーズ。
その始まり。
そして。
最悪の失敗作を。
今回のテーマは、
「感情を否定する理由」
でした。
感情は人を傷付けます。
ですが同時に、
人を救う事もあります。
この作品は最後まで、
その問いを描いていきます。
そして今回、
新たな存在が登場しました。
E-00とは別系統。
失敗作にとって最も因縁の深い存在。
F-00。
未完成の世界編は、
いよいよ終盤の核へ向かっていきます。




