第73話:追われる者
逃げる事は弱さじゃない。
生き残る為に逃げる事もある。
守る為に逃げる事もある。
だが。
いつかは振り返らなければならない。
向き合わなければならない。
自分自身とも。
朝日が昇り始めていた。
壊れた街。
焦げた建物。
崩れた道路。
それでも。
人々は動いていた。
瓦礫を運ぶ者。
怪我人を助ける者。
食料を分ける者。
完璧ではない。
混乱も残っている。
だが。
確かに生きていた。
主人公はその光景を見ていた。
「少しずつだな」
教育係が頷く。
「はい」
静かな返事だった。
その時。
E-01は遠くを見ていた。
北。
誰にも見えない場所を。
主人公が声を掛ける。
「気になるか」
「肯定」
即答だった。
E-01は続ける。
「E-00」
主人公は隣に立つ。
「兄弟みたいなもんか」
少し考えて。
E-01は答えた。
「不明」
だが。
珍しく言葉を続けた。
「しかし」
風が吹く。
「近い感覚はある」
教育係が聞いていた。
そして静かに言う。
「製造番号だけなら」
少し間。
「あなた達は兄弟です」
E-01は黙る。
主人公も何も言わない。
その時だった。
遠くで子供達の笑い声が聞こえた。
少女だった。
昨日のあの子。
数人の子供達と遊んでいる。
その中心にいるのは――
“失敗作”。
主人公が吹き出す。
「何やってんだあいつ」
教育係も笑う。
「人気者ですね」
“失敗作”は肩車をしていた。
完全に遊ばれている。
「おら落ちんなよ!」
「もっと高くー!」
「無茶言うな!」
周囲の大人達も笑っていた。
数日前なら考えられない光景。
主人公は目を細める。
こういうのでいい。
派手な奇跡じゃなくて。
こういう小さな日常が。
その時。
警報が鳴った。
全員の顔が変わる。
教育係が端末を見る。
血の気が引いた。
「反応です!」
主人公が立ち上がる。
「E-00か!?」
教育係は首を振った。
「違います!」
画面には複数の光点。
一つではない。
十。
二十。
三十。
“失敗作”が笑顔を消した。
「おいおい……」
教育係の声が震える。
「旧制圧兵器群です」
沈黙。
主人公が画面を見る。
大量の識別コード。
見た事もない番号。
「まさか……」
教育係が呟く。
「同時起動……?」
ありえない。
そんな顔だった。
E-01が前へ出る。
「数は」
「現在確認できるだけで二十七」
主人公が頭を抱える。
「増えてるじゃねぇか」
“失敗作”が笑う。
乾いた笑いだった。
「最悪だな」
だが。
その時。
新しい通信が入る。
全員が振り向く。
大富豪だった。
『ようやく気付いたか』
主人公が言う。
「説明しろ」
通信の向こうでため息。
『予想より早い』
教育係が聞く。
「何が起きているんですか」
沈黙。
そして。
大富豪は静かに言った。
『誰かが起こしている』
空気が変わる。
主人公の眉が動く。
「誰か?」
『そうだ』
『E-00ではない』
教育係が凍り付く。
“失敗作”も笑わない。
主人公が低い声で聞く。
「つまり」
大富豪は答えた。
重く。
静かに。
『兵器を目覚めさせている人間がいる』
誰も喋れなかった。
旧世界の亡霊。
感情を憎む者。
それとも。
感情に絶望した者か。
分からない。
だが一つだけ確かな事があった。
敵は兵器だけではない。
人間も動いている。
その時。
E-01が空を見上げた。
誰にも聞こえないほど小さく。
呟く。
「……何故だ」
その問いに答えられる者は。
まだ誰もいなかった。
今回のテーマは、
「人が選ぶ理由」
でした。
兵器は命令で動きます。
ですが人間は違います。
だからこそ難しい。
だからこそ恐ろしい。
今回で、
新たな敵の存在が示唆されました。
E-00だけではありません。
この世界には、
感情を否定したい人間もいます。
未完成の世界編は、
ここから人間同士の思想へも踏み込んでいきます。




