7 ありがとう
神の国での大戦が終わり、クーガはすぐに人間界に帰ろうとしたのだが、体を清めてから帰った方がいいと言われて、神の国の癒やしの泉の水で体を清めてから、人間界に戻った。後衛でいたクーガはそれですんだが、前衛で戦ったイシュタールは、魔物の気を強く浴びすぎたので、もう少し神の国に滞在するようだ。
クーガは聖地のアシュラン神殿に戻り、神官長に顔を見せた。
「クーガ様、ご無事でよかった!」
神官長は泣きながら喜んでいた。
「神官戦士達は皆無事ですか?」
「まだ全員戻ってきてはいません。聖地の中は何事もなくすみました。大陸の方ではいろいろありましたが」
「そうですか」
どこで何が起こったのか、その報告が集まるまでは、時間がかかるだろう。
「ほかの神官達もクーガ様のことを心配していました。顔を見せてやってください」
「わかりました」
クーガはアシュラン神殿にいた神官達に会いに行った。
「クーガ様!」
「ご無事でよかった!」
神官達も涙目で喜んでくれた。
その後自室に戻り、クーガは椅子に座って一息ついた。長年住んだこの部屋に戻ってくると、なんとなくほっとした。
(あの戦いが夢のようだ……)
違う世界には、あんなにも多くの魔物が住んでいる。本当に信じられない体験だった。もし神々が負けていたら、魔物達に人間達が襲われていただろう。
(ハロルド様やライオネル様もすごかったが、御子様達の活躍もすごかったな。やはり王妃様は希有な方だ)
クーガは身につけていた金の鈴と小さい革袋を机の上に置いた。革袋を開けてみると、中には砂が入っていた。
「あれ? いつの間にか死にそうになっていたとか?」
ノックの音がした。
クーガが扉を開けると、外には一緒に神の国に行った三人が立っていた。
「どうぞ入ってください」
三人は部屋に入ってきた。
「あなた方は、今後も交代で私のつき人をするんですか?」
クーガが三人に聞いた。最近までクーガは全く知らなかったが、三人は今まで交代でクーガの付き人をずっとしていたようだ。
「実は、我々は謝らねばならないことがあります」
三人は神妙な顔つきだった。
「なんですか?」
「我々のせいでクーガ様が見つかってしまったから、クーガ様はお母様と離されてつらい思いをしてしまった」
「我々がいなければ、クーガ様はもう少し、あの国にいることができたでしょう」
「すいませんでした」
三人が頭を下げた。
「…………」
クーガは少し口を開いて何か言おうとしたが、しばらく何も言うことができなかった。
多分、そうだろうなとは思っていた。
彼らは人間ではない。
妖精でもないようだ。となれば……
「我々は光の精霊です」
(やはりそうだったのか)
「多分そうだろうなとは思っていました」
「そうですか」
三人はうつむき加減でいた。
クーガが小さい頃、光の精霊が近くによくいたのを風の妖精が見て、クーガがただの人間ではないと発見されてしまったのだった。光の精霊がいなかったならば、もう少し母の元でいられたかもしれない。
「どっちみち、遅かれ早かれ見つかっていたでしょうから、今は恨んではいませんよ。小さい頃私が溺れたときも、助けを呼んでくれたんでしょう? 私は自分が孤独だと思っていましたが、神々や妖精以外でも私に寄り添ってくれた存在がいたんですね。ありがとう」
「我々はただ」
「クーガ様が好きだっただけです」
「感謝されるようなことはなにも……」
三人はうるるんとしていた。
「クーガ様が無事で本当によかったです」
「本当に」
「あの金の鈴は何の効果があったんですか?」
「あれは、我々の力をクーガ様に送る効果がありました」
「絶対に死んでほしくなくて」
「そうだったんですか」
「今後も、側にいていいですか?」
今の付き人であるフォスが聞いた。
「いいですよ」
クーガがすぐに答えたので、三人はほっとした表情をしていた。
「これからもよろしくお願いします」
クーガが言うと、三人は声を合わせて、「よろしくお願いします」と頭を下げ、部屋を出て行った。
三人はクーガに正体をばらしたので、今後は短いスパンで交代するそうである。
今までクーガは付き人と酒を飲んだり余計なおしゃべりをすることはなかった。
「今後は、たまに酒を飲むくらいならいいのかも。精霊が酒を飲めるのかどうかは知らないが」
つぶやいてくすっと笑ったクーガだった。




