お出かけ!
「女子だけの場ってキツイな」
「ご主人様も……いや、魂が違うのだったな」
帰宅して、俺がそんなことを呟けばカゲがそう返した。
転生云々を知らずとも、俺の魂にぶら下がるイチモツはカゲの理解を速めた。
「あ~。もう絶対いかねぇ」
仰向けになっていた身体をうつ伏せにしながらそう言った。
人化させたカゲに膝枕をさせてみたがなかなかに良い。なんだかむなしい気もするが気のせいだろう。
「つーか、あの菊日とか言うのもだるかったしな」
「せめて顔を見て話せ」
太ももに話しかけるとそんなことを言われた。
菊日自体に悪感情はないが、その程度で?みたいな反応は良くない。
まあ、俺はバックレることぐらい簡単だから次から魔法少女コミュニティに顔を出さなきゃいい話なのだが。
そんなことを考えているとスマホに着信が入り、名前を確認する。
どうせ琴浦だろうとどう断るか考えてみてみれば、送り主は綾谷もみじだった。
前を向き続け努力する推定主人公からの連絡だ。無視は出来まい。
そう思って、スマホを開くと一件のメッセージが届いていた。
◆
「あ、比果さん。おはよ!」
「ごめん。遅れた」
「ううん。そんなことはないよ!」
もみじからのメッセージは次の休みに一緒に出掛けないかと言う旨の物だった。
それによって、俺たちは予定を決め、待ち合わせをしていた。
予定のニ十分前に集合場所についてみればすでに彼女は居た。
前世で待ち合わせをするときなど、五分前が精々だったが、真面目そうだからきっと早く来るだろう彼女を待たせては悪いと早めに来たが、どうやらそれより前から居たようだ。
未だ、ニ十分前を指す時計の下に立つ彼女は、精いっぱいのオシャレをしてきているようで、一瞬見惚れそうになる。
「可愛いね。その服」
「ほ、ホント!?良かった!」
前世では少しキモイかと思って言えない言葉でも、今の姿ならさらりと出る。転生様様だ。
「わ、私も、比果さんの私服初めて見た!そ、その、可愛いね!」
言葉をつっかえつつも彼女はそう言う。
確かに今まで、休日でも制服を着ていたしな。大体、私服自体持ってなかったし。
そんな俺の今のファッションは、試行錯誤をしたゆえの丈の短い物でなくプリーツスカートはそのまま流用したものだった。
スカート系や丈の長いズボンは厳しかったが、そもそも制服と同じものをはけば取りあえずの選択肢が増えると気付いた。
「あ、でも、スカートはいつものと同じなんだね?」
「え」
普通に気付かれた。
だが、まあ、制服のスカート程分かりやすいものではないが、毎日履いているのを見ていれば分からなくもないのか。
「まあ、いいや。それより歩こ」
「うん!」
待ち合わせに便利な時計の下では、人が多い。
そう思い、もみじを促すようにその場を離れた。
なんか横を歩くもみじの距離が近い気がするが女子はそんなものなのだろう。
「そう言えば、今日は髪違うんだね」
「ああ、まあね」
隣を歩くもみじは俺の髪を見てそう言った。
俺の場合規定された髪型より短くすると逆行が発現するため、あまり大きく髪の印象を変える事は出来ない。
だが、短くすることが出来ないだけで長くすることはできるし、男の様な短髪じゃなければ結び方一つで印象は大きく変える事は出来る。
だが、そもそもの話、キャラクリをした時点で、デフォルトの髪は俺の理想であり、セットも変える必要もない。
故に、態々印象を変えようと画策することもなかったのだが、不意に出かけると言うことで少しアレンジをしてみたのだ。
素人の俺には色々と難しいかに思われたが、人化したカゲにネットでしたい髪型を見せたら上手にやってくれた。
家で散髪するときに後ろ髪など任せていたが、やはりコイツ多才過ぎる気がする。
「そ、そそ、それってっ、私とお出かけするためにおしゃれしてきてくれたってこと?」
「うん、そうだね」
まあ、間違ってもないだろう。
そう思っていると横でポッともみじの頭から湯気が出た。何それ、魔法少女の特殊能力?
「う、嬉しいな。……比果さんって、自分の髪型気に入ってるみたいだったから」
「え?」
「だって、そうでしょ。ほんの数ミリだけだけど、一週間ごとに切って整えてるから」
「え、いや、え?……………………え?」
確かに、カゲに手伝わせて維持していたが目に見えて分かるほどにやってないぞ。
ただ、何処までが逆行の範囲なのかわかりやすくするために整えていただけだ。
今でこそ、なんとなくわかって来たから維持する必要はないのだが。
「でも、大変だよね。多分美容室じゃないだろうし」
「……まあね。でも、切り取り線が付いてるんだよ」
「?」
逆行と言う名のな。
間違えるとやり直し機能付きだ。
「で、行きたいお店って?」
「う、うん。それはね!」
そう言って彼女は、スマホに表示させたそれを見せる。
身体を押し付けるようにそれを見せて来る。
「ここ最近できた商業施設なんだけど、服とか見たいの!あと、ここも!」
「カフェ?」
「うん。確か珈琲好きって言ってたから。ここの珈琲がおいしいって見たんだ」
態々俺のことまで考えてくれるとは優しい。
彼女の提案に快く乗りショッピングをしつつカフェへと向かった。
「……そう言えばこうやって友達と遊んだことなかったな」
「そ、そうなの?」
コーヒーを啜りつつそんなことを言えば彼女は驚いて見せた。
驚くか?
まあ、今世での話だが。今世では交友関係が極端に狭いからな。
「だから、もみじさんが初めてだよ」
何故か顔を赤くするもみじを見つつガラス越しに空を見た。
ああ、やっぱりか。
今日は珍しくインベーダーに会わないなと思っていたが、気のせいだった。
やはり、気を抜くと現れる。
「もみじさん。お会計して一旦でよ」
疑問符を浮かべるもみじを連れて退店する。
建物の影に移動して、空間を指さす。
そこには罅が入り、今にもインベーダーが這い出ようとする様子があった。
「あれは……うん。分かったよ」
態々説明するまでもなく彼女は、頷く。
彼女は手早く変身して、傍らには餅兎だったか、使い魔が現れる。
そして、俺も変身する。蝶を飛ばして全身を隠しつつ疑似制服を展開する。
成功したことを確認して、物陰を飛び出した。
そして、インベーダーが這い出たのは同時だった。
熊のような様相のインベーダーだ。
長らく知性体を見ていたからか、人型以外は新鮮に感じる。
「じゃあ、行くよ」
「うん!」
俺が踏み出せば、熊が腕を大きく振る。
それを、跳躍して避けつつ地上からの追撃を入れようと腕を動かした熊に舌打ちをした。
インベーダーはやはりこの世界の生物ではない。それの事実を突きつけるように、奴もアッパーカットを決めようと跳躍する。
そして、そこへもみじがステッキで照準を合わせる。
「──輝露」
───パチンッ
そして、俺は下方向から来る熊の攻撃を逆行ですり抜ける。
俺は空中から一気に跳躍前の地面に足を付けていた。
そして、俺が離脱するのを予期して撃たれたもみじの魔法が熊へ直撃する。
熊インベーダーは損傷を受けつつも未だ健在。
落下の体勢から、もみじへ目標を定める。
そして、急接近したもみじへの攻撃が当たる前に彼女に出力で生成した鎖を巻きつけ引き寄せる。
生身なら、キツイだろうが。生憎と魔法体。彼女への負担はない。
そして、引き寄せられた彼女と入れ替わるように俺は駆ける。
熊インベーダーへと刃を伸ばし、確実に攻撃を入れるも、腕を切り落とすにとどまる。
「朝桜さん」
そして同時に行うのはもみじの足元に出力によって足場を生成して押し上げる。
「──輝露っ!」
収束された魔力は確実に熊インベーダーへと迫り、貫いた。
「ごめん。巻き込んで」
変身をとき、飲み物を買って来てもみじに渡す。
「ううん。一緒に戦えてうれしかった」
もみじは首を振ってそう言ってくれた。
今回の敵はA級には程遠い。C級が精々だ。
だが、もみじはE級、彼女一人では簡単な相手ではない。
実際、俺は彼女が守られてばかりであったのを気にしているのを知っていたから、今回の事態を利用した。
だから、俺からは致命となる攻撃はしていない。しようと思えば、初めの一撃で白武器を生成して串刺しにして吸収すれば終わった。それどころか、拘束を必要とせずに吸収の一手で終わらすことも難しくはない。
俺に余裕があって、ひたむきに努力する彼女に少しでも、自信を付けようとしての行動だった。
だが、思ったよりも熊インベーダーの機動力が高かった。そう言ったところを見極めそこなった時点で反省をするべきだろう。
──少しいいか?
──ん?どうした?
自身の行動に反省していると、カゲがテレパシーで話しかけて来た。
俺の代わりに警戒を行っていることもあるので、何か異常があったかと思えばそうではないらしい。
──少し、我も一人行動しても良いか?
──ん?珍しいな。いいよ。金いる?
──電子決済で事足りる。
──そか。
どこまでも文明的な奴だ。
しかし、本当に珍しい。カゲが一人行動って、思い返せば琴浦への生贄に捧げた時くらいしかないかもしれん。
自分の意思となると初めてだ。
まあ、制約があるとは言え、よく尽くしてくれてるから少しくらい良いだろう。
と言うか、マジでネットしかやんないからちゃんと現実世界に触れさせるべきだ。
こっそりとマスコットボディのまま離脱して、遠くで人型になったのを確認して俺はもみじに引きつられて目を離す。
◆
カゲは人化して人ごみに紛れる。
休日、それも商業施設そのものがオープンしたてとあって、人が多い。
そんな中を比果比五子に強要された少女姿で歩く。
艶のある黒髪を下ろして、模倣した学生服を揺らす。
歩く姿は姿勢の良さを感じさせるのは元来のものか、はたまた中身が人でないものである故のものか。
カゲの姿は少々行きかう人と比べると小柄であり、線が細く見えた。
とは言え、細すぎることがないのは比果比五子のプロデュースによるものだろうか。
そんなカゲは、自身と誓約によって結ばれている比果比五子を思い出す。
彼女が目をかけるもみじと言う少女とのショッピング。
比五子本人は気付いていないだろうが、今日の彼女はどことなく機嫌がいい。
スンとした分かりにくい表情はいつもと変わらないがいつもより表情が豊かであると分かるのはカゲだからだろう。
(今日くらいは邪魔されず過ごさせてやるか)
内心そんなことを考えつつ進むのは、先ほど熊型インベーダーと接触した辺りだ。
そして、そこを見渡せる建物の屋上へと上がった。
立ち入り禁止であるのだろうそこへエネルギーの圧縮で空中に足場を生成して昇る。
人目は認識阻害の応用で逸らす。自分にしか使えないが、今は十分だった。
そして、屋上へ上がれば一人の少女が居た。
その姿は魔法少女。そしてカゲには見覚えがあった。
「魔法少女菊日」
どういうわけであるのか魔法少女コミュニティでは、魔法少女コフィンである比五子に話しかけていた少女、菊日の姿があった。




