ユリウス一家
世界が闇に包まれた間、蛇の国の学校は休校だった。ユリウスは産後だったので自宅で療養中である。息子のフランツは家にいる間生まれたばかりの弟の世話をしていた。ジェナサイトと一緒におしめを替えたりミルクをあげたりしている。すでに手つきは様になっていた。ユリウスよりもうまいかもしれない。
この国では兄弟姉妹は貴重である。一人っ子も多いのだ。フランツは今年十三歳、このくらいないの年の差ならば、近いともいえる。ジェナサイトは生まれた男の子に恩人の名をもらい、「ルーク」と名付けた。ル-クはジェナサイトと同じ黒髪で、瞳はユリウス譲りの青い色だった。フランツが赤ちゃんの時は夜泣きがひどかったが、ルークは今のところ夜はよく寝ていた。ユリウスの産後の状態も、前回よりも良好である。
ユリウスは「これならすぐ仕事ができそうだ」などと言って、「ばかをいうんじゃない」とジェナサイトに怒られている。この一族では産後の女性はとても大切にされる。十年ほど寝てすごしたとしても誰も文句は言わない。それほど、無事子供を出産することが大変ということでもある。何人も次から次に子供を産んでいるゆりは例外である。
「赤ちゃんってかわいいなあ。ずっと見ていても飽きないなあ」
フランツは暇さえあればルークを眺めているし、ジェナサイトも仕事の合間にルークを見に来るほどだ。
「……暇だな」
ユリウスは今は長距離の瞬間移動も止められていたので、城にも行けなかった。
「何か仕事がしたい」
「子育てするっていう発想はないんだね」
フランツが言った。
「子供が生まれたことで、子育ての半分は終わったからな」
ユリウスは別に子供がかわいくないわけではない。無事生まれた後ならば、子供の世話をするのは母親じゃなくてもいい。人を雇えばいいのだ。ユリウスのように考える女性は珍しくない。野生の蛇だって子育てをしない。母親が子育てに興味がないことは先祖返りの一種だと思われている。役所に言えばすぐに世話をする女性を斡旋される。この屋敷では、ジェナサイトがいる時はジェナサイトが、いないときは屋敷にいる使用人達が子供の面倒を見ている。
「それに私は子育てが下手だからな。フランツのおしめだって、ほとんどジェナサイトが変えたくらいだ」
「ははは。お母さんはせめて半年はじっとしてなよ。それから内勤に復帰したら?」
「そうだな」
「とりあえずはもっと元気にならないと」
「結構元気だけどな」
「休憩だよー」
ジェナサイトが屋敷に戻ってきた。
「みんな元気だよな? ルークは……寝てるな」
赤ちゃんは小さいベッドでお昼寝中だった。
「おしめも僕が変えるから心配ないよ」
「ありがとう。フランツがいるから安心だな」
ジェナサイトが真面目な顔で言っていた。ジェナサイトもユリウスが何もしなくても文句は言わない。逆に無理せず寝てろというくらいである。
「お母さんとお父さんってほんとうまくできてるよね」
フランツが感心するように言った。
「うまくできてるって?」
ユリウスが聞いた。
「お母さんが苦手なことがお父さんが得意だったりするでしょ。そういうこと」
「そうだな。私にはジェナサイトがぴったりだと、王妃はすべて見通していたんだな。昔はジェナサイトのことをなんとも思わなかったが、ジェナサイトは年を追うごとに、か、かっこよくなっているからな」
「俺はずっとユリウスを愛してる」
「ん? う……」
二人が視線をかわしあい妙な雰囲気になってきたので、フランツはさっさと部屋からでていった。
(いやはや、恋する気もちってすごいよなあ)
と冷めた瞳で感心するフランツなのだった。




