46.帝都のテラスにて
「まずい、まずいって」
「こ、ここ王宮でありますよね」
ダインとリズが焦っている。チルルはふわあと高いところから見る景色に感動しているようだ。
王都は高い壁で囲まれた都市で、中央が小高い丘になっており、そこに王宮がある。
王宮にあるテラスからは王都全域が見渡せるのだ。
「ふむ」
ハールーンのいる場所はどこだろうか、と王都を見下ろしていたら。
ウーウーウー。ウーウーウー。
サイレンのようなけたたましい音が鳴り響く。
ネズミ耳をふさぎ、小さくまるまるチルル。
「ハールーン様の警戒術式であります!」
「め、めんどくせえことに。何とかロイヤルカードらに説明せんと」
「家を訪れたら呼び鈴を鳴らすものだろう? 鳴らさない方がいいのか?」
王宮全体に聞こえるようにしているのか。少しばかり音が大きいとは思うが、騒ぐほどの音量ではないだろ。
そもそも、ここへ転移してきた時に、ハールーンの警戒術式には気が付いていた。
発動せぬようにすることもできたが、呼び鈴だと思い放置していたのだよ。今更音に驚くことでもない。
「ロイヤルガードとはどんな方たちですますか?」
「王都を護る近衛兵たちのことだよ。王宮に詰めているロイヤルガードはどれも腕利きなのさ」
「ダインさんみたいな?」
「はは。照れるな。俺はそこまでじゃないって」
後ろ頭をかき照れ隠しをするダインだったが、カツカツと大きくなってくる足音に顔が引き締まる。
「どうすっかなあ」
「説明するしかないであります」
「おいでなすったか」
「ひゃあ」
ずいっとダインが一歩前に出る。俺? 俺は彼らから背を向け帝都を見渡しているぞ。
ロイヤルガードとやらは俺の目的ではないからな。いち早くハールーンを探さねば。キノコカレーが最高の状態に保てているかが気になる。
カツカツカツ。
甲高い足音と共にテラスへロイヤルガードらが踏み込み、剣を抜く。
対するダインは武器を投げ、両手を上にあげる。リズが続き、チルルも見よう見まねでバンザイのポーズになった。
「ま、待ってくれ。俺たちも帝国兵だ」
「その紋章。ビルシュタイン伯のものではありませんか! いかな伯と言えども、手続き無しに踏み入るのはご遠慮いただきたいです」
「その点については大変申し訳なく思っている。こちらにもやむにやまれぬ事情があるのだ」
「そちらの女性は魔法省の関係者ですね。他の二名は」
二名とは俺とチルルのことだな。名乗れというなら名乗るが。
俺の動きより早く、ダインが返答する。
「二人は軍の機密事項だ。この場では語れない。正式な場で伝える」
「承知いたしました。ここは伯の顔を立てさせていただきます」
ロイヤルガードとダインがお互いに敬礼し、彼らが抜いた剣を鞘に納める。
「店主。何とかなったぜ」
「ん? 彼らもキノコカレーが食べたかったのか? 別に構わんぞ」
「さすがの店主だぜ。とにかく、帝国大学はここじゃない。あの建物だ」
「あの場にハールーンがいるのだな」
あの建物か。飛んでいけばすぐなのだが、飛ぶと目立つのだったか?
せっかく案内役にダインについてきてもらったのだ。ここは彼に任せた方がよいだろう。
「皆の者、敬礼!」
テラスに詰めていたロイヤルガードの後方で緊張が走る。
その緊張は先頭まで伝播し、一気に緊迫した空気に変わった。
続き、ロイヤルガードらが姿勢を正し、敬礼を行い、道を開ける。
お。あの顔は覚えている。確か、ロードリック・アインベルクというグルメ評論家の重鎮だったか?
ちょうどいい。
ダインの肩を叩き宣言する。
「確かロードリックだったか。ハールーンと仲がよさそうだったし彼に聞けばいい」
「ちょ。ま」
ダインの右手が俺に伸びるも届かず、ロードリックの前に出て軽く右手を上げた。
対するロードリックは最敬礼を行った後、挨拶をしてくる。
「レインハルト殿。王都へようこそ。来訪心より歓迎いたします」
「ハールーンからキノコをいただいてな。彼から研究成果を見せられたからには、俺からも見せたくてな」
「そうでしたか。ハールーンは果報者ですな」
「先ほどダインから帝国大学にハールーンがいると聞いた。飛んで向かってもよいか?」
いえいえ、とロードリックが首を左右に振る。
「私がご案内いたします。ハールーンにも急ぎ知らせますぞ。おい」
「はっ! ハールーン様へロードリック様がお呼びだとお伝えいたします」
「そうではない。レインハルト殿が参られた、と伝えよ」
「承知いたしました!」
ロードリックの命を受け、敬礼したロイヤルガードが、二人ほど仲間を連れて走り去って行った。
「あー、なんかもういいや。考えるのをやーめた」
ダインが両腕を頭の後ろにやり口笛を吹く。
「レインハルトさんですし。まさかロードリック様がいらっしゃるとは思いもしなかったであります」
リズも脱力した様子で、ゴーグルがずり落ちそうになっていた。
「レインハルト様。ご案内してくださってよかったですね」
「そうだな。今気が付いたのだが、帝国大学が見えているなら飛ばずとも行けたな」
「飛ばずに歩いて行くのですよね?」
「案内を受けるならそうだな。見えているのなら、転移するのが最も早い」
なんなら、案内無しで転移でもいいぞ。
ところが、ロードリックの眉がピクリと動くと同時にダインが慌てて叫ぶ。
「飛行なんて比じゃないくらい目立つから! ダメ、絶対」
「そうか。帝都は色々面倒なものだな」
ふうとため息を漏らす俺であった。




