48.竜の巫女カグラ
《本日の日替わりはカツカレー(ポーク)》
本日はカツ祭りで優勝したカツカレー(ポーク)を出すことにした。
相変わらずヴェルネーゼに引きづられたリョウと少しだけ会話したのだが、彼の目論見は俺と異なるところにあったのだ。
天才ではなかろうかと思った。俺は十人十色に囚われていたのだが、彼は違う。
彼は迷っていた。彼の舌ではポークがベストチョイスのはず。しかし、確信が持てない。
そこでオーディエンスを使い、疑念を払しょくしたわけだ。常連客の反応から、ポークの投票が多かったことで、彼にとっての至高のカツカレーはポークだったのだと確信が持てた。
これには衝撃を受けたよ。そんな彼に敬意を称し、本日はポークのカツカレーにした。とはいえ、まだまだ研究途上でリョウにとって至高と言えるまでになっていない。
というのは彼にまだ食べてもらっていないだけじゃなく、単にポークでカツを作ったに過ぎないからだ。
カツはカツで奥が深い。衣や油、最適の揚げ時間など数え上げればきりがないだろ。
リョウがうまいと言ったものを一応出しているのだが、工夫もなくパン粉をつけて揚げただけのものが至高であろうはずがない。 俺がいいのか悪いのか分からないのが悩みどころだ。
◇◇◇
「一息つきましたね!」
「そうだな。今のうちに食べるか?」
「ありがとうございます!」
「ほい」
チルル用にとっておいたパイナップルカレーを最高のタイミングでカウンターに置く。
これにはチルルのネズミ耳と尻尾がピンと立つ。
「パイナップルカレー! レインハルト様、あたちのために?」
「俺は毎日至高のカレーを食べている。チルルにとって至高はパイナップルカレーなのだろう?」
「甘いカレー大好きです!」
「なら食べるといい」
さっそくパクパクと食べ始めるチルルをよそ目に極上カレーを食す。
至高に至高を重ねる。これぞ至福の時である。
「ごちそうさまでした!」
チルルが食べ終わるのを見計らっていたかのように、最初の鬼族の客が来店した。続いてドワーフとひっきりなしに入店し、あっという間に静寂から喧噪へと移り変わる。
「カツカレーを頼む」
「黒ビールとカツカレーを」
「はーい、ただいまあ」
テキパキとチルルが配膳し、俺は俺でライスにカツを乗せ、カレールーをかける至福の時間に没頭していた。
「おお、ここが噂の」
「そうだぜ。マジでうめえんだ」
ギルに連れられて虎の毛皮ベストを着た赤髪の鬼族が来店する。
彼らか少し遅れてミズチもやって来た。
「おお。この前食べたカツカレーか! 俺はそれ頼む。兄貴は?」
「俺も同じで」
「あたしも」
カツカレーを三皿、そして、酒にラッシーを飲み干し、三人はようやく満足したらしい。
「本当にうまいな」
「だろ。兄貴」
ふうとカレーな息を満足気に吐き出した赤髪の鬼族が俺に挨拶をしてくる。
「本当にうまかった。俺はシュテン族のベルガ」
「うまかったのなら何よりだ」
「兄貴はシュテン族の族長なんだ。前々からカレーが食べたい、食べたいと言っていたのだが、族長となるとなかなか来店できずに悔しがっていたんだぜ」
ギルが補足してくれた。食べたくても、食べられない。これほど歯がゆいことはないな。
待ち焦がれていたカレーを食し、うまいと言ってくれた。これぞ至福の喜びである。
「シュテン族?」
首を傾げたチルルにミズチが鬼族の国事情を解説していた。
鬼族は8族の長がトップで、8つの領土を持つ。他にドワーフらが2つの領土を持ち、連合国となっている。
領域の広さは鬼族6割でドワーフ4割といったところ。
「そんでまあ、今はシュテン族がちょっかいをかけてきた人間と獣人の国と戦っているってわけさ」
「シュテン族だけが戦っているですます?」
「そうだよ。自分の領土は自分で守らなきゃね」
「そういうものなのですね」
はふうとグルグル目になっているチルルはきっと理解を放棄したに違いない。俺も全く持って国のことなぞ興味がないから、彼女と似たようなものだ。
チルルから目線を戻すと、神妙な顔をした族長のベルガが身を乗り出し尋ねてきた。
「レインハルト殿は竜人族とも繋がりがあるとか」
「そうだな。カレーを食べてもらおうと思ってな。先日、彼らの好みを聞いた」
そうだった。竜の巫女らにカレーライスを食べてもらおうと思っていたんだ。すっかり忘れていたぞ。
族長は竜人の肉体の強靭さを褒め称え、シュテン族の憧れだという。
「巫女はそれほど頑強な肉体をしていないな。護衛は見た目は君ほどだった」
「ひゅう。是非一度彼らと相撲をしてみたい」
「別に構わんが、好きにするといい。丁度彼らにカレーライスを食べてもらいたかったからな。聞いてくる」
「ちょ」
ベルガの声が聞こえた気がしたが、善は急げと言うだろう?
竜の巫女カグラのところへ転移し、スタスタと歩く。
「レインハルト様。また会いに来てくださったのですね」
「好みを聞くだけきいておいて、カレーライスを食べてもらっていなかったと思ってな」
「あなた様の愛するカレーライス。我らも食してもよいのでしょうか」
「カレーに上も下もない、ただ、喰うのか喰わないのか、それだけだ」
竜の巫女がぽっと頬を染め、護衛のリュウガとシオンも乗り気な様子。
「よし。そうと決まれば、すぐ転移するぞ」
《待て。我にカレーをと言ったではないか?》
「忘れてないさ。グヴェイン。量が量だけに少し待て」
《ふむ。最高のものを用意しろ。待てばいいのだな》
「俺は最高のものしか出さん。故に待てと言っている」
グヴェインはなお語り掛けてきたが、待て、で返した。
「俺と手を繋いでくれ」
巫女がそっと俺の手を取り、リュウガがもう一方の手に触れ、シオンが彼の肩に手を乗せる。
「これでよいですか?」
「問題ない」
全員が繋がったところで、店へと転移しようとした時、竜の巫女カグラが懸念を口にした。




