その6:「……絶対、言えない……」
突然、天井の一角が四角く抜け落ちた。驚いてシオンが顔を上げると、開いた空間からミカと志音が顔を出した。
「ミカ! 来たか!」
思わず、喜びを隠し切れない声が出る。
「シオン! アミカナ! 二人とも大丈夫?」
「ああ、何とかな」
「よかった!……そこからジャンプできる?」
シオンは顔を顰めた。
「いや、恐らく無理だ。下はガラスだ。強く踏み込めば割れる。何より、脳筋が水恐怖症で動けねぇ」
「アミカナが?!」
ミカは驚いて、シオンの足元に横たわるアミカナに目をやった。眉根を寄せる彼女と目が合う。
「そっから何か垂らせねぇか? ロープ的なものを」
「わかった! ちょっと待って」
天井裏に戻りかけて、ふと、ミカは改めて下を見下ろした。二人の周りに渦巻く大量の水に、眉を顰める。
……大水槽が割れたとは言え、水が多過ぎない?……
……もしかして、雨水?……
確かに、今日は朝から土砂降りだった。大水槽が割れたことで、何かしらのトラブルが起こり、外の水まで流れ込んでいる可能性はある。
……急がないと!……
「ミカさん! この辺りには、ロープになりそうなものなんてないよ」
一足先に周囲を窺った志音が言う。ミカは小さく舌打ちした。
「志音君! 服を脱いで!」
「え?」
「服でロープを作る!」
言い終わる前に、彼女は躊躇なくブラウスを脱いでいた。何の前触れもなく、目の前に突然白い肌が晒されて、志音は慌てて顔を逸らした。続いて、スカートも脱ぎ捨てられる。
「志音君! 急いで!」
下着姿となったミカに急かされて、志音は弾かれたようにTシャツとジーンズを脱いだ。
脱いだ服を引き裂いて結び合わせ、即席のロープを作っていく。
しかし、ブラジャーまで外そうとするミカに、志音は慌てた。
「ミカさん! それはいいです!」
「え? でもロープの長さが……」
「足りてます! 足りてますから……」
「いや、足りないでしょ?」
「もし足りなかったら、僕がパンツを脱ぎます」
「え? それはちょっと……」
……そこは躊躇するんだ……志音は呟いた。
「見せられるより、見られる方がましです! ロープ、下ろしますよ!」
一方を天井裏の梁に括りつけて、志音は、ロープのもう一方の端を、シオンとアミカナの上空に投げ落とした。それをシオンがしっかりと掴む。
ロープを伝って、二人は台の上へと降り立った。
「助かったぜ、ミカ。よくここが分かったな」
「アミカナの叫び声が聞こえたから……そうだ!」
ミカはアミカナの近くに身を屈めた。
「何があったの?! アミカナ!」
ミカの言葉に、アミカナは激しく動揺していた。彼女の後ろには、志音も立っている。
……そんな……自分の不完全さを悲観して、泣く代わりに叫んでいたなんて……しかも何度も何度も……そんなこと……
「……絶対、言えない……」
「……絶対……言えない?……」
ミカは聞き返した。冷や汗が流れる。まさか……。アミカナは台の上に四肢を投げ出したままだった。繰り返し叫んで……最後は脱力して打ちひしがれる、絶対に言えないことって……ま、まさか……その……欠けている部分を……無理矢理?!
ミカは弾けるようにシオンを振り返った。
「シオン……あなた、アミカナに何をしたの?」
驚いてシオンは後ずさった。
「待て待て! 俺はこいつを助けただけだ!」
「助けられた人が、何で何度も絶叫するの? しかも彼女、動けないじゃない……」
「いや、だからそれは!……おい! 脳筋!」
シオンの助けを求めるまなざしから、アミカナは辛そうに目を逸らした。体を震わせる。
……ごめん、シオン。言ったら私が死ぬ。だから……あなたが、死んで……
その様子に、ミカは全身がざわめいた。
……アミカナが……顔を背けて……震えている?!……
「言いなさい! 何をしたの?!」
恐ろしい剣幕で、ミカはシオンの胸倉をつかんだ。シオンは溜息をついた。
「……ったく、何で俺はこんな役回りなんだ……」
その時だった。
四人が乗った水槽が軋んでいることに、アミカナは気付いた。背中に不吉な振動が伝わる。
……待って!……いやだ!……割れる!……
目を見開いたが、恐怖で声が出ない。早く何とかしないと、みんな濁流の中に落ちる!
「どうした、アミ?」
異変に気付いた志音が声をかけた瞬間、水槽は崩壊した――




