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7.ドワーフと酒

 特に興味はなかったのだが、帝国と連合王国が揉めているらしい。

 帝国が獣人と人間、そして連合王国が鬼族とドワーフの組み合わせだ。俺としてはカレーライスを食べてうまいと言ってくれるなら、正直どうでもいい。竜人が来ようが、魔人が来ようがね。

 店内は相変わらずの流れで客が来る。まず帝国側の獣人、続いて人間、そして、連合王国の鬼族とドワーフだ。

 少し変化があり、先に獣人が来るのは変わらずなのだが、終わるのを見計らってきていた人間が構わず来るようになった。

 先日の獣人とガレスの騒ぎがあって以来、彼らの関係性が少し変わったようだ。

 静寂の時間があるより、途切れず来てくれた方がより多くの客にカレーライスを楽しんでもらえる。俺としても好ましい展開になった。

 

「日替わり一皿と至高のカレーライスを二皿ですますう!」

「はいよ。持ってけ」

 今は獣人客が粗方引け、人間の客が大半になっている。

 チルルがちょこちょこ動き、的確に配膳していく。

 うまい、うまい、と言って食べる客を眺めるのはこの上ない至福の時間だな。

 甘口カレーライスだったが、思った以上に盛況だ。

 目で楽しみつつも、もちろんカレーライスを作る手は止めていないぞ。当然のことだがな。

 完璧な温度管理、最適なタイミングで出すことを怠っては至高が至高でなくなる。これを怠っては本末転倒ってもんだろう?


「いらっしゃいませー」

「お。おお。聞いていた通り、盛況ですな」

 ほお。毛色の変わった客だな。人間たちはこれまで兵士以外を見かけることがなかった。

 この客は年齢層も服装も兵士と異なっている。

 歳の頃は60歳前後。法衣に身を包んだ優し気で穏やかな紳士だ。

「こちらへどうぞ」

 チルルの後ろをゆったりとついていく紳士にいつものお調子者から声がかかる。

「エドガー神父。ここまでどうやって来たんだ?」

「一人で歩いてきましたよ」

「肝が据わり過ぎだろ」

「ほっほ。なあに、噂のカレーライス屋へ向かう人たちが沢山いますからな」

 他の兵士の様子も見るに、老年の紳士エドガーは皆から慕われているようだな。


 席に着いた彼はチルルへ注文をする。

「カレーライスを一皿お願いします。ところで、お酒は提供していますかな?」

 どうなんでしょう? とチルルが目で合図し、俺が彼へ言葉を返す。

「酒か。酒はないが、欲しいのか?」

「ドワーフも通っていると聞き、もしかしたらと思ったのですが」

「ふむ。純粋にカレーライスを味わうなら水だが、飲み物と合わせるのもまた良し。少し待てるか?」

 10分ほど待てと、言い残し、キッチン奥へ引っ込む。

 

 そこで俺は十人十色の精神を思い出す。せっかくなら彼の好みを聞くべきだと。

 戻り再度、彼に向けて問う

「すまん。十人十色の精神を忘れていた。辛い味を消してまた味わいたいか、それとも味を合わせたいかどちらだ?」

「どれほど辛いのかまだ存じてないので、辛みを消すものをいただけますかな?」

「分かった」

 

 ふむ。何度も味わうのなら、こいつだな。

 目を閉じ、魔力を込める。ただ作るだけじゃなく、冷やすことも忘れない。

 出来上がったのは黒ビールだ。こいつが舌をリセットしてくれ、再度新鮮な辛みを味わうことができるようになる。

 こういった変化球も、人によっては至高の場合もあるってことだ。

 何度も新鮮な辛さを味わいたいというのは理解できる。

 

「こいつは麦芽の香ばしさでスッキリしている。飲むことでまた新鮮な辛さが味わえるぞ」

 目ざとく見つけたお調子者のダインが俺も俺もと手をあげる。

「いいぞ。ただし、一杯だけだ。あくまでカレーライスのための一品だからな。おっと、日替わりに合うものも持ってくる」

 続いて持ってきたのは白ワイン。

 日替わりを食べていたものが俺も俺もと手を上げる。

 

 ◇◇◇

 

「レインハルト様。黒ビール? はドワーフさんたちにも出しますか?」

「断る理由はない。どんどん持って行け。ただし、一人一杯だ」

 店内でドワーフたちからだけじゃなく鬼族からも歓声があがる。


「お。盛り上がってるな」

「ねえ、ギル。ここが噂のカレーライス屋だよな。こんなにたくさんの兵士が来ているのか」

「んだ。辛いのが好きなミヅチも気に入ると思う。どっちかってっと辛さより味わい深い濃いの方が魅力だが」

 最初の鬼族の客ギルと、彼と共に珍しいミヅチと呼ばれていた女性兵士も入店する。

 彼女もまた鬼族らしく、薄着で上半身は胸だけを覆う布の上からベストを羽織り、短いスカートといった出で立ちだ。

 獲物は豪快に両手持ちの斧で、ギルとお揃いである。

 鬼族は獣人以上の力自慢で、大柄な体形も伴って膂力は全種族中二番目だったか。

 一番は竜人のはず。正直余り興味がない。

 力自慢で記憶に残っているのは鬼族でも獣人でもなくドワーフだからな。彼らは素晴らしい鉄加工技術を持っている者が多く、鍋をはじめとした調理器具の開発に協力してもらったこともあった。

 

「いらっしゃいませー。今日から日替わりカレーも出してます。今日の日替わりカレーは甘口のパイナップルカレーです!」

 チルルの問いかけに対し、二人はどちらも至高のカレーライスを選択する。

「甘口かあ。あたしは辛いのが好みでね」

「俺は今の味のままで、豚肉も食べてみたいな」

 ほう。いいじゃないか。次の日替わりも決まったぞ。

「待っていろ。日替わりは毎日変わる」

 と二人へ返すと、嬉しそうな顔をしていた。

 どちらもスパイスの調整まで必要な良い研究対象だ。こいつは腕がなる。

 ガツガツと豪快に食べる二人の様子を眺めながら、次の研究への想いを馳せる俺であった。

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