47.食べたいとき、それがカレー時だ。
ロードリックの案内は仰々しいな。これだから、街に来るのは好きではないのだ。
ロイヤルガードとやらが周囲を囲い、花道を作りつつ、そこを進んでいく。
転移すれば一瞬なのだが、ノロノロと歩いて行くのは非効率に過ぎる。
「大通りを進みますぞ」
「任せる」
まあ、案内してくれるというのを無碍にするのも良くないよな。僅かに残る日本人だったころの記憶が、辛うじて俺に社会常識を思い出させてくれるのだ。
良かれと思ってやってくれているのだから、大人しくついていくのも良しとしよう。
「レインハルト様あ。こんな偉い方々に囲まれて……あたちもここにいていいんですか?」
「遅すぎて飽きたのか? 少し我慢するのも時に必要なのだ」
「あ、あの」
「チルルがいてくれなきゃ困る。ダインとリズは帰りたければ送るが?」
いやいやいるいる。とダインが返す。
ふむ。特に断る理由もないしな。ダインとリズがついてきてくれるのなら、このまま付き合ってもらうか。
「そうだ。チルルさん。少し雑談でもしませんか、であります」
「は、はい」
「帝国大学というところに向かっているのですが、風格があると思いませんでありますか?」
「そうですね! テラスから見た帝国大学は歴史の長い権威ある立派な建物と思いました!」
仲の良いリズと会話を交わすことでチルルも調子を取り戻してきたようだ。こわばっていた顔に笑顔が見える。
「でありますよね。あれはワザと歴史ある風の建物にしているんですよ。大学というところは学術の最高機関なので古く見せているであります。実は帝国大学の歴史はたった50年なんですよ」
「そうなんですか」
「ハールーン様があそこまで帝国大学を立派なものにしたのであります。今では学びたい帝国臣民の憧れの学校になっているであります」
「ハールーン様の功績ははなり知れないものなのですね!」
そうであります、と元気よく返すリズであった。
◇◇◇
いよいよ帝国大学が近くなってきたぞ。
人だかりができていて、ハールーンの姿もある。
どうもハールーンが外まで迎えに行く人物と聞き、生徒だけでなく教師まで集まっているのだ……ということをロードリックが喋っていた。
「レインハルト殿! わざわざ会いに来てくださったのですね。このハールーン。感動で涙が止まりませぬぞ」
「こちらこそ、君のキノコに感動したぞ。あれほどのキノコ、そう見るものではない。研究の成果だな」
「さすがの慧眼でございますな。空を飛び、熱源を測り、集めたのですぞ」
「君の熱心な研究に触発されてな。是非俺の成果も味わってほしい」
ハールーンと握手を交わし、お互いの健闘を称え合う。
「ハールーン様の魔術の境地を尽くし、キノコを集められたのでありますね」
「説明せずともよい。レインハルト殿なら一目見ただけで理解できる。私の研究成果など御仁の爪の先ほどでもなかろうよ」
「そのようなことはないぞ。ハールーン。先ほども言った通り、君の研究に心動かされたのだ。論より証拠だ」
そうさ。リズに言われずとも分かる。
彼もまた同じ。キノコという研究成果を得るためにありとあらゆる情熱を注ぎ込んだ。魔術など手段に過ぎぬ。俺もまた同じだから分かるぞ。言わばハールーン流至高のキノコを使わせてもらった。
「い、いや。店主」
「これ以上は無粋であります」
何か言いかけたダインをリズが止める。そうだな。これ以上は無粋だ。
続いてリズは今度は俺に向けて必死の形相で両手をパタパタさせる。
「レインハルトさん。ハールーン様にキノコカレーを届けにきたでありますよね?」
「問題ない最高の状態を保っているぞ」
「レインハルト様。どこでハールーン様に召しあがっていただくのですか?」
そうだな。
「ハールーン。この場で食事会としてもよいか?」
ピンと指を弾くと、テーブルセットが忽然と姿を現す。
これには集まった生徒たちが驚きから大きな声を出したり、尻もちをついたりと大騒ぎとなってしまった。
しかし、同行の士ハールーンはやはり物が違う。
ブルブルと肩をふるわせ、ほろりと涙を流し掠れた声でこう言ったのだ。
「はい。いただきますとも」
そこまで心待ちにしてくれていたのか。
俺としても感無量だよ。
続いて、トンとカレー鍋をテーブルの上に置く。もちろん保温の魔法を鍋に施してあるから、いつでも最高の状態で提供できるぞ。
「さあ。食べてくれ」
蓋を開けると、ふわりとカレーの匂いが漂ってくる。
ここで俺は空気の変化に気が付いた。
「生徒諸君だったか? 良ければ君たちも食べるか? ここにいる全員に振舞うだけの量はある」
「生徒諸君。レインハルト殿のありがたい申し出、食べたい者は遠慮なく食べるように」
ハールーンが口添えすると、生徒たちから歓声があがる。
「ロードリック。そこのロイヤルガードらも食べるなら用意する。なあに。ちゃんとテーブルセットは人数分出すから心配するな。カレーを食す時には落ち着いて食べられる環境も肝要なのだ」
「是非。頂かせていただきますぞ。お主らも食べるがいい」
ロイヤルガードが整列し、一糸乱れぬ仕草で敬礼をした。
「チルル。看板を持て。大学前、青空レストラン開店だ」
「はいい」
先に立て看板を出し、チルルに設置してもらう。
《本日の日替わりはキノコカレー》
うむ。やはり看板があると雰囲気が変わるな。
あっという間にテーブルセットが人数分用意され、ダインとリズも客として青空レストランが開店する。
「はいはいー。ただいまー」
元気いっぱいのチルルの声が空に吸い込まれていった。




