第64話:触れた事のない温度
誰かに触れる事。
誰かに触れられる事。
それだけで、
救われる夜がある。
完璧な世界は、
そんな“非効率”を切り捨てた。
だが――
未完成な人間達は、
その温もりの為に生きている。
ベルゼの赤い単眼から、
火花が散り続けていた。
巨体が揺れる。
警告音。
異常処理。
『理解……不能……』
機械音声が乱れている。
教育係が険しい顔をした。
「感情処理に、
内部演算が耐えられていません……!」
“失敗作”が目を細める。
「無理やり完璧に作ったツケか」
ベルゼは、
なおもE-01を見ていた。
『質問』
「……何だ」
『温カイ……トハ何ダ』
その瞬間。
周囲の空気が静まった。
E-01は少し黙る。
温かい。
その感覚を、
まだ完全には説明できない。
少女が、
そっとE-01の手を握った。
小さな手。
柔らかい温度。
E-01の壊れた指が、
微かに震える。
少女は笑った。
「これ!」
ベルゼが停止する。
『……接触行為』
『非効率』
少女は首を傾げた。
「でも安心するよ?」
その言葉に、
ベルゼの単眼が大きく揺れた。
処理。
解析。
だが、
答えが出ない。
主人公は、
その様子を静かに見ていた。
そして。
黒糖飴を一つ取り出す。
「おい」
ベルゼへ向かって投げた。
教育係が叫ぶ。
「な、何してるんですか!?」
“失敗作”が吹き出す。
「ははっ!
また始まったぞ」
黒糖飴は、
ベルゼの装甲へ当たって転がった。
ベルゼが見下ろす。
『……物体確認』
主人公は肩を竦めた。
「甘ぇぞ」
『……?』
「食ってみろ」
教育係が頭を抱える。
「兵器に飴を勧めないでください……!」
だが。
ベルゼは、
本当に困惑していた。
『何故』
主人公は静かに言う。
「知らねぇなら、
知ればいい」
風が吹く。
燃える街。
壊れた世界。
その中で。
ベルゼは、
ゆっくり黒糖飴を拾い上げた。
『解析開始』
数秒の沈黙。
そして。
『……糖分』
“失敗作”が腹を抱えて笑う。
「はははっ!
そりゃそうだろ!!」
主人公も笑った。
「まぁ、
最初はそんなもんだ」
ベルゼは止まる。
だが。
単眼は、
黒糖飴を見つめたままだった。
E-01が静かに言う。
「質問」
『……何ダ』
「お前は、
何の為に存在している」
ベルゼは即答する。
『秩序維持』
『世界正常化』
『感情排除』
E-01は、
小さく首を振った。
「違う」
『……?』
E-01は、
少女を見る。
老人を見る。
助け合う人々を見る。
不完全で、
騒がしくて、
面倒で。
でも。
そこには確かに、
“生きている”空気があった。
E-01は静かに言った。
「存在理由は、
誰かに決められるものじゃない」
主人公が少し驚いた顔をする。
教育係も、
目を見開いていた。
E-01は続ける。
「俺は今、
自分で選びたい」
沈黙。
ベルゼの処理音だけが響く。
『選択……』
『個体意思……』
その瞬間。
ベルゼの巨体が、
大きく揺れた。
赤い単眼が激しく明滅する。
警告音。
異常発熱。
教育係が叫ぶ。
「まずい!
自己崩壊を始めています!!」
人々が後退する。
だが。
ベルゼは攻撃しなかった。
ただ。
黒糖飴を握ったまま、
立ち尽くしていた。
『理解……不能……』
その声は、
どこか苦しそうだった。
E-01は、
ゆっくりベルゼへ近付く。
そして。
壊れた手で、
ベルゼの装甲へ触れた。
『……接触確認』
E-01は静かに呟く。
「これが、
温かいだ」
その瞬間。
ベルゼの単眼から、
初めて一筋の液体が零れ落ちた。
今回のテーマは、
「温度」でした。
この作品で描いている感情は、
派手な愛や友情だけではありません。
誰かに触れる事。
名前を呼ばれる事。
隣に誰かがいる事。
そういう、
小さな温もりです。
ベルゼは、
完璧に作られた兵器。
だからこそ、
“温かい”を理解できなかった。
ですが今回、
初めてその概念へ触れました。
黒糖飴も、
少しずつ作品の核心へ近付いています。
そして次回。
未完成の世界編は、
大きな転機へ入っていきます。




