08.
ほんっとうに面倒な仕事だった。
貧血と魔力欠乏で意識が薄れた中で、辛うじて屋敷まで戻って。
次の記憶は昼過ぎ、ベッドの中だった。
ロイドが討伐の証として金目の頭を落としたのは覚えている。
まだ頭がふらついているが、後始末を新人に任せきりにする訳にもいかない。無理やり立ち上がると、右腕の包帯が目についた。
屋敷を出れば、活気があった。小さな広場で駆け回る子供に、それを追いかける女性。男どもは連れだって農具を持って歩いていた。
畑の方へ歩いていけば、未だに漂う血の匂いに顔を顰めたくなる。相当暴れたしなあ、と昨日の戦闘を思い返す。
抉れた地面は、畑として利用するには手を入れないとまずいだろう。まあ、その辺りは組合がどうにか考えることだ。
隅の方に目立つ青髪を見つけて、そちらへ足を向けた。
「おい」
「ああ、イリヤ。起きたのか」
声をかければ、しゃがみ込んで何かしていたロイドは立ち上がった。傍らには屋敷の男もいる。
「何してんだよ。さっさと帰るぞ」
ちらりとしゃがみ込んでいた場所を見れば、小さく土が盛られている。その辺りに生えているような白い花も、そこに置かれていた。
「まるで墓だな」
「ああ、そうだ。食われてた魔狼のな」
言われ、昨日の異常を思い返す。
「金目が番だったから、群れもでかかったのか」
「それと、その番の子供が食われたのもでかいかもな」
言いながらロイドが森の方へ視線を向けた。
「村では、たまにあったんだ。金目の魔物同士がつがって、その群れがでかくなって、共食いが始まる――最初は子供の魔物から、だな」
「食いもんが足りなくて争うのは、人間も魔物も一緒ってことか」
業が深いと思う。統率者が増えれば、群れが増えるのは人間も獣も一緒だ。そう考えると、人間と魔物はあまり変わらないのかもしれない。
日が暮れる前に、何とかフルールの街へ戻ってくることができた。
今回は門番に止められることもなかったが、先日の門番が妙な笑みでロイドに手を振るのが違和感。
早足で組合へ向かう。近づけば、先日の苛立ちを思い出していた。
「おい、受付」
昨日のぼさぼさ頭を見つけて、だん、とカウンターに両手をつく。
「あー、戻ったんだねー」
相変わらず視線をこちらに向けることもなく、間延びした口調で返される。
えーっと、と言いながらごそごそと書類を出してはサインをしていく男に、せめてこっちを見ろと思う。
「ロイドとー、イリヤの依頼はー、魔狼退治、だったねー」
「ああ、そうだ。これの処理を頼む」
隣にやってきたロイドが依頼書を渡す。村を出る前に、屋敷の男からサインを貰っていた。
「えーと、うん、ちょっと待ってねー」
完了報告の書類を一緒に渡せば、受付の男はわずかに顔をしかめた。普通は報告書は一枚だからな。こいつが戸惑うのも無理はない。
意地の悪い笑いがこみ上げるのを堪える。
「報告書ー、こんなに必要なこと、あったのー?」
案の定、男は困ったようにロイドを見上げる。こいつの場合、本気でやってるから質が悪い。パラパラと報告書を捲りながらペンを走らせていた男が、一か所でぴた、と止まった。
「金目が、二匹いたのかー」
そりゃ大変だったね、と。それだけの言葉。うん、うん、と報告書をまとめて、男はロイドとイリヤに向き直った。
「じゃあ、今回の報酬ねー。金目二匹なら、ちょっと少ないけどー」
代わりに今日の宿代ぐらいはこっちに回して、との言葉に、ちょっとまてと静止の声を飛ばす。
「また一緒にするんじゃねえよな」
「えー?」
男の顔に、ありありと「面倒臭い」と書いてある。拠点変更も宿代請求も、全部セットでやろうとしていたのがわかる。
「俺は、誰とも組まねえんだよ」
人と一緒なんて煩わしい。くっそ面倒なことはやらない主義だ。
そう言えば、受付の男はんー、とペンを回しながらにやっと笑った。
「でもー、この依頼、達成できたでしょー?」
やりづらかったのー? と聞かれれば、言葉に詰まる。
確かにロイドは前衛として使える。イリヤ一人だったなら、きっとこの依頼はもっと時間がかかったと思う。
そこまで考えて、はたと気が付いた。
「そもそも俺が受けた依頼じゃねぇ」
元々はロイドが勝手に持ってきて、勝手に一緒に受けることになった依頼だ。
「でも、彼一人で行かせられたー?」
受付の言葉に、ぐっと文句を飲み込んだ。
あいつに貸した金はまだ返ってこないし、ここまで連れてきてすぐにとなると、さすがに目覚めも悪い。
理屈は色々つけられるが、結局答えは男が言う通りだ。
二匹目の金目。あれは確かにイリヤ一人では手間取っただろうと思う。そういう意味でも、ロイドと言う前衛はそれなりに使える。
「パーティ登録しといた方が、後々楽だと思うよー?」
この男の言葉に乗るのは癪だが、一理ある。
「ちっ、しゃーねぇ。この街にいる間だけな」
そこで、隣の当事者に何も聞いていないことを思い出す。
「文句ねぇな?」
おい、と軽く脇腹を小突けば、いいのか? と質問が落ちてきた。
「組合まで、と言っていただろう?」
「お前、こっちの話聞いてねぇのかよ」
「いや、聞いてたが……本当に、いいのか?」
困ったような顔しながら、口元がにやけてる。
こいつ放り出すと何するかわかんねぇし、まあ使えるし。
「良いって言ってんだろ」
理由を並べて肯定すれば、ロイドはぱあっと顔を明るくした。
1章終了。
2章始まりは9月頃予定です。




