第71話:北へ
人は時々、
進まなければならない。
答えが無くても。
不安でも。
怖くても。
立ち止まれば、
何も変わらないからだ。
だから人は、
震える足で前へ進む。
夜風が吹いていた。
燃え続けていた街も、
少しずつ落ち着きを取り戻している。
だが。
誰も安心はしていなかった。
北。
その言葉だけが頭に残っている。
主人公は瓦礫へ腰を下ろした。
「結局」
ため息を吐く。
「また面倒事か」
“失敗作”が笑った。
「お前の人生、
ずっと面倒事だろ」
「否定できねぇな」
教育係は端末を睨んでいた。
何度も。
何度も。
通信記録を確認している。
だが結果は同じだった。
「本物です……」
主人公が見る。
「何が」
「大富豪です」
教育係の顔は少し青い。
「しかも予想以上です」
「どういう事だ?」
教育係は息を吐く。
そして。
ゆっくり言った。
「旧世界最高権限者の一人です」
沈黙。
“失敗作”が吹き出した。
「は?」
主人公も固まる。
「は?」
教育係は真面目な顔のまま続けた。
「管理者と同格です」
さらに沈黙。
主人公が空を見る。
「……あのジジイが?」
「はい」
「黒糖飴で揉めてたぞ?」
「信じられませんが事実です」
“失敗作”が腹を抱える。
「ははははっ!!
最高だろそれ!!」
教育係も少しだけ笑った。
ありえない。
だが。
主人公なら納得できる。
あの男はそういう人間だった。
その時。
近くで小さな声がした。
「おにーちゃん」
振り向く。
あの少女だった。
炎の中から助け出された子。
E-01へ近付いている。
E-01は少し困った顔をしていた。
最近よく見る表情だ。
少女は黒糖飴を差し出した。
小さな包み紙。
E-01が固まる。
「質問」
「なーに?」
「何故渡す」
少女は首を傾げた。
そして。
当たり前みたいに答える。
「だって」
笑顔だった。
「好きだから」
空気が止まる。
教育係が吹き出しそうになる。
“失敗作”が腹を押さえている。
主人公は顔を背けた。
E-01だけが固まる。
完全停止だった。
少女は続ける。
「助けてくれたもん」
E-01が黒糖飴を見る。
小さい。
軽い。
価値は低い。
合理性は無い。
だが。
なぜか。
胸が熱くなる。
「……理解不能」
少女は笑った。
「またそれ言ってる」
周囲から笑い声が起きる。
小さな笑いだった。
でも。
数日前なら存在しなかった笑い。
壊れた街の中で。
人は少しずつ生き始めていた。
その光景を見ながら。
主人公は空を見上げた。
黒い夜空。
その向こう。
北。
大富豪が待つ場所。
そして。
新たな脅威。
主人公は立ち上がる。
「行くか」
教育係が頷く。
“失敗作”が肩を鳴らす。
E-01も少女から黒糖飴を受け取った。
ぎこちなく。
本当にぎこちなく。
だが。
確かに受け取った。
主人公は少し笑う。
「似合わねぇな」
E-01が見る。
「否定しない」
一同が吹き出した。
その時だった。
教育係の端末が反応する。
警告音。
全員の表情が変わる。
教育係が画面を見る。
そして。
凍り付いた。
「そんな……」
主人公が覗き込む。
画面には。
衛星写真。
北方地域。
そして。
巨大なクレーター。
その中央に立つ一体の影。
識別コードが表示されていた。
教育係の唇が震える。
「旧制圧兵器……」
E-01の瞳が揺れる。
“失敗作”から笑みが消える。
教育係が呟いた。
「Eシリーズより前の世代……」
主人公が眉をひそめる。
「強いのか?」
沈黙。
教育係は答えた。
震える声で。
「最悪です」
その写真には。
人型とも機械とも言えない存在が映っていた。
そして。
識別名。
そこに記されていた名前は――
《E-00》
今回のテーマは、
「前へ進む」
でした。
街は少しずつ復興し始めています。
笑顔も戻り始めています。
ですが。
世界全体で見れば、
まだ混乱は始まったばかりです。
そして今回、
ついに新たな脅威が姿を現しました。
E-01より前に造られた存在。
E-00。
未完成の世界編は、
ここから次の大きな局面へ入っていきます。




