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TS転生した俺は魔法少女になれないらしい  作者: えとう えと
一章

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20/25

訪問!


 暗い部屋でフローリングの床を眺める。

 小さなへこみはいつかモノを落とした時についたものだろうか。

 電気もつけてないのに、フローリングには光が反射する。真っ白なそれの形を視線でなぞった。


 そして、フローリングの溝に血が染みる。

 童子が無慈悲にあみだくじをなぞる様に、赤は足元へ迫った。

 

「あ、ぁあ……」


 インベーダーが倒れていた。

 首はなく、手も足もないそれは只転がっていた。


 少女が地に伏していた。

 血を流して、手足を投げ出すように転がっていた。


「ァああ……」


 脳が理解するのを拒もうとする。

 とっくに分かっているのに。


 動機が激しくなる。

 呼吸が浅くなる。

 何も、分からなくなる。

 何もわかりたくなかった。


「──っ!」


 インターホンの音で我に返る。

 とても新しい機種とは言えないそれは雑音交じりの呼び鈴を鳴らす。


 また、誰か来たのだろうか。

 玄関に食べ物が置いてあってチャットでメッセージを送ってくれた緑子と寧々華かと思ったが、彼女たちならインターフォンを推すのと同時にドア越しに声をかけて来るだろう。

 体育座りの姿勢のまま顔をうずめた。


 不意にスマホが震えた。

 緩慢な動きで、通知を見た。


 :大丈夫?


 そっけないメール。

 でも、その送信元に目を見開く。

 アカウント名は「ひーこ」。

 

 :ごめん 勝手にクラスのグループから追加させてもらった


 比果比五子のそれだと察した。


 :迷惑かと思ったけど、ずっと家にいるって聞いたから


 視線は自然とドアへ向かう。

 もしかして、ドアの向こうにいるのは比五子なのではないかと思い到る。

 でも、同時にあの日の光景が頭に張り付いて立ち上がるのをためらわせる。


 心配してもらう資格なんかない。

 彼女を傷つけてしまった。


 また、チャイムがなった。


「っ」


 でも、彼女のことを思い出して立ち上がった。

 そして、ついにドアを開き、久しぶりの日差しに目を細めた。


「ああ、いらっしゃいましたか」


 ただ、目に映ったのは黒い背広の男。

 

 :嫌だったら断ってくれてもいいけど、今からそっちに伺ってもいいかな?


 放り出されたスマホは背後で通知を表示した。





 ◆


 もみじの引きこもる原因ってのは、正直分からなかった。

 ただ、俺に優しく接してくれるし何より推定主人公だ。無視できることではないだろう。

 何とか、もみじの家を知って連絡をした。


 本当は緑子と言う少女とか寧々華って人に聞きたかったが、緑子は俺に不信感を持っているから断念した。

 前回教室に来た時もあまりいい印象を持たなかったしな。

 と言うか、正直ある人物から聞いた方が波風を立てずに済むとわかっていたから彼女らからは聞かなかった。今は、気が立っているのも分かるしな。


 で、その心当たりと言うのが、琴浦だった。

 ネットストーカーで特定犯の彼女は俺との接触を図る前に、もみじの家も突き止めていた。

 そんな話を聞いた時は、聞こうと思わなかったが今回は仕方なく聞いた。


 そんなこんなで、連絡を送ってみたが、既読が付かない。

 設定的に見れないかもしれんが、正直今の情況を考えると分からん。

 仕方なく、琴浦から聞き出した住所を元に向かうことにした。


 ──女子高生の家を突き止めていくとか、琴浦みたいでやだな。

 ──是非はともかくオマエも女子高校生だろう。

 ──ああ、まあ、そうか。


 そう言えばそうか。

 とは言え、って話だが。しかし、この辺りの自認が変われば魂についている珍棒と(キャン)玉はなくなって魔法少女になるのだろうか?

 いや、精神的なモノかどうかはともかくとして、魂の珍棒と(キャン)玉がなくなったら自認は魔法少女でなく宦官になりそうだ。


 そんな下らんことを考えつつ歩いて居れば、地図アプリは目的地が近いと示していた。


「ラーメン屋?」


 ──この裏か。

 ──ああ、裏ね。


 小綺麗なガラス張りの店舗の横を通り過ぎて裏手に回ると築年数を感じる二階建ての賃貸があった。

 デカいビルの見えていた通りとは一変して似たような建物の立ち並ぶ区画にあった。

 つーか、一人暮らししてるってことか?

 家計にあまり余裕がない可能性もあるが、一人暮らしの部屋の大きさだろう。


「二階か」


 コツコツと錆びた階段を上がりながら何て声かけようかなと考えていると、違和感を感じる。

 人の気配を感じない。

 というか、ドアも半開きだ。立てつけが悪いのか、自然には締まらないと見える。

 やばくないか?これ。

 悪いと思いつつ部屋を除いてもいないようだし、スマホも落ちたままだ。


 自発的に、出たか。それとも、連れ出されたか。

 精神が弱っている可能性があるから、普段とは違う行動をする可能性は高いが……。


 ──あれを見ろ。


「ん?」


 近くの立体駐輪場の横を通る黒塗りの車を見た。

 そして、車内にもみじの横顔を見た。

 視力を強化する類の魔眼コンタクトはつけてないが、レベルアップの恩恵で常人よりは視力が高い。それが功を奏した。


 だが、抵抗する様子はない。

 それにバンじゃなくて高級そうな車両だからドナドナされているわけではないのか?

 いや、わからん。

 もう色々と嫌になって……とかか?


 ──あれは……委員会の車両じゃないか?

 ──委員会。

 ──以前に森峰が乗っていたのと同じものだ。断定はできないが、もみじが大人しく乗っていることを考えると可能性は高いだろう。


 まあ、確かにそうか。

 しかし、そうであれば追うべきか?


 ──どちらにしても、家の情況を考えるとただ事ではないだろうな。


 流石先生。よく考える。





 ◆


「私、こういうものです」

「……委員会の」


 背広の男性が差し出した名刺を見る。

 天坂地区の委員会の人間だと名乗った彼は皺の刻まれた顔で言う。


「実は、綾谷さんには一度委員会に来ていただきお話をさせて頂きたいのです」

「私、なにか……っ」


 「何かしましたか」と言おうとして、先日の惨状を思い出した。


「わかり、ました」


 そう答えて、もみじは下に止まれていた車に乗り込んだ。

 

「綾谷さん。どうぞ」


 車に乗り、暫くした後男がドアを開けて促したのは委員会の施設だった。

 無論、もみじも存在は知っていたが、中に踏み入れたことはなかった。


「委員会の施設は初めてですか」


 内装を見渡していると、背広の男はそんな風に言った。

 少し露骨過ぎただろうかと思いながらそれに頷く。


「魔法少女の手続きはネットでしたので」

「ああ、確かにそうですね。今はネットで済みますね」


 通常手続きと比べて、使い魔と言う付きっ切りのガイドがいるようなものである魔法少女関連の手続きは既存のネットサービスよりも移動の手間は少なかった。

 こういった体制になって久しい気もしているが、男の様子を見ると彼は長く委員会に携わっているのだろうか。


 施設入り口に設置されたセンサーを通り抜けて、前を進む男についていけば、受付の女性に何やら話しかけて、奥へと招かれる。

 応接室とドアに書かれたのを横目に、促されるままに入室した。


「では、綾谷さん。こちらで、お待ち……と、すでにいますね」


 ソファに男は促そうとして、部屋に一人の人物を見る。


「丁度のようでよかった」


 「下がってくれていいよ」と男に告げた人物は、立ち上がりもみじを見た。


「態々すまないね。私は、魔法少女統括管理委員会天坂支部の支部長、岡園です」

 

 仕切りなおすように口を開いた岡園にもみじは遅れて頭を下げた。


「ああ、そこまで構えてもらわなくても……」


 そう言って話し出した岡園はテーブル―に出されたお茶を先にもみじの方へ置くように促した。


「お話と言っても、綾谷さんも気になっているであろう先日の件です」

「っ……もしかして、あの時の、私の力、ですか」

「ご自分がどのようなことをしていたかと言うのはご存じのようだね」

「餅兎が……使い魔に教えてもらいました」


 「なるほど」と岡園は顎に手を充てた。

 岡園がもみじが自身の行動の把握している事への疑問は実際、意識が飛んだようにもみじ本人が当時の記憶を欠落してしまっていることを考えれば納得がいく。

 当時は、不具合によってライブカメラは機能していなかったから、情報を得る方法は限られている。


「では、今回のことが起こった原因についてまずは説明をさせてもらいますね」


 もみじの理解を確認した岡園はそう言った。


「まず、綾谷さんは魔眼と言うものは知っているかな?」

「魔眼ですか?」


 魔眼と言う言葉自体は無論知っている。

 だが、恐らく岡園が語るそれは知らないと首を振った。


「魔眼と言うのは、我々がガーディアンと接触するよりももっと昔。綾谷さんも学校なんかで知っているだろうけれど、古代に神秘を扱った者たちが存在していて、彼らの一部が先天的にその身に有した特別な力のことだよ」


 そう語る彼の言葉は彼女が思い描いたそれとそこまで大きな相違はないと判断する。


「……もしかして、その魔眼と言うのが」

「そう、そして、今回君に発現したのは──」

「ちょっと、喋り過ぎじゃないかなぁ」


 岡園ともみじを隔てるように置かれた背の低いテーブルのガラスの天板にその華奢な足を乗せた少女に気付いたのはそんな声が耳に届いてからだった。


「本当に偶々寄っただけだったんだけど……まさか、ガーディアンに反逆の意思有りってことでいい~?」


 少女を見て思うのは灰色。

 色の抜けたような彼女は指の腹を唇に一本つけて、至極疑問だとばかりに岡園を見た。


「いいや、それはない。私たちはガーディアンのおかげで魔法少女が存在していることを理解している」


 岡園は突如現れた少女に動じることなくそう言う。


「本当かなぁ。怪しいなぁ。海月(カイゲツ)ちゃんだって信じてあげたいけど、貴方が今口にしようとしていたのはS級指定の情報だよね~?」

「気のせいだろう。それに、君はガーディアンでなく旧中央魔術側の人間だろう。魔法少女海月」


 岡園が海月と呼ぶ彼女に、もみじは思い出す。

 S級魔法少女にその名前があることを。


「ま、いいけど。……それより、初めましてこんにちは。ずっと会いたかったんだよ」


 ガラスの板の上で身体を翻して、ガバッと小綺麗な顔面をもみじに近づけた。

 目と目が接触してしまうのではないかと言うほどに、近づいた海月の瞳は色が抜け落ちているように思えた。

 その眼球にこちらが吸い込まれそうに思えて……。

 彼女のしなやかな指が自分の瞳に爪を立てようとしていることに気付かなかった。

 もみじが、気付けたのは眼前で海月の手が静止したからだ。

 そして、それに反射的に体を仰け反る前に、海月が表情を殺して横を見た。


「離してよ」


 彼女がそう言ったときやっともみじは状況を理解する。

 海月がまるでもみじの目玉を触ろうと手を伸ばして、その手が掴まれて止まっていることに。

 そして、光で出来た蝶が舞う中で、海月の手を掴んでいるのが、魔法少女コフィンこと比果比五子であることに。

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