ジャンプが海を渡った日 第6話:翻訳と文化の壁
作者のかつをです。
第二十章の第6話をお届けします。
文化の壁を乗り越えること。それは迎合することではなく、互いの違いを認め合い、リスペクトすることでした。
「右から左へ読む」というスタイルが世界標準になったことは、漫画の力が言葉の壁を超えた証拠かもしれません。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
MANGA Plusの成功により、ジャンプの漫画は世界中で同時に読まれるようになった。
しかし、国境を越えるということは、異なる「文化」や「宗教」、「価値観」の壁に直面することでもあった。
ある国では、肌の露出が多いキャラクターが問題視された。
ある国では、宗教的なタブーに触れる表現が修正を余儀なくされた。
また、日本の学校生活や年中行事など、日本人なら説明不要の前提知識が、海外の読者には伝わらないことも多々あった。
翻訳チームと編集部は、そのたびに頭を悩ませた。
「この表現は、あちらの国では不快に思われるかもしれない」
「でも、修正しすぎると作品の良さが損なわれてしまう」
彼らは、作家とも相談しながら、一つ一つ丁寧に調整を行っていった。
時には注釈を入れ、時には表現をソフトにし、時にはあえてそのままの形で出し、文化の違いを楽しんでもらう。
正解のない問いに、毎回真剣に向き合った。
そんな中で、意外な現象も起きていた。
日本の漫画独自の「右から左へ読む」というスタイル。
当初、海外展開にあたっては、画像を反転させて「左から右へ」読めるようにすべきだという議論もあった。
アメコミなどは左から右へ読むのが一般的だからだ。
しかし、MANGA Plusはあえて「右から左」のまま配信した。
それが作家の描いた本来の形だからだ。
読者たちは戸惑うかと思われた。
しかし、結果は逆だった。
海外のファンたちは、「これがMANGAの読み方だ」と、喜んでそのスタイルを受け入れたのだ。
彼らにとって、右から左へページをめくる(スワイプする)行為そのものが、日本のクールなカルチャーを体験することの一部となっていた。
「日本のやり方を押し付けるのではなく、日本のやり方をリスペクトしてもらう」
MANGA Plusの挑戦は、単にコンテンツを輸出するだけでなく、日本の漫画文化そのものを世界に輸出し、定着させることに成功したのだ。
そして、海賊版サイトへの影響も目に見えて現れ始めた。
「公式で無料で読めるなら、わざわざ質の悪い海賊版を見る必要はない」
「公式で読めば、作家の応援になる」
ファンの意識が変わり始めた。
海賊版サイトのアクセス数は減少し、閉鎖に追い込まれるサイトも出てきた。
かつて無法地帯だったインターネットの海に、正規版という名の灯台が立ち、航路が示された。
ファンたちは自らの意志で、正しい船を選んで乗るようになったのだ。
それは、法的な強制力ではなく、より良いサービスと、ファンとの信頼関係によって勝ち取った、真の勝利だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
海外の本屋さんに行くと、日本の漫画コーナーでは皆、器用に「右から左」へページをめくっています。その光景を見ると、漫画という文化の浸透力に改めて驚かされます。
さて、海を渡ったジャンプ。
その物語は、世界中の読者へと届き、そして未来へと繋がっていきます。
次回、「世界中の読者へ(終)」。
『漫画創世記~ペン先は世界を描いた~』、堂々の完結です。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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