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世界の終わりは夜から始まる  作者: leemero


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3/11

夜の警告

神崎修司。

父親の名前が表示されたスマホを、悠真はしばらく見つめていた。

十年前に失踪した父親。

今まで何度もその名前を見てきたはずなのに、今だけは違って見える。

小日向ひなたが集めていた失踪記事には名前が残っていた。

他の記事は違う。

年齢や性別、失踪した場所は書かれているのに、肝心の名前だけが空白になっている。顔写真も黒く塗り潰されたように見えなくなっていた。

まるで、その人間だけが世界から削除されたかのように。

だが父親の記事だけは違った。

神崎修司。

確かにそう書かれている。

「神崎くん?」

向かいに座るひなたが不思議そうに首を傾げた。

「その人知ってるの?」

悠真は慌ててスマホを伏せる。

「いや、別に」

反射的にそう答えた。

ひなたは怪しそうな顔をしたが、それ以上追及はしてこなかった。

代わりにポテトを一本摘みながら言う。

「でもさ、この町って絶対変だと思うんだよね」

「どうしてだよ」

「失踪事件が多すぎるもん」

ひなたはスマホを操作しながら次々と記事を表示した。

十年前、七年前、五年前、三年前。

時期は違うが内容はよく似ている。

誰かが突然いなくなる。

捜索しても見つからない。

やがて話題にもならなくなる。

そんな記事ばかりだった。

「ネットだと神隠しって呼ばれてるんだよ」

「神隠しねぇ……」

悠真は曖昧に返した。

昨日までなら笑い飛ばしていただろう。

だが今は違う。

朝霧美咲が消えた。

しかも誰も覚えていない。

そんな現実を目の前で見てしまった以上、ただの都市伝説で片付けることはできなかった。

「ねぇねぇ、これ見て」

ひなたが楽しそうにスマホを差し出してくる。

そこには古い掲示板のスクリーンショットが映っていた。

『夜の向こう側を見た』

そんなタイトルだった。

「夜の向こう側?」

「有名なんだよ、この町の都市伝説」

ひなたは身を乗り出した。

「夜中になると町が別の世界になるんだって」

「別の世界?」

「そう。ビルが崩れてて、人もいなくて、全部廃墟になってるの」

楽しそうに話しているが、悠真には笑えなかった。

なぜなら。

雨宮詩織が言っていたからだ。

『夜の向こう側を見てはいけない』

偶然とは思えなかった。

「その書き込みした人はどうなったんだ?」

悠真が尋ねると、ひなたは肩をすくめる。

「知らない。アカウントごと消えてる」

「消えてる?」

「うん。過去ログにも残ってないんだよね」

妙な話だった。

失踪事件。

消えた名前。

消えたアカウント。

全部がどこかで繋がっている気がする。

気付けば外は暗くなっていた。

ファストフード店を出ると、昼間までの蒸し暑さが嘘のように風が冷たかった。

「じゃあ私は帰るね!」

ひなたは手を振りながら去っていく。

数歩進んだところで振り返った。

「神崎くん」

「ん?」

「夜の神社だけは行かない方がいいよ」

「なんで」

「都市伝説的に一番ヤバい場所だから!」

そう言うと本人は満足そうに笑い、そのまま走り去っていった。

悠真はため息を吐く。

神社。

昨日、美咲が消えた場所。

偶然とは思えなかった。

帰宅する途中、ポケットのスマホが震えた。

知らない番号だった。

一瞬迷ったが画面を開く。

メッセージは二行だけ。

『夜になる前に帰れ』

『見つかるぞ』

悠真の足が止まった。

誰だ。

ひなたの悪戯か。

だが、そんなことをするような性格ではない。

続いて画像が一枚送られてくる。

悠真は恐る恐る開いた。

そこに写っていたのは町だった。

だが見覚えのある町ではない。

道路はひび割れ、信号は倒れ、ビルは崩壊している。

まるで何十年も放置された廃墟だった。

そして写真の中央。

黒い人影が立っていた。

神社で見たあの影だった。

全身が総毛立つ。

その瞬間だった。

背後から声がした。

「見ちゃったんだ」

悠真は反射的に振り返る。

街灯の下。

雨宮詩織が立っていた。

昼間と同じ無表情な顔。

だがその瞳だけは焦りを隠せていなかった。

「雨宮……」

「もう遅いかもしれない」

詩織はそう呟くと、崩壊した町の写真を見つめた。

「今夜、何があっても窓の外を見ないで」

「だから何なんだよ」

悠真は思わず声を荒げる。

「知ってるなら教えろよ!」

詩織は唇を噛んだ。

何かを言おうとする。

だが次の瞬間、顔を歪めて胸を押さえた。

まるで激しい痛みに襲われたようだった。

「っ……!」

「おい!」

「ごめん……まだ話せない」

苦しそうな声だった。

そして彼女は最後に一言だけ残した。

「零時になったら、絶対に外を見るな」

そう言い残し、夜の闇の中へ消えていった。

悠真はその場に立ち尽くす。

スマホには崩壊した町の写真。

頭の中には雨宮詩織の警告。

そして胸の奥には、どうしようもない予感が渦巻いていた。

今夜、何かが起こる。

そんな気がしてならなかった。

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