何度見てもいい!
「ああ、何度見てもいい!!」
水晶玉に映る映像を、何度も繰り返し見ている男がいた。この世界の始まりを知る男であり、すべての精霊たちに敬われている男である。人間の価値観でいえば、彼はとても美麗な顔立ちをしていた。腰までの輝く金髪、高貴な雰囲気が漂いつつ、この男を怒らせると何かがありそうで怖い、と思わせるような怖さも感じさせた。その雰囲気は、神々の長アシュランとどこか似たものであるかもしれない。その男が、直径20センチほどの水晶玉を眺めながら、「ああ」とか「うう」とかうなったり喜んだり、ともかくずっと同じようなことを繰り返していた。ずっと、ここしばらくずっとである。正確には、戦が終わってずっとである。
水晶玉に映っているのは大きくなったエスメラルダだった。戦の最中、ルチアの力で、ガーベラの子供たちがみんな大人になった。精霊の世界にいたエスメラルダも、その時大人になったのだ。その時のこの男の驚きと喜びといったら、今が大変な戦の最中であることを忘れるほどだった。
「私、行くわ!」
エスメラルダは、昔と同じ強い瞳で告げると、戦場に現れて結界を張った。
「記録だ!!」
彼は慌ててその様子を水晶玉に記録した。
「あの姿、やはりガーベラ様の影響を受けておりますね」
「そうですね。ですが、美しくもたくましく、気が強そうで、自分の意見を決して曲げなさそうなところは、同じですね」
戦の様子を眺めながら精霊たちが言った。
「エスメラルダ」
彼は泣きながら戦場の様子を眺めた。もうほぼエスメラルダしか見ていなかった。彼がこんな様子なので、精霊たちは戦場の前衛部分は全く見ることができなくなってしまった。
彼が泣くと、床にころころと白い玉が転がっていた。精霊たちはその玉を拾い集めている。
「エスメラルダ、なんと美しい!」
『この世界は渡さない! とっとと帰れ! ○○ ○○○○!』
エスメラルダが汚い言葉を使いだした。人型の精霊が一人額に手を当てている。
ほかの精霊たちは、顔を見回せていた。
「苛烈な性格はそのままだ。どこから見てもエスメラルダだ」
彼は感動していた。
以前のエスメラルダを知らない精霊たちは、どう反応していいやらわかりかねていた。
もともと、精霊という存在は、神々が生まれるずっと前に存在していた。彼らの感情は、今の人間や神での価値観では測れないものがある。
エスメラルダは優しいだけの女ではなかった。この世界からの魔物の排除を願ったのも彼女だ。そのせいで、エスメラルダは呪いを受けて、生を受けたものの、普通の姿ではなかったために、自らが生み出した神アシュランによって葬られてしまった。再び生を受けたのは、それから何千年もあとのことだった。彼女の再来を待つ精霊たちにとっては、長い長い年月だった。
そのエスメラルダが、大人になって戦っている。彼が感動しまくるのも仕方がないだろう。エスメラルダの光の女神としての力は、やはりすさまじいものがあった。ほかの光の神の二倍はあるかもしれない。エスメラルダは魔物の魔法攻撃を完璧に防ぎきっていた。
戦が終わり、エスメラルダは子供に戻り、今は精霊界で眠っていた。ルチアと同じである。力を使いすぎて疲れたのだ。
それから彼は記録した映像を何度も眺めては同じ反応をしている。精霊たちもあきれるほどだが、久しぶりに大人になったエスメラルダに会えたのだから、無理はないと思っている。彼にとってはエスメラルダの外見の変化は、どうでもいいことらしい。
「エスメラルダはどのくらいで大人になるのだろう。楽しみだな」
彼はほぼ不老不死のような存在なので、エスメラルダが大人になるまで千年かかろうが、2千年かかろうがかまいはしなかった。今ここに存在していることが重要なのだ。
「母なる者には感謝してもしきれない」
ゆりは彼によって「母なる者」という称号を獲得していた。ゆりは死ぬまで精霊たちには敬われることだろう。ゆりの子供たちも、その恩恵を受けることができるかもしれない。ゆりの功績は、人間たちの間では決して語られることはない。だが精霊たちには語り継がれることだろう。
「ああ、何度見てもいい。本当に、エスメラルダがここにいるんだな。感動する」
子供のエスメラルダが目を覚ましてからも、彼は時々水晶玉を眺めては目を輝かせたのだった。




