42.タヌキ
「自分も連れて行ってくださりありがとうございます!」
「来るのは拒まんさ。何事も研究に繋がる可能性があるからな」
「研究は大事でありますね」
「そうだろう。同じ研究者として、リズの研究の備えになるのなら歓迎だ」
本日は長い米を作る村へ訪れる予定だ。
そんな中、リズが店を訪れたので、彼女とチルルと共に村へ転移することになった。
彼女を護衛し連れてきたのはセリスで、彼女は転移に付き合わず、店でくつろいでもらっている。
彼女にはストックしてある食材、キッチン、風呂、ソファなど、自由に使っていいと伝えた。
伝えた後に気が付いたが、彼女には帰ってもらい、リズを転移魔法で送り届ける手もあったな。
◇◇◇
「あれが、米ですか?」
チルルが指さす先は水田だった。はじめてみる水田に興味津々のリズとチルル。
「あれは稲だ。小麦のように粒状の実を脱穀して米になる」
「小麦と似たような形なのでありますね」
「そうだな。似たような種なのかもしれん」
「サンプルをいただけたらいただきたいであります」
それは村人に聞いてみないことにはなんともいえん。研究を進めるにサンプルデータは重要だ。同好の士としては、彼女に協力したいところではある。
のどかな田園風景はどこか日本の農村地帯を彷彿とさせ、俺も懐かしい気持ちになった。
カエルの鳴き声と、飛び交う虫の動きを楽しむ二人の後ろを俺がついて行く。
すぐに村が見えてきて、ちょうどよいところに井戸水を汲んでいる村人がいた。
「この村は200人ほどが住んでいると聞いている」
「これまで歩いてきた道のりに見えた畑だけでも、もう少し人数が多いかもしれないであります」
「聞いたのは随分と前のことだから、増えているかもしれない」
「レインハルトさんからお話を聞く場合は、いつ頃のお話なのか注視する必要がありますね」
リズの言わんとしていることは理解できる。
長い時間の経過ですっかり様変わりしていることは多々あるものだ。酷い場合は村そのものが無くなっていたことだってある。
以前、村長に聞いた時には、村人はだいたい二百人くらいで、タヌキ族のみが住む。タヌキ族は動物のタヌキ頭を擬人化したような種とチルルのような人間そっくりでタヌキ耳の種がいるのだと。
村人に話を戻す。
村人はタヌキ頭の種で、どうやら俺と面識のある者だったようだ。
「あー。エルフのお兄さん。お久しぶりです」
半ズボン、タンクトップ姿のタヌキ頭がペコリと頭を下げる。
「しばらくぶりだな。田園を見せてもらいたいと思って、村に来たのだ」
「構いません。見て行ってくださいな。ちょうどボクも田んぼに行こうとしていたところだったので、ボクの田んぼでよければ来ますか?」
「頼む」
首から下げた麦わら帽子をかぶったタヌキ頭がどうぞどうぞと歩き始める。
「あ、あの。あたちのような耳の方も住んでいるのでありますか?」
「いますよ。耳は私と同じタヌキのような耳ですよ」
「タヌキのような耳。初めて聞きましたですます!」
「わたしから見るとネズミ耳の方が珍しいですな」
ははは、と朗らかに笑うタヌキ頭にチルルも微笑みを返す。
「この村はタヌキ頭とタヌキ耳が住むタヌキ族の村だと聞いているぞ」
「そうだったのですね!」
「これは……興味深いであります。タヌキ族は帝国で殆ど見かけることがないレア種族なのであります」
タヌキ族と聞き、リズが目を輝かせ頭に装着したゴーグルをくいっとあげる。
彼女の発言にチルルが即質問を投げかけた。
「帝都には余りいないのですか? 帝都には獣人の方は沢山いますよね」
「帝都の獣人に多いのは犬と猫が最も多く、次にチルルさんと同じネズミ、豹でありますね。タヌキ族以外にも少数しかいない種はいますよ。ですが、タヌキ族のような村があるかもしれません。そこに興奮しているであります!」
「他に少数種ってどんなのがいるのですます?」
「私も見たことがないのですが、一番レアなのは狐。他に見かけた種ですと、虎やライオンがいるであります」
確かに狐さんは見たことがないですます、とチルル達が盛り上がっている。
種族談義に興味がない俺は、長い米に合うインド風カレーのことを考えていた。
ダルカレー、バターチキンカレーと長い米を合わせるにして、多少の味の調整がいるか、など、考えるべきことは無数にある。
タヌキ頭の管理する田んぼにつき、近くで観察させてもらった。
チルルとリズは靴を脱いで泥の中に足を突っ込んで、きゃっきゃと楽しんでいたようだ。
俺と一緒に彼女らの様子を眺めていたタヌキ頭に一つ聞いてみる。
「少しばかり米を分けてもらってもいいか?」
「米を、ですか?」
「礼はこれで足りるか?」
「ひいい。レインハルトさん。金塊はもらいすぎですっていつもいつも」
そうか?
タヌキ頭は米の価値というものを分かっていない。
俺が転移魔法で出した金塊は重量にして1キログラムに届くか届かないか程度しかない。
金は世界中色んな場所で採れるが、米は世界中を見渡してもこの地域だけしか採れないレア中のレアだ。
希少性で言うなら、米の方が断然上。ならば、金塊で交換できるなら安いものだろう。
「貴重な米を頂くのだ。当然の対価だと思うが」
「す、好きなだけ持って行ってくださいな」
タヌキ頭が金塊を手に尻もちをつき、どうぞどうぞと田んぼを指さす。
リズとチルルも金塊に気が付いたようで、遊ぶ手を止め、顔を見合わせていた。
「その金塊は、魔法で?」
「魔法で精錬した。金鉱脈をいくつか知っているからな」
「帝国の鉱山へ?」
「人のいる場所はうるさくてかなわん。誰もいない場所だ」
どんな場所なのか聞くリズに、どんな場所で採れるのかこの後語ることを約束する。
「リズもサンプルが欲しいだろう。好きなだけ持って行っていいとありがたい言葉をもらったのだ。リズも持って行くといい」
「感謝であります! 泥や水も採取させて欲しいであります」
問題ない、とタヌキ頭がリズに返す。




