ぺんちゃん
魔物との大戦が終わり、神の国には青い空と穏やかな空気が戻ってきた。
水の神殿では、今ではおなじみになった神獣ペンギンのぺんちゃんが、神殿近くに作られたハンモックで寝転んでいた。そして神殿の中からは、男の子の情けない悲鳴のような声が響いていた。
「あーショックすぎるーーーー! 今回も、二人が大人になった姿が見られなかったなんて!」
悲鳴をあげていたのは、海側の神、レヴァーンだった。ユリアナとイオナが大人になったと聞いて、悔しさのあまりわめいていたのだった。レヴァーンはその時、人間界海岸沿いの警備にあたっていたため、戦いの様子を見ていなかったのだ。ガーベラの子供達が大人になったのも知らなかった。後で聞かされてショックを受けたのである。
「私たちのことよりも、ペんちゃんのことよ!」
「そうよ。ぺんちゃんがすごかったの!」
「すごかった!」
ユリアナとイオナ、そしてラクアの妹と男ガーベラの娘シレーヌは、ぺんちゃんのすごさをレヴァーンに訴えている。その横では、ラクアがうっとうしそうにレヴァーンを見ていた。
三人の子供達はひとしきりぺんちゃんがしたすごいことをレヴァーンに説明した。ぺんちゃんは青い大きな怖そうな獣になっていたようだ。
「ああ、僕が君たちを守りたかったなあ。くそう……」
レヴァーンはぺんちゃんに手柄を横取りされたような、そんな悔しそうな声をあげたので、ラクアがレヴァーンの尻をたたいていた。
海の大神マリナールも妻エヴァも、戦の最中は毎日人間界の様子を見回り、魔物を退治したりもしていた。その直系の孫レヴァーンが神の国でずっとすごすなど、それこそ臆病者と白い目で見られる行為である。
「冗談ですよ。僕はずっとがんばっていたじゃないですか」
レヴァーンは口をとがらせていた。
「レヴァーン様もがんばったね」
「えらいね」
「えらいえらい」
女の子達にほめられて、レヴァーンはようやくちょっと気持ちが浮上していた。
「とにかく、君たちが無事でよかった。神の国のこんなところにまであいつらがやってくるなんて、僕も驚いたよ。ぺんちゃんがいて本当によかったよ」
「神殿の周りには強力な結界があったけれど、僕も驚いた。本当にぺんちゃんがいてよかった」
ラクアはそれには大きくうなずいていた。娘達に何かあったならば、それこそ、ラクアは生きる気力さえ失ってしまうだろう。今や子供達は、ラクアにとっては、生きていく上でかかせない喜びの一つである。
「ところで、ぺんちゃんは青い大きな怖そうな獣だったんでしょう? どうしてあの姿で生まれたんでしょうね?」
レヴァーンが首をかしげている。
「それはね、ぺんちゃんが私たちに怖がられると思ったからよ」
「嫌われたくなかったからよね。でも、あの姿も嫌いじゃないよ。かっこよかったよ」
「うん。ぺんちゃんはかっこいい!」
「生まれる前から、嫌われたくないから違う姿になろうって神獣が思ったってことですか?」
とレヴァーンはラクアに聞いた。
「さあねえ」
「どうしてペンギンに擬態しているんですか?」
「擬態なのかな」
「どうでもいいの。ぺんちゃんはペんちゃんよ」
「私たちのお友達よ」
女の子達はあまり気にしなかった。
ぺんちゃんがなぜペンギンになったか、ということについては、ラクアには思い当たるふしがある。その時、ペンギンのことを考えていたからだ。そしてぺんちゃんの正体については、ラクアも考えていることがあった。
ある日のこと、ラクアは雲の上の神殿、ヒルデリアの部屋をたずねていた。
「ちょっとトルメンタに聞きたいことがあるんですよ」
ヒルデリアも聞いてもいいとのことだったので、ヒルデリア、ラクア、トルメンタで話をすることになった。椅子が用意されて、ラクアは座っている。トルメンタは両手をそろえて行儀良く座っている。
「うちのぺんちゃんなんですけど、もしかして、トルメンタと同じ精霊関連じゃないのかな?」
ラクアがトルメンタに聞いた。トルメンタは冷静だったが、どう答えてたらいいのかちょっと迷っているかのようだった。即座に違うと言わないことからして、ラクアは自分の考えはやはりあっていたと感じていた。
「ぺんちゃんは、精霊が転生した姿なのか?」
ヒルデリアが聞いた。
トルメンタは雷の精霊でもあるが、雷の精霊そのものではない。転生した姿が雷獣の姿なのである。ということはヒルデリアは知っていた。だから聞いたのだ。
「もしそうだったら、何かまずいことでもあります?」
トルメンタがラクアに聞いた。
「いや、何もないよ。僕の想像があっているのか確かめたかっただけで」
「ならよかったです。私からはそうかもしれないとだけ言っておきます」
「そうか。ありがとう」
トルメンタはあまり話す気がなさそうだったので、ラクアは去って行った。
ラクアが去った後で、トルメンタはヒルデリアにつげた。
「実は、彼に話すことを止められておりまして」
「なぜじゃ?」
「元がむさくるしい獣だとしれたら怖がられたり気持ち悪がられたりするかもしれないからと」
「ほお……」
「今だから話しますが、水の神殿が狙われることは精霊の王は予想してました」
「え?」
「水は、生物にとってもっとも重要なものですから。もしあの子供達に何かあったら、ラクア様は壊れてしまうでしょう。そうなればこの世界は、かなり危険な状態になってしまいます」
「…………」
「彼は精霊には敬意を込めて『元帥』とか『閣下』などと呼ばれています。それほど攻撃力に特化したお方です。かわいい姿で生まれたいとおっしゃっていたそうなので、かわいい姿で生まれてよかったですね」
「閣下……確かにあの強さはすごかったが、ラクアに戦場に行かせないようにすることもできたのでは?」
「ラクア様は行かねばなりませんでした。確実なことも言えないのに、忠告することはできませんでしたし、一人だけ子供が心配だから残る、などというわけにもいかないでしょう」
「まあ、それはそうか。途中戦場に参加したのは、もう大丈夫だと思ったからかな?」
「子供達が大人になり神の力が増したので、大丈夫だと思われたのでしょう。閣下は楽しそうにこちらで過ごされているそうなので、そっとしておきましょう」
「そうだな。閣下か……」
ヒルデリアはペンギンを思い浮かべながらつぶやいていた。
そのぺんちゃんは、今日も湖で子供達と一緒に泳いだり、氷にお花を入れたりして、楽しく過ごしているのだった。




