ジャンプが海を渡った日 第5話:MANGA Plusの挑戦
作者のかつをです。
第二十章の第5話をお届けします。
ついにリリースされた「MANGA Plus」。
その成功の裏には、翻訳者たちの超人的な努力と、世界中のファンを繋げたいという強い思いがありました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2019年1月。
集英社は、海外向けの漫画配信アプリ「MANGA Plus by SHUEISHA」をリリースした。
そのサービス内容は、世界中の漫画ファンを驚愕させた。
『ONE PIECE』、『僕のヒーローアカデミア』、『呪術廻戦』……。
ジャンプの人気連載作品の最新話が、日本での発売と「同時」に、英語、スペイン語、タイ語など複数の言語で配信される。
そして、それが「無料」で読めるのだ。
「嘘だろ? 公式がこんなことをするなんて」
「もう怪しいサイトを探し回らなくていいのか!」
リリース直後から、アプリのダウンロード数は爆発的に伸びた。
サーバーが悲鳴を上げるほどのアクセスが集中した。
しかし、それは単なるシステムの構築だけでは成し得ない偉業だった。
その裏側には、壮絶な「翻訳」の現場があった。
日本の編集部からネーム(下書き)や原稿が上がってくると同時に、翻訳チームが動き出す。
世界各地にいる翻訳者たちが、時差を超えて連携し、超特急でセリフを訳していく。
英語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、タイ語、インドネシア語、ロシア語……。
それぞれの言語のニュアンスに合わせて、吹き出しの中の文字を調整する。
縦書きの日本語を横書きの言語にレイアウトし直す。
それは、毎週毎週繰り返される、時間との戦いだった。
特に苦労したのが、漫画特有の「オノマトペ(擬音)」だ。
「ドン!」「シーン……」「ゴゴゴゴ」
日本語独特の感覚的な音を、どうやって他言語で表現するか。
翻訳者たちは知恵を絞り、時には元の描き文字を残したまま注釈を入れるなど、作品の雰囲気を壊さないよう細心の注意を払った。
「作家の熱量を、そのまま世界に届けたい」
その一心で、彼らはパソコンに向かい続けた。
そして、MANGA Plusにはもう一つ、重要な機能が搭載されていた。
「コメント欄」である。
世界中の読者が、最新話を読んだ直後に感想を書き込める。
そこには、英語もスペイン語も日本語も入り混じった、熱いコメントが溢れかえった。
「ルフィ最高!」
「まさかこんな展開になるとは!」
「来週が待ちきれない!」
国境を越えて、同じ瞬間に同じ物語で感動し、盛り上がる。
それは、かつて海賊版サイトのコメント欄で行われていたことを、公式のプラットフォーム上で、より健全で大規模な形で実現したものだった。
海賊版サイトから、公式アプリへ。
読者の大移動が始まった。
MANGA Plusは、単なる漫画リーダーではなく、世界中のファンを繋ぐ巨大なコミュニティへと成長していったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
MANGA Plusのコメント欄を見ていると、日本の読者と同じポイントで笑ったり泣いたりしているのが分かります。文化や言語が違っても、面白いと感じる心は世界共通なのだと実感させられますね。
さて、世界中の読者を味方につけたジャンプ。
しかし、言葉の壁だけでなく、文化の壁もまた彼らの前に立ちはだかります。
次回、「翻訳と文化の壁」。
世界展開ならではの難しさと、それを乗り越える工夫について描きます。
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