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世界の終わりは夜から始まる  作者: leemero


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4/12

零時

家に帰ってからも、悠真は落ち着かなかった。

制服のままベッドへ腰を下ろし、スマホを見つめる。

知らない番号から届いたメッセージ。

崩壊した町の写真。

そして雨宮詩織の警告。

どれも現実味がない。

まるでホラー映画の中に放り込まれた気分だった。

だが現実は変わらない。

朝霧美咲は消えた。

誰も彼女を覚えていない。

それだけは紛れもない事実だった。

机の上に置かれた写真立てへ目を向ける。

小学生の頃に撮った家族写真。

父親と母親。

そして自分。

自然と父親の顔へ視線が止まった。

神崎修司。

十年前に失踪した父親。

当時は理解できなかった。

ある日突然いなくなり、警察も見つけられず、やがて周囲はその話をしなくなった。

だが今になって思う。

もし父親も美咲と同じだったら。

もし誰かに消されたのだとしたら。

そんな考えが頭をよぎり、悠真は首を振った。

考え過ぎだ。

そう自分へ言い聞かせる。

だが胸の奥に残った不安は消えなかった。

気付けば時計は十一時半を過ぎていた。

外では風が強くなっている。

窓ガラスが微かに震え、木々の揺れる音が聞こえてきた。

悠真はカーテンを閉めた。

理由は自分でも分からない。

ただ何となく。

窓の外を見たくなかった。

詩織の言葉が頭から離れない。

『零時になったら絶対に外を見ないで』

あの時の彼女は本気だった。

脅かそうとしていたわけじゃない。

本当に何かを恐れていた。

だからこそ気になる。

何が起きるのか。

何が見えるのか。

知りたい。

だが同時に怖かった。

時計を見る。

十一時五十五分。

あと五分。

部屋の空気が重い。

気のせいだと思いたかった。

だが確実に何かがおかしい。

風の音が消えた。

虫の鳴き声も聞こえない。

近所を走る車の音さえ。

世界そのものが息を潜めているようだった。

悠真は唾を飲み込む。

時計の針だけが静かに進む。

十一時五十六分。

五十七分。

五十八分。

そして。

十一時五十九分。

心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。

零時。

その瞬間だった。

世界から音が消えた。

本当に。

完全に。

何も聞こえない。

耳がおかしくなったのかと思うほどの静寂。

悠真は思わず立ち上がった。

そして。

ギィィィィ……

音がした。

爪でガラスを引っ掻くような嫌な音。

窓の方からだった。

悠真の全身に鳥肌が立つ。

ギィィィィ……

まただ。

確かに聞こえる。

誰かいる。

窓の外に。

理性が警告を鳴らす。

見るな。

絶対に見るな。

だが好奇心は恐怖より強かった。

ゆっくりと窓へ近付く。

あと数歩。

あと少しでカーテンに手が届く。

その時だった。

スマホが激しく震えた。

突然の着信に心臓が跳ねる。

画面を見る。

雨宮詩織。

連絡先を交換した覚えはない。

なのに表示されていた。

震える指で通話ボタンを押す。

「もしもし!」

『見るな!』

耳を突き刺すような声だった。

昼間とはまるで違う。

焦りと恐怖が滲んでいる。

『お願いだから見ないで!』

「何なんだよ!」

『まだ間に合うから!』

その瞬間。

ドン。

窓が鳴った。

何かがぶつかった音。

悠真の身体が硬直する。

ドン。

もう一度。

ドン。

ドン。

何かが窓を叩いている。

『聞いちゃだめ!』

詩織が叫ぶ。

だが。

その声より先に聞こえてしまった。

窓の向こうから。

懐かしい声が。

忘れるはずのない声が。

「悠真」

息が止まる。

「悠真」

朝霧美咲だった。

間違えるはずがない。

毎日のように聞いていた声。

その声が。

今。

窓の外から聞こえていた。

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