51.戦場の様子が
この後、ミヅチとカグラによる押し合いの相撲が店先で行われ、長身で引き締まった筋肉のミヅチがカグラにまるで敵わず、さすが竜人はすごい、となっていた。
カグラは片手しか使わず、軽く押しただけでミズチが跳ね飛ばされるという、二人の見た目からすると信じられない結果でだったのだ。
内包する魔力がまるで違うから、身体能力を強化した場合、二人の差は天と地ほどあるからな。
何やらまだまだ相撲をすると言っているので、俺はグウェインへどのようにしてカレーを提供するかを練るとしよう。
「レインハルト。お嬢様を止めて……」
「ん。まだカレーが食べたいのか?」
「ちが、いや、そうなんだ。食後のヨーグルトが」
「カレーにヨーグルトはよい組み合わせだ。すぐに作ろう。彼女も呼んでくれ」
リョウがさっそく相撲の列へ参加しようとしていたヴェルネーゼを引っ張ってくる。
最初から言ってくれればすぐ用意したってのに。
「ふ、ふう。よかった。火の海にならずに」
「レインハルト様。ありがとうございます」
優雅にスカートをつまみ、お辞儀をするヴェルネーゼであった。
そうしつつも、スカートから指先を離した後、リョウの腹当たりをつねっていたようだ。
竜人女性の挨拶は過激だな。
まあ、同じ種族の男性にしかやらないようだから、俺には関係のないことだ。
「可憐な巫女が信じられないほどの剛力とは」
「カグラは我ら三人の中で一番強い。俺でもまるで敵わんよ」
両手をあげ降参のポーズをとる族長のベルガに対し、年長のリュウガが彼の肩をポンと叩く。
相撲組は盛り上がっているようだな。
チルルもわあわあと楽しんでいるようだし、しばらくやりたいようにやらせておくとしよう。
小一時間ほどたつと、相撲大会も終わったようで、外にいた面々が店内へやって来る。
「店主。計らいに感謝する」
「鬼族の方との交流、楽しいひと時でした。レインハルト様、ありがとうございました」
ベルガとカグラが揃って軽く頭を下げた。
「食事の後に軽い運動をするのは良いことだ。良ければまた食べに来てくれ。カグラたちはこれからグウェインの元へ送る」
「そのことだが、店主。明後日は俺たち鬼族は店に来ない」
「ふむ。了解だ。人間と獣人も同じくか?」
「ああ。恐らくな。食材を無駄にすると思ってな」
ベルガの助言、ありがたく受け取っておく。確かに客足が減るとなれば、いつもの量を用意すると無断になる。
数日なら最高の状態に維持できる技術があるが、無駄を省くにこしたことはない。
なるほど。明後日か。
丁度いい。
ふ、ふふふ。
不適に笑う俺へチルルが心配そうな顔で俺を見上げてくる。
「ふふ。愉快なことを思いついた。丁度いい機会だ」
「そ、そうですますか」
タラリと冷や汗を流し、ネズミ耳がペタンとなるチルルであった。
◇◇◇
Side 帝国 駐屯地
時刻は夜のとばりが降り、夕飯をとっくに済ませた後の兵士用食堂の一角。
ダインとガレスがいつものように酒を飲みながらだべっている。
「あー。昨日のカツカレーもうまかったなあ」
「今日もカツカレーだったが、ポークとビーフで味わいが異なったな。俺はビーフの方が好みだ」
「マジかあ。俺はポークの方が好きだな」
「ほんとあなたたちは変わらないわね」
呆れたように眉をひそめながらも、ダインの隣に座るセレナであった。
彼女にしては珍しく、アルコールを片手にぐびりとそれを飲み干す。
「お。セレナが飲むとは珍しいな」
「飲まないとやってられないわよ。いつも通りのあなたたちの心情が分からないわ」
「戦うしかないのだから、仕方ねえだろ」
「私だって、帝国が戦争をする意味も意義も理解しているわ。だけど……」
さらにもう一口酒をあおるセレナ。
まあ、落ち着けや、と無言だったガレスが彼女の手から酒を取り上げる。
「俺たちはただ戦うだけだった。だが、あのカレー屋だ。当たり前のことをカレー屋で思い出しちまったんだよな。それが言いたかったんだろ、セレナ」
「そうよ。鬼族だってドワーフだって。雲の上だと思っていた魔人だって、カレーを食べる。おいしいと言って食べるのよ。だから……」
「そうだよな。相手は血を好む悪魔なんかなじゃい。俺たちと同じ、カレーをうまいといって食べる兵士たちだ」
「ロードリック様が停戦を表明している。偉大なる賢者の地を荒らすべからず、とな。そのうち状況が変わることを期待するしかねえ。俺たちの仕事は何だ?」
「戦うことよ……」
「なら、戦うしかねえだろ。抜けてもいいんだぜ」
「それは絶対嫌よ」
ガレスから再び酒を奪い返したセレナが杯をあおった。
酒を飲むだけ飲んでスヤスヤと眠ってしまったセレナに目をやり、お互いに苦い顔をするダインとガレス。
「しかし実際、戦い辛いよな」
「あえてお互いを見ないようにしていたが、カレー屋がある」
「旨いから仕方ない」
「まあ、な」
明日死ぬかもしれぬ身において、目の前に極上の食事がある。食べる制限はされていないとなれば、食べない選択肢はない。
連合国も同じだろう。
店主は帝国の者でも連合国の者でもない。来たものは誰でも受け入れる。
魔人だとて例外ではないのだ。
「あー。仕事だと割り切って、やるしかねえな」
「停戦を呼び掛けているロードリック様の行動が実るまではこのままだろうな」
「正直、連合国には勝てる気がしねえ」
「おいおい。指揮官さんよ、それは言ったらダメだ」
ははは、すまんな、とカラカラと笑うダインであった。
「カレーを食べる。それだけ考えればいい」
「そうだな。まさかガレスにカレーと言われるとはな」
「店主に毒されたかもな」
「違いねえ」
ガシガシとじゃれて叩き合った彼らは宿舎に向かう。




