50.相撲
「で、結局のところ今喰うのか、喰わないのか」
俺の問いに復活したリョウが即答する。
「食べるに決まってる。なんせカツカレーだからな! 竜人の方々……」
「カグラと申します。こちらはリュウガとシオン」
「カグラさん、リュウガさん、シオンさんもカレーを食べにきたんだよね?」
「はい。レインハルト様に誘っていただき。天空竜様が待ってくださるとおっしゃってくださったので参りました」
リョウがタラリと冷や汗を流し、俺の耳元で囁く。
「お、おい。天空竜って、あの竜人の守り神とかいうやつ?」
「守り神かどうかは知らんが、良質な胡椒を手に入れるに必須だ。カレーが食べたいと言っている」
「さ、さすがのカレー脳。その天空竜にもカレーを?」
「そのつもりだ。しかし、巨体だけに量を準備しなきゃならん」
げんなりした様子のリョウだったが、真っ先にトボトボと客室を出て行く。
残りの者も彼に続くのだった。
竜の巫女カグラ、護衛のリュウガとシオンが店に姿を現すと、鬼族からどよめきがあがる。
ドワーフらは特に興味はないようで、食べることに集中しており、食べたものはさっさと退店していった。
「盛況ですね。お部屋ではほとんど声が聞こえなかったので、落ち着いた雰囲気なのかと思っておりました」
「落ち着いて食すことができるよう、防音の魔法を使っているのだ」
「結界かと思い、解析はしておりませんでした。そのような心使いがなされていたのですね」
カグラは感心したように口元へ手をあてる。
俺たちの後ろでは、真っ先に客室を出たリョウがチルルへ何やら相談をしていた。
「チルルさん。これ俺たちも出ていっていい雰囲気? なんか竜人がキタとかで湧いているんだけど」
「あ、あたちに聞かれましても」
困るチルルへヴェルネーゼが助け舟を出す。
「別に喧嘩をしに来たわけじゃないでしょ。普通にしていればいいの」
「お嬢様を心配してるんだけ……ぐあ」
見事なボディブローが決まり、もんどりうって倒れるリョウであった。
あれが彼らなりの挨拶だと確信したぞ。以後、回復魔法は使わないでおくとしよう。
◇◇◇
「先ほどはすまなかった」
「わたくしこそ。無礼なふるまい、心よりお詫び申し上げますわ」
シオンとヴェルネーゼがお互いに頭を下げ握手し、同じテーブルへ座る。
六人用のテーブル席へ竜人が三人並び、対面にリョウとヴェルネーゼという席順になった。
席は空いているので他でもよかったのだが、彼らが同じテーブルを囲むことを望んだ。
遠巻きに彼らを見守る鬼族たちはもう喋りかけたくてうずうずしている様子である。
「竜人だけなら速攻声をかけたのだが、まさか会談がはじまっちまったら難しいわな」
「食べ終わってからでいいんじゃないか? 兄貴」
「そうだな。店主、もう一皿、カツカレーを頼む」
「俺も」
「はーい。ただいまー」
族長ベルガとギルから追加注文が入った。
鬼族は本当に良く食べる。そもそも三皿では腹いっぱいにならなかったのだと、ギルがチルルに後ろ頭をかきながら説明をしていた。
一方で、カグラとリョウの席にはカツカレーとマンゴーラッシーが着弾する。
「待ってましたー。いただきます!」
届くなり真っ先に手を合わせて食べ始めるリョウの目には今、カレーライスしか見えていないようだ。
気持ちは重々に分かる。
「あつ、うめええ。カツのサクサクとカレーの辛さがたまんねえ」
「あたしは脂っぽいカツカレーより極上カレーの方が好きかも」
「ほほお。なら、俺に」
「勘違いしないでよね。カツカレーが嫌って言ってないの。海底都市のどんな定食メニューよりおいしいと思うわよ」
皿をリョウからより離し、上品に食べるヴェルネーゼ。
対する竜人側であるが、リュウガとシオンは無言でガツガツ食べていた。
カグラはヴェルネーゼ以上にゆっくりと味わってカツカレーを口に運び、時折、マンゴーラッシーを挟んでいる。
「本当に美味です。複雑なスパイスに野菜と肉の旨味がまじり合い、最高のルーになっています。竜人はスパイスを普段から使っていますが、これほど繊細で深みのある使い方は初です」
「さすが竜人だ。スパイスには詳しいんだな」
カグラの的確過ぎる感想に思わず口を挟んでしまった。食べている時は静かに見守る俺であるが、彼女の感想に感銘を受け、つい、な。
「天空竜様が食したいとおっしゃられるのも頷けます。このルーは竜人のスパイスの集大成……いえ、それ以上のものです」
「グウェインにも早く食べさせてやりたいものだな」
はい、と頷き、ほほ笑みを返すカグラ。
「ごちそうさまでした! チルルさん、お水をもう一杯頼む」
「はい、どうぞ!」
手を合わせたリョウが水を一息に飲み干す。すかさずチルルがおかわりのお水を置く。
「これほどうまいスパイス料理は食べたことがない。カレーとは恐るべきものでした」
「おいしかった」
カツカレーを二杯おかわりをした護衛の二人も満足気にカレー臭い息を吐いた。
そこへ、食べ終わるのを見計らっていた鬼族のベルガが自己紹介をする。
「俺はシュテン族のベルガ。シュテン族一の力自慢なのだが、是非、一度竜人のあなた方と相撲を取らせて欲しい」
「レインハルト殿が良いというのなら、相撲が何かは分からないが、手合わせしよう」
「好きにするといい。終わったら送ろう」
俺が了承すると、リュウガとシオンのどちらが行くかで睨み合いになるが、意外なことにカグラが立ち上がる。
「畏まりました。シュテン族のベルガ様。私がお相手いたしましょう」
「い、いや」
か細く華奢なカグラに対し、さすがのベルガも腰が引ける。
「ベルガ。何、腰が引けちゃってるんだい。あたしがやろう」
「お願いいたします」
ミズチが申し出て、カグラがにこやかに彼女の申し出を受ける。
「なら、わたくしも」
「いやいや、ヴェルネーゼはやめておけって……穏やかムードが一気に血祭モードに。ぐうう」
ヴェルネーゼに肘うちされたリョウがもんどりうって倒れた。何やってんだか。




