第72話:零番目の執行者
人は最初を特別だと思う。
一番最初。
最初の成功。
最初の失敗。
最初の後悔。
だが時々。
最初だからこそ、
誰よりも歪んでしまう事がある。
誰も喋らなかった。
端末の画面。
そこに映る巨大な影。
《E-00》
教育係の顔色は悪い。
主人公が口を開く。
「そんなにヤバいのか?」
教育係は即答しなかった。
数秒。
沈黙してから言う。
「E-01が完成形です」
主人公がE-01を見る。
白と黒の執行者。
感情を知り始めた存在。
教育係は続けた。
「ですが」
言葉が重い。
「E-00は違います」
画面を拡大する。
そこに映るのは。
巨大な人型。
だが。
どこか歪だった。
腕が長い。
背中には無数の装甲。
そして。
顔が無い。
主人公が眉をひそめる。
「化け物じゃねぇか」
教育係は頷いた。
「そうです」
静かな声だった。
「だから封印されました」
風が吹く。
その場の空気が冷える。
“失敗作”が珍しく真面目な顔をしていた。
「聞いた事がある」
全員が見る。
“失敗作”は空を見る。
「俺達の開発時代にな」
主人公が聞く。
「どんな奴だ」
“失敗作”は笑わなかった。
「感情を学ぶ前に」
少し間。
「人間を嫌いになった奴だ」
沈黙。
教育係も否定しない。
主人公の胸が少し重くなる。
E-01が聞く。
「質問」
教育係が振り向く。
「E-00は何故人類を敵視する」
教育係は答える。
苦しそうに。
「人間がそうしたからです」
空気が止まる。
主人公が目を細めた。
教育係は続ける。
「E-00は最初の執行者でした」
「最初の?」
「はい」
遠い過去を見るような目。
「感情研究実験体」
主人公が嫌な予感を覚える。
教育係の声は震えていた。
「人間の感情を理解させる計画でした」
E-01が静かに聞いている。
教育係は拳を握る。
「ですが失敗しました」
「何があった」
主人公が聞く。
教育係は答えた。
「感情を学び過ぎたんです」
沈黙。
「悲しみも」
「怒りも」
「孤独も」
「憎しみも」
「絶望も」
「全部」
主人公の顔から笑みが消える。
教育係は小さく呟いた。
「そして」
「人間を許せなくなった」
風が吹く。
誰も言葉を発しない。
その時だった。
E-01が空を見上げた。
「理解」
教育係が見る。
E-01の瞳は揺れていた。
「感情は苦しい」
教育係は頷く。
「はい」
「孤独も苦しい」
「はい」
「失う事も苦しい」
「はい」
E-01は少しだけ目を閉じる。
少女の笑顔。
主人公。
教育係。
“失敗作”。
今まで出会った人達。
脳裏を過ぎる。
そして。
ゆっくり呟いた。
「だが」
全員が見る。
E-01は静かに言った。
「それだけではない」
教育係の目が見開かれる。
主人公は少し笑った。
「そうだな」
苦しい事ばかりじゃない。
温かいものもある。
嬉しい事もある。
誰かを好きになる事も。
守りたいと思う事も。
E-00は。
その答えに辿り着けなかったのかもしれない。
その時。
端末が再び反応した。
警告。
赤い表示。
教育係が確認する。
そして。
絶句した。
「移動しています」
主人公が聞く。
「どこへ」
教育係は顔を上げる。
声が震えていた。
「こちらです」
全員が固まる。
画面の中。
巨大な反応が動いている。
真っ直ぐ。
迷いなく。
こちらへ向かって。
まるで。
最初から目的地が決まっていたみたいに。
そして。
モニターへ新たな文字が表示された。
【目標認識】
【執行者E-01】
【排除開始】
E-01の瞳が揺れた。
零番目の執行者は。
最初から。
E-01を探していた。
今回のテーマは、
「感情の光と影」
でした。
E-01は感情によって変わりました。
ですが。
同じ感情によって壊れた存在もいます。
それがE-00です。
未完成の世界編の核心は、
感情は本当に人を幸せにするのか。
という問いでもあります。
次回から、
E-00との因縁が本格的に動き始めます。




