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その7:「惚れた女なら、一人で支えてみせろ!」

「うわっ?!/おう?!/ひっ!!/きゃ?!」

 台にしていた水槽が崩れ落ちて、四人は水の中に投げ出された。

 志音は、落ちる瞬間、咄嗟にアミカナの片方の脇を掴んでいた。

 ……今度こそ!……

 渾身の力で引き上げようとするが、動けないアミカナの体は驚くほど重かった。そのまま、濁った水底へと引きずり込まれる。

 が、不意に強力な力がアミカナにかかり、志音は、抱えた彼女ごと水面に引き出された。

 顔を濡らす前髪を慌てて掻き上げた志音が見たのは、片手でロープを掴み、アミカナのもう一方の脇を抱えたシオンだった。

「志音! お前も掴まれ!」

 彼に言われて、志音は慌ててロープに手を伸ばした。二人は、体の正面に流れを受けるアミカナの両脇を抱えて、それぞれがロープに掴まる形になった。

 シオンのおかげで、志音の腕にかかる力は格段に小さくなったが、僅かな時間差で、アミカナの体は更に軽くなった。同じくロープに掴まったミカが、彼女を片腕で後ろから抱きかかえていた。

 三人は、足のつかないまま、流れに振り回されながら、それでもアミカナが水に没しないよう、必死に支えていた。

 一方のアミカナはパニックになっていた。声とも息とも付かない音を発しながら、胸と肩とを激しく不規則に動かす。見開かれた目は完全に焦点を失っていた。

「落ち着け、脳筋! お前、呼吸は必要ないんだろ?!」

 シオンが声を掛けたが、アミカナの痙攣は収まらなかった。

「アミ! 落ち着いて! ゆっくり深呼吸するんだ!」

 志音が必死に耳元で叫ぶ。

「ほら! ゆっくり吸って!」

 志音に促されて、引き攣りながらも胸郭を広げようと試みる。

「そしたら、ゆっくり吐いて! 周りを見ちゃダメだ。天井を見るんだ!」

 痙攣に紛れて、彼女は何度も頷いた。

 二度、三度と深呼吸――実際は、『深呼吸』という名のおまじないだったが――を繰り返し、少しだけ、アミカナの震えは小さくなったようだった。相変わらず呼吸は荒かったが、汽笛のように喉が鳴る音はほぼ収まっていた。

 その様子を唖然とした表情で見ていたシオンは、やがて笑った。

 ……なるほどね……

 その後も、四人は流れに翻弄され続けたが、やがて、彼らの重さに耐える天井裏の梁の軋みは、次第に小さくなっていた。

 シオンは声を上げた。

「よし! 流れは大分収まってきてる。このまま勢いがなくなったら、水の中を歩いて出口を探すぞ!」

「出口なら志音君が知ってるわ! 彼、フロアマップを覚えてるって」

 ミカの声に、シオンは驚いて志音を見た。

「……さすがは俺のコピー。抜かりないな……」

「……だろ?……」

 両腕にかかる力に眉根を寄せながらも、微笑んだ志音はシオンの口調を真似た。

 しかし――

 アミカナの体が次第に重くなっていくような感覚を感じたシオンは眉を顰めた。後ろを振り返る。

 アミカナの背後に寄り添ったミカは、青い顔をしていた。

「ミカ! どうした?!」

 シオンの声に、無理矢理笑顔を作る。

「……ドジったわ……ガラスで足を切っちゃった……血が……止まらない……」

「……ミ……ミカ?!……」

 驚いたアミカナが必死に振り返る。ミカは、彼女の背中にそっと頬を寄せた。

「……アミカナ……ごめんね、ずっと辛い思いをさせて……でも……志音君がいれば……きっと大丈夫……」

 囁くように話しながら、アミカナの背中から腰へと、ミカは少しずつずり落ちていった。

「ミカ?! ミカ?!」

「ミカ! しっかりしろ!」

 シオンが叫んだ時だった。辛うじてロープを掴んでいた彼女の左手から力が無くなり、ミカは一気に流れの中に飲み込まれた。

「いやぁ!! ミカ!! ミカ!!」

 ミカの消え去った方向と、叫ぶアミカナを交互に見て、シオンは舌打ちした。

「志音! お前はアミカナを連れて脱出しろ!」

「シオン?!」

 驚く志音に、彼は唇の端を釣り上げた。

「惚れた女なら、一人で支えてみせろ!」

 そういうと、シオンも流れの中に飛び込んでいた。

 アミカナの体重が一気に自分の腕にかかる。歯を食いしばって、志音はアミカナを引き寄せた。

「ミカが!! ミカが!!」

 動けないまま、流れの先に目をやって叫び続けるアミカナに、志音は顔を近付ける。

「アミ! 大丈夫! ミカさんなら大丈夫だ!」

 彼の必死の呼びかけに、アミカナはようやく彼の顔を見た。恐怖と絶望に打ちのめされ、唇を震わせる彼女に、志音は微笑んだ。

「あいつが……必ず助ける!」

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