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TS転生した俺は魔法少女になれないらしい  作者: えとう えと
一章

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19/29

決着!


 昔家族がインベーダーに襲われたとき、助けてくれた“あの人”は終わった後に不思議な様子を見せた。


「怪我はない?……あれ?」


 酷く傷ついた子供に対して出来るだけ笑いかけるように表情を作っていたのだと今なら分かる。

 そんな彼女の表情が一瞬驚愕に染まったのを覚えている。


「どうしたの、それ?」


 尻もちをついた時に服にしみこんだ血と、もみじの身体に大きくつけられた切り傷の跡。

 でも、切れた服から覗く肌は血に濡れているが傷一つない。

 その時のもみじには、自分の姿など見ることは出来なかったが、視界に映る“あの人”の後ろの死角になった部分には黒く骨の装飾を付けたインベーダー以外に霧散しかけた三体のインベーダーの影があった。





 ◆


「くそ」


 間に合わなかった。

 原作だとかゲームだとか、そんな考えを持っていたせいで無意識に綾谷もみじは助かるものだと思っていた。

 別にこの瞬間まで悠長に彼女が致命の一撃を受けることを待ってたわけではない。

 だが、その事実は意識の違いで覆せたのではないかと思えてならなかった。


 ただ、俺が次のアクションにとる前に最初に反応を見せたのはクワガタインベーダーだった。


「なんだ、こりゃ」


 綾谷もみじから引き抜いた腕を怪訝な表情で確かめるように動かした。

 その様子に疑問を抱きながらもクワガタ野郎への反撃の一手の機を伺っていたとき、もみじの身体が、いや、指先がほんのわずかばかり動いたのが見えた。

 わずかばかりに動いて、彼女の体とインベーダーの体の間に火花が散って両者の身体は数メートルの距離をとった。

 そして、それは目に負えぬほどの速度でのもみじの体によっての振り払いであることは、しかりと地面に足の裏をつける彼女の体を見ればわかった。


 時に、人の体の比率に対して、瞳の大きさはどれほどあるだろうか。

 そんな疑問が湧いて出るほどに、彼女の顔に携えたほんの数センチにしか及ばない瞳が目を惹いた。

 真っ赤な瞳だった。血のような宝石のようなそれがおそらく魔眼だとわかるのは、曲がりなりにも擬似的に再現された魔眼を使用した経験からくるものか。


 とにかくそんなことを思って、立ちあがろうとして足元にもみじの靴を見たのは同時だった。


 ───パチンッ


「っ──ッ!」


 遅れてきづくのは、カゲが俺の髪を切り「逆行」が発動したことだった。

 そして遠のいた視界では、赤い魔力の渦が大気を削る光景を見る。


「カゲ、次も躱せるか」

「ああ、行け──」


 今この状況に対して、理解が追いついているわけではない。

 だが、カゲに回避の一切を任せ、他のモーションに専念しなければ切り抜けることはできないと判断していた。

 しかし、それでも、その動きを捉えることはできない。


 かろうじて行ったのは、計十二層にも及ぶ盾の生成。

 だが、そのことごとくは粉砕され、放出された魔力の本流は俺の意識を刈り取った。





 ◆


 綾谷もみじに起こった事態は、精霊魔眼の一つ「赤の魔眼」によって引き起こされたものだ。

 通常の魔眼と違い、人の部位ではなく精霊自体が眼球を模し、寄生する精霊魔眼は器たる宿主が致命的な攻撃を受けた時、防衛本能として面に現れる。

 精霊魔眼は、魔力によって宿主の体を操り、その行動は本能というだけあって反射に近い。


 例えば、今現在起きている状況に照らし合わせてみれば、綾谷もみじの身体を中心にした半径幾許かに存在する魔力を有する対象の排除がなされる。

 敵味方の判断はなしに、自身から一番距離の近い個体から排除にあたる。

 目覚めの瞬間、彼女に一番近づいていたのはクワガタの特徴を有したインベーダーだ。

 ゆえに初動は当個体への攻撃だった。


 しかし、それによって起こったのはわずかばかりのインベーダーの身体の後退。

 これにより、起こったのが精霊魔眼の排除行動優先順位の変動。

 相対的に、その場に倒れ込んでいた魔法少女コフィンこと比果比五子との距離が最短となった。


 ただ、皮肉なことに命を奪うまでに至らなかったのは彼女の体が真に魔法体ではないからか。

 魔法少女になれぬ身体は致命を防ぐに至った。

 そして、身体自体がインベーダーの様にエネルギーで構成されたコフィンの使い魔であるカゲは瞬時に「使い魔収納」によって身を隠した。

 これで、精霊魔眼の判定を潜り抜けたのもやはり幸運というものだろう。

 本来わずかにでも、漏れるエネルギーが滿汐という緊急事態にあって大気の魔力濃度が高まることによってカモフラージュされる結果となった。


 そして、この瞬間、精霊魔眼はインベーダーへと目標を変える。


「オイ、今のなん──」


 知性体ゆえの会話。

 しかし、精霊魔眼には関係ないとばかりに、瞬く間に接近し膨大な魔力をぶつける。

 まるで人が攻撃するような動きではない。

 ゆえに、予備動作もなく、インベーダーは避けきれない。


「くそがっ!」


 黒く光沢をもつ外骨格が割れる。

 今まで、傷ひとつつくことのなかったそれは、深々とそのみを砕かれる。

 だが、そこでは終わることはない。

 インベーダーが振り下ろした腕は、まるでおもちゃかのように根本からちぎれ宙を舞う。


「ッ!?──ざけんなや!オイ!」


 激昂するも、かまいたちのような魔力の風が通り抜け、左手首、右腿、左股関節がもげるように取れた。

 その事実に一瞬、気づかず、背後を手足が舞う中で無様に地面に落ちた。


「オイ、オイ!どうなってるクソが!ふざけんな。おいくそ、死ねや。まじでおい!死ね死ね死ね死ね死ね死──」


 屈辱に喚き、呪いの言葉を吐きながらついに頭部を飛ばされる。

 その瞬間、機械の電源が落ちる様にして赤い(ランプ)が瞳から消えた。

 その場にいた魔法少女雪砂は度重なる戦闘と損傷によって変身がとけ、同時に意識もなかった。それゆえの、排除対象の消失の判断だった。





 ◆


 クワガタとDQNの合体インベーダーの末路は、後に情報として知った。

 死に際の覚醒みたいなお目目ピカピカもみじに首をもがれて死んだらしい。

 あと、S級とか言ってたけど、どうやら委員会によるミスらしい。いや、システム上の反映ミスとか言ってたような気もするが、まあ、とにかくあいつはS級ではなかったらしい。


 手も足も出なかった俺からすれば、にわかには信じられないが紛れもない事実だった。

 正直あれでA級ならS級ってどんなに強いんだって話だが。

 まあ、知性体というだけで無条件にA級判定されるのだから、ピンからキリまであるガバガバ判定になるのは仕方のないことなのかもしれない。


 色々思うところはあるものの、俺の寝ている間に滿汐は終わっていた。

 天気予報ガン無視のドス黒い雲は消えて、夏が近いということもあってか暖かな日差しが出ていた。

 回復ポットよろしく傷を癒してくれる擬似制服のお陰でなんとか、外傷はなくなり、傷だらけになったのが嘘のように肌は元通りになっていた。

 まあ、大怪我負ってようが、本来魔法少女は魔法体ということもあって、周りの人間が病院へ運んでくれることはないのだが。

 よほど血を流していれば話は違うが、実際服を着ていれば傷の有無などわかりはしない。


 まあ、なんにしても動けるようになったので、カス……失礼。カスタマーサポートにクレームを入れることにした。

 無論、直談判だ。


「おい、よくもこんなもんを使わせやがったな」

「な、なんですか?その言い草は!……あっ!あれでしょう!難癖つけて新しい魔眼コンタクトを貰おうとしてるんでしょう!」


 いい年してバイトのガキに不機嫌にあたる輩を見るような顔をする。

 カスハラの警告ポスターを貼っても高圧的にクレームを入れるような奴らと一緒にされても困る。


「純粋な疑問なんだけど、普通人にお使い頼んで報酬に眼球爆発するコンタクトあげるってどんな気持ちなん?」

「ちっちっちっ。ただのコンタクトではなくて魔眼コンタクトです」


 なんだこいつ。

 俺が魔眼の真価を発揮せずに普通のコンタクトだと思って眼球爆発させたバカだとでも思ってんのか?


「それに、私は説明しましたし、ヒーコさんもうんうんと頷いてくれていました!」


 それ俺が適当に相槌打ってたときのじゃないか。

 つーか、いつのだ?心当たりがありすぎてわからん。


「ところで、ヒーコさんが言っていた魔法少女朝桜が持っていたという魔眼についてなのですが」

「ああ、そうだった」


 あの時のもみじの様子が気になったので、琴浦に質問をしていたのだった。

 俺の頭のなかでは魔眼といえばコイツという固定観念があったために、目覚めてすぐに情報を求めた。


「おそらく大気中に存在する……そうですね。仮に精霊とでも名付けましょうか。そういった存在が通常魔眼を通して見ることができる、というか、魔眼の神秘を増幅させるのが精霊というか。まあ、そんな魔眼に大切な存在である精霊自体が眼球のような形状に擬態して朝桜に寄生しているものと思われます」


 彼女の説明にまた精霊とかいうよくわからん存在が追加された。

 で、その精霊自体が眼球になったのがもみじの魔眼と思われるものということか。

 つっても、聞く限りじゃ魔眼とも別物に思えるが……。


「そうですねぇ。名付けるなら「精霊魔眼」とでも言いましょうか」


 コイツすぐに名付けたがるな。いや、実際呼称は大事か。

 ただ、ひとつ気になるのは。


「なんで、俺の情報だけでそこまで細かいとこまでいえる?」


 今更コイツを疑ってかかる気はないが、俺が話したのはもみじの夢遊病じみた行動と赤く光る目だけだ。

 それだけで精霊だなんだと喋られれば怪しさも増す。


「実は秘密なんですが、ちょーとだけ覗いちゃってたんですよ!」

「あの場にいたのか?」

「いえいえ。ちょちょいと魔眼の力を使いまして遠くからですよ。で、見てたらあの赤い目に精霊の反応を感じまして。身体の主導権が精霊魔眼にうつったのも体が傷ついたことによる防衛反応か何かでしょう」


 そうだった。俺の使う魔眼はコイツお手製だった。

 頑なに魔眼コンタクトを使う様子を見せないからその考えに及ばなかった。

 だからこそ、俺は自分の目玉が吹っ飛ぶまで魔眼コンタクトの副作用に気づかなかったわけだし。

 まあ、そんな代物をポンポンと使う方がおかしいか。


 そして、そんな琴浦との会話をして、休みが明ければ学校が始まった。

 あいも変わらず擬似制服を周囲から浮かせながらの登校だ。

 大学で時代錯誤な腰パンをしていた名も知らぬ彼ほどのメンタルがあれば俺も快適に過ごせただろうか。


 まあ、とはいえ、俺には厨二病の美少女友達の方波見黒墨と天使聖女魔法少女の綾谷もみじが話しかけてくれる。

 と思っていたのが……。


「……」


 こない。

 トラブってんのかな。

 優等生でも遅刻くらいするか。


 そんなことを思って月曜日が過ぎて、火曜、水曜と来て流石に違和感にきづいた。

 これ、絶対風邪だろ。


 ──魔法少女朝桜の活動が今週に入ってからないな。まあ、滿汐のことがあるし体調を崩しているんだろう。

 ──確かにこんなピンピンしている俺がおかしいのか。


 そんなふうに自分を振り返って、いつものように屋上へ向かう途中ひとつの女子生徒の声を耳にした。


「もみじ、あれからずっと引きこもっているみたい。インターホンならしても出ないし」

「連絡もつかないし、どーしよ」


 どこかで見たと思えばもみじの友人である緑子なる少女と、もう一人の子、確か寧々華といったはずだ。もみじの相談に乗った時に名前をきいていた。

 そんな二人は、もみじの近況について話していた。


 とても良いこととはいえないが、聞き耳を立ててみれば、結構やばそうだ。

 どんな原因で引きこもってどんな状況かは知らんが少し様子を見に行った方がいいかもしれない。

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