ファンの集い
ランチタイムを過ぎた時刻、食堂の一角を貸し切って、一五人ほどの男女が集まっていた。テーブルにはサンドイッチや魚のフライなどの軽食が大皿にもられて並んでいた。テーブルは3つに分かれている。
それぞれ酒やジュースが運ばれてきた。
「ようやく平和になったのかしら?」
「太陽って本当にありがたいって思ったわ」
「今度聖地に行ったらアリアス様の神殿にお参りしないとね」
人々はそれぞれがやがやと話し出した。リーダー格の女性がすっと立ちあがった。クーガのファンクラブの現リーダーの女性である。全員ファンクラブの会員なのだ。人々は口を閉じた。
「まずは、クーガ様が無事聖地にお戻りになったことをお祝いしましょう! 乾杯!」
「乾杯!」
人々は杯を掲げて、飲み物を飲んだ。人々の中にとびきり図体のでかい男がいた。彼には椅子が小さく見える。フウガである。
「クーガ様が無事でよかったあ」
フウガは泣いていた。
「本当によかった!」
「やだ、私まで泣けてきちゃう!」
みんなうるっとしていた。
そこに立ちあがった男がいた。なんとクーガの付き人フォスである。彼はちゃっかりこの会合に参加していた。実は彼もファンクラブの会員のメンバーである。しかも初期メンバーだ。他の二人もだ。リーダーには、実は妖精です、と嘘をついている。
「皆さんの応援がクーガ様の力になりました。ありがとうございます」
フォスはみんなを見回して言っていた。垂れ幕を作ってほしいと頼んだのも彼である。ファンのみんなは詳しくわからないままに垂れ幕をつくってフォスに渡したのだ。
「よかった」
「クーガ様喜んでくださったのね」
「うれしい」
「とても喜んでました」
フォスは笑みを浮かべて答えていた。クーガがいればかなり突っ込みを入れたに違いない。
「クーガ様のお話はいつから再開されるのかしら?」
リーダーの女性が聞いた。
「五日後くらいには再開されるのでは? 予定が決まったら予定表をお渡ししますね」
「「ありがとうございます」」
「早くクーガ様のお言葉が聞きたい」
「俺もだよ。定期的に聞いてないといらいらしてくるんだ」
とフウガ。
「クーガ様の声は癒やされるものね」
「本当だよな。あ、そうだ。メーラ姉さんのができたんでもってきたよ」
「ありがとう!」
フウガは鞄から布に包まれていたものをメーラという名の若い女性に渡した。女性はお金をフウガに渡している。
「ありがとう」
「毎日待ってたのよ!」
メーラは布をめくって中の木像を取り出した。それは20㎝ほどのクーガの木像である。メーラの顔が輝いていた。
「これで寝るときも一緒だわ」
「次は、私よね?」
他の女性が言った。
「うん。待ってて」
「待ってる!」
フウガは本職の仕事がない時は、クーガの木像を作りまくり、ファンクラブのみんなに売っていた。リーダーが「売るならそれなりの値段じゃなきゃだめ」、と言ったので、フウガはまあまあな臨時収入を獲得していた。クーガには完全に内緒である。
「ところで、今日クーガ様は?」
リーダーがフォスに聞いた。
「今日クーガ様は休日で旅行に行きました。場所は言えないですが」
「旅行?」
「クーガ様が旅行!」
「お友達と二人で行きましたよ」
「「お友達!?」」
十人ほどが声をそろえていた。
「クーガ様のお友達って、アシュラン様の神官仲間でしょうか?」
「ハロルド神殿にいるスペードさんです」
「え!?」
「あ、私知ってる、結構たくましい系の人よね」
「妖精様よ」
「クーガ様のお友達……前からお友達でしたか?」
「最近ですね」
「二人の旅……見かけた人がうらやましい!」
ファンのみんなは、クーガがスペードとうれしそうに観光するところを想像していた。
「クーガ様には一緒に旅をするほど親しい友人がいたのね」
(もしかして……いやまあそれでもいい。クーガ様がこの世に存在してくれるならどうでも)
中には腐女子の妄想全開の女性もいたが、口にはっきりと出さなかった。なにせクーガの女関係の情報は皆無なので、もしや、と疑ってしまったのである。
「妖精様なら、ずっとクーガ様のお友達でいられますね」
「そうね。別れの悲しみがなくていいわね」
「スペードさんといえば、あのカードの騎士さんだ」
フウガはそれを思い出した。
「あのカード今誰が持ってる?」
「私持ってる」
一人の女性が鞄からカードを出した。
「騎士のカードは変わったのよ」
他の女性が言った。
「あ、そういえばそういう話してたっけ」
「これよ」
女性はカードから1枚を出してみんなに見せた。みんな席を立ち、そのカードを見に行った。
スペードの騎士のカードの絵柄はたくましい男性ではなく、ラフな黒髪の男だった。男は青系の騎士の服装だったが、体の右側にマントをかけていた。そのマントの絵柄が、白い肌、ピンクの花柄のバクだった。
「すごいマントしてるな」
フウガが言った。
「この騎士さんも気になる。なんか聖地で見たことがあるような気がするんだけど」
「100人目になったら何が起こるんだろう?」
「今何人目?」
「私で21人目よ。今日別の人に渡そうと持ってきたの」
「私まだもらってないわ」
「じゃあどうぞ」
女性は別の女性にカードを渡した。
「やっぱり同じ人に渡しちゃだめなのかなあ?」
「さあ?」
この日は和気藹々と話し合い、ファンの結束を固めて終わったのだった。




