ケチくさいと思われたくない
ひげを引っ張られてライオネルは目を覚ました。ライオネルはベッドの横にヒルデリアが立っているのを見て驚いた。
「母ちゃん、どうしたんだ? 何かあったのか?」
ヒルデリアがここに来るのは珍しい。用があれば雲の上の神殿にライオネルを呼ぶのが普通なのである。
「お前の様子を見に来たのよ。神気もだいぶ戻ったわね」
ライオネルは祝勝会には出たが、それ以降ずっと寝ていた。ハロルドもそうである。ライオネルは体を起こして、ボリボリと腹のあたりをかいた。
「本調子になるにはまだかかるけどな。いやーほんと今回は疲れたぜ。でも前回と違って今回は、やったぜ、って感じだな。誰も死んでないからな」
「そうね」
「プータローも大丈夫だったし、よかったぜ」
ヒルデリアはベッドに腰を下ろした。前回はトルメンタもいなくなってしまった。ヒルデリアにとってトルメンタは、ただの神獣ではない。友のような存在だった。失って初めてわかったことだった。もう二度とトルメンタのような存在には会えないかもしれないと思うと、無性に悲しかった。再び出会えた喜びは大きかった。
「お前達は魔道具をもらっていたんですって? そのおかげでプータローがいなくならずにすんだと聞いたわ」
「そうだよ。あれすげえよな。俺もあれには助けてもらったぜ。一回敵の一撃をくらっちまって、それがすぐに治ったんだよ」
「まあ、そうなの?」
「あれがなかったら、傷のせいで神気が削られていただろうな」
ヒルデリアはその後カサンドラの神殿に行ったので、カサンドラが驚いていた。
「ヒルデリア、何かあったのですか?」
「別に何もない。今ライオネルの顔を見てきてこちらによっただけだ。ちょっと話があってな」
「そうですか。どうぞ」
その時サントスが神殿に入ってきて、サントスも驚いていた。
「ヒルデリアどうしたんですか?」
「話があって来ただけだ」
三人は丸いテーブルの周りの椅子に座った。
「そうですか。そうだ。ヒルデリアはネルとアイナが大人になった姿を見たんでしょう? 私も見たかったですよ」
「二人とも本当にかわいらしかったぞ」
「フルールとアイナで人間界を助けたようですね。驚きました」
カサンドラが言った。
「私も驚いた。その時は何をしているのかさっぱりわからなかったが。弓を射るアイナはりりしくもかわいらしかったぞ」
「あー見たかった」
サントスはすごく残念そうだ。
「そのうちに見られるだろう」
「いや、あんまり急いで大人にならなくていいですよ。ネルくらいになってもいいとは思いますけど」
軽い話題の後、ヒルデリアが話を切り出した。
「精霊の涙というものを人間が寄付してくれた、とアシュランから聞いた。アシュランがその者に何かお礼をしたいと言ったところ、その者は集団で聖地の私の神殿に来たいと言ったそうなのだ。この話、カサンドラは知っておるか?」
「知ってますよ。神官達にどう言えばいいかアシュランが悩んでました。彼女は夢の中でもいいと言ったそうなのですが、せっかくなので実際に巡礼させてあげた方がいいと言ったんです。神官達にいいわけなどしなくてもいいでしょう。夕方からにすれば、一般の巡礼者が見ることもないでしょうし」
「その者がなぜそれを精霊王からもらったのか謎だが、まあそれはいいとして、ライオネルとプータローもそれにより助けられたとなれば、巡礼の許可を出すだけというのは、少々ケチくさくないだろうか」
「ケチくさい?」
なかなかヒルデリアが言わない言葉だったので、サントスが聞き返していた。
「巡礼をさせるのはアシュランだろう? 私は許可をしただけだ」
「別にいいのでは?」
カサンドラが言った。
「孫の命を助けられたお礼にしてはケチくさい気がする」
ヒルデリアがもう一度言ったので、サントスはついぶっと吹き出していた。
「でも五十人も一度に聖地に呼ぶなんてこと、普通ではできませんし、それだけでもあちらは喜ぶと思いますよ」
とカサンドラ。
「そうだ。ヒルデリアの神殿で売っている薬草とか、一人一処方無料であげるってのはどうですか? あそこの薬草は結構高額なんでしょう?」
サントスの提案に、「それはいい」とカサンドラも同意していた。一人金貨2枚の買い物では、薬草は買えないかもしれない。
「恩を金で払うような気がしないでもないが……」
「そんなことないですよ。聖地にしかない薬草もありますし」
「そうだ。あそこの博物館には、神々の手が多数飾られているんです。彼女が最初ハロルドに頼んでそれから他の神々も協力しているものなんですけど、ヒルデリアの手も提供したら喜びますよ」
カサンドラが言った。
「手?」
「手形です。手に色をつけて、紙に押すんです。私は型取りしたのをあげました。ジェラルドのところにいけば道具がありますから、すぐできますよ」
「ヒルデリアの手が加わるなんて、きっと泣いて喜びますね」
サントスも、それは名案だとばかりに言った。
「私の手形でそんなに喜ぶか? ちょっとピンとこないが」
「絶対喜びますよ」
「喜びます」
二人とも力を込めて言っていたので、ヒルデリアは全くピンと来ていなかったが、ジェラルドのところで紙に手を押した。
そこでヒルデリアは、聖地の神殿に神々の手形が飾られているという話を聞いた。ダーナやウィル達が飾っているようだ。それを人間達が喜んでいるようだと。
「実は私も、最近自分の神殿に飾りました」
ジェラルドが照れながら言っていた。
ジェラルドはその後綺麗な額に入れて雲の上の神殿に持ってきてくれた。
ヒルデリアはそれを聖地持って行くようにグレンに頼んだ。グレンは「喜んで!」と声を弾ませて引き受けていた。何がそんなにうれしいのかヒルデリアにはわからなかった。
「本当に喜んでくれればいいが」
「喜びますよ」
「きっと泣いて喜びますよ!」
トルメンタに続いてグレンが力強く言っていた。
(女神の長としてのお礼がこれで本当にいいのか疑問だが……ハロルドも彼女にお礼をするかもしれんし、まあいいか)
こうして、ゆりたちはヒルデリアの手を見て号泣することになったのだった。




