45.キノコカレー
「ううむ。キノコか」
「キノコカレーにするですますか?」
どさっと並べられた山盛りのキノコを前に腕を組み、ううむと唸る。
帝国の宮廷魔術師ハールーンからと、ダインとガレス経由でキノコをもらった。
わざわざ鬼族とドワーフらが帰った後に届けてくれたのだが、息を切らせげんなりした様子だったのが印象的だ。
拠点に戻り、超急ぎでキノコを届けろ、となったとダインが言っていたな。
食材をなるべく早く届けたい。その気持ちは分かる。新鮮であればあるほど良いと考えるのは自然なことだ。
ハールーンはキノコカレーが食べたいのだろうか。いや、わざわざ送ってきたのだ。きっと彼はキノコが好きに違いない。
たしかハールーンもリズと同じで研究者だと聞いた。
ならば、俺に対する挑戦なのかもしれん。
集めた最高のキノコでカレーを作ってみせよ、と。
「おもしろい、腕が鳴る」
ふふ。キノコ研究者のハールーンよ。俺が最高のカレーで答えてみせようじゃないか。
「キノコは明日の日替わりにするです?」
「そのつもりだが、そういうことか、さすがチルルだな」
「は、え?」
ははは。分からないときょとんとしているフリをしているが、隠さずともいいのだぞ。
俺はハールーンに挑戦された。ならば、研究成果をもって彼に食べてもらわねばならない。
彼は帝都にいるのだったか?
わざわざダインを通じてキノコを届けさせるということは、彼が帝都から動けぬのだと容易に想像がつく。
「ははは。ならば、俺が出向けばいい。見ていろ、ハールーン。きっと君を驚かせてみせる」
「て、帝都へ転移するですます?」
「ははは。その通りだ」
「そ、それは驚きますよ」
「今すぐではない。まずは最高のキノコカレーを作らねばならん」
「は、はい……」
キノコカレーの味わいに驚愕するがよい。彼に味わってもらう前に日替わりとしてキノコカレーを出すがね。
一番最初に味わう者にならずですまんが、日替わりの提供は俺にとってだけじゃなく、チルルにとっても重要事項のため、致し方あるまい。二番手以降に食べようが、味は変わらない。何番目に食べても最高のキノコカレーを提供すると約束しよう。
◇◇◇
《本日は日替わりはキノコカレー》
「いらっしゃいませー」
チルルの元気な声と共に、一番最初の猫頭と犬耳の獣人が来店する。
「今日もいい香りだ」
「キノコカレー? キノコ大好き。どんなキノコが入ってるの?」
犬耳がペロリと口元を舐め、キノコカレーを注文した。
ハールーンから頂いたキノコはどれも俺の知るものだったが、品質が高い。
知っているキノコばかりだからこそ、ハールーンの拘った品質が分かるというものだ。
五種のキノコに合わせたのは極上カレーより辛さを抑えたスパイス群とチキンという組み合わせである。
肉を何にするのか迷い、色々試した結果、チキンのもも肉で行くことを決めた。
キノコはそれだけでエキスが出るため、味の主張が少なく風味が出せるチキンにしたわけだよ。
「おいしい!」
「確かに。キノコをふんだんに使った豪勢なカレーだな」
獣人二人も満足そうで、シェフ冥利に尽きる。
続いて、ダインら四人が来店し、全員がキノコカレーを注文した。
「昨日持ち込んだキノコをさっそくカレーにしたんだな?」
「はいー。ダインさんたちがお届けくださったキノコを使っているですます」
「あれ、全種使ってるの?」
「はい!」
うはあ、それは豪華なカレーだな、とダインとガレスが目を合わせ苦笑する。
無言で彼らの様子を眺めていたセリスの眉がピクリと上がった。
「楽しみであります!」
もう一方のリズはワクワクと両手を握りしめる。
いつもの彼ららしい和やかさだな。食事をするときは彼らのようにリラックスして食べることが肝要だ。
心が落ち着いた状態で食べた方が、そうでない時よりおいしくなる。
ダインらが食べ終わるのを待って彼らに声をかけた。
「ダイン。営業の後、少しばかり付き合って欲しいのだが」
「閉店後? 昼過ぎくらいだったか?」
「そうだな。14時半ごろだ」
「おお。そういや、この店、時計があったんだったな」
俺の目線の先にある壁時計を見やり、ダインが納得した様子で頷く。
「ガレス。ちっと訳ありだと上に伝えてもらえるか?」
「分かった。キノコ関連だな」
「そうだ。キノコと言えばたぶん問題ねえ」
「自分も行きたいであります!」
ダインとガレスの間に割り込み、はいはいと手を上げるリズ。
「店主。俺とリズで残ってもいいか?」
「助かる。このまま待つなら、奥へ案内する。酒も好きなだけ出すぞ」
「マジか!」
「他にもつまみくらいは出そう」
ガレスとセレナのこめかみにぴきぴきと青すじが浮かぶが、そんな彼らの様子など気にもせずやったあと喜ぶダインであった。
◇◇◇
「ダインさん、リズさん、お待たせしました!」
チルルがペコリとお辞儀をすると、二人が立ち上がる。
「いやいや、全然待ってねえよ。酔わないように制限するのが困難なほどうまい酒だった」
「自分はおやつを頂いたであります」
数時間時間をつぶさせるため、出せるものは出したのだが、退屈にならず良かったよ。
「王都のハールーンのところへ行きたいのだ。俺は王都に詳しくなくてな。二人なら彼の場所も知っているだろう?」
「やっぱりそういうことか。今日のカレーを届けに行くとかそんなところだろ?」
「その通りだ。さすがダインだな。よく分かっている」
「以前、配達されたことがあるからな。分かるさ」
肩をすくめておどけてみせるダインに向け、ニヤリと笑みを返す。
俺とチルルが手を繋ぎ、チルルとリズ、リズとダインが繋がり、転移の準備が整う。
「到着だ」
「わあ。見晴らしのいいところですます」
到着した先は王都の中でも最も見晴らしの良い場所だ。
高台の上にあるテラスからは王都が一望できる。
ここなら、ハールーンのいる場所も探しやすいだろうて。
転移した先は帝都の王宮だった。
「な、なんてところに転移してんだよ!」
「テラスだ。見晴らしがいいだろう」
ははは。探すには高いところがいい。ダインとリズが帝都で飛んだら目立ち過ぎると言うから見晴らしのよい場所にしたのだ。
我ながら素晴らしい場所を選んだと思う。




