41.米
「米食の地域って俺は見たことないんだけど、レインハルトなら知ってたりする?」
「米食の地域はある。遥か東の島嶼だがな」
「へえ。少なくとも魔人じゃないな」
「そうだな。獣人だ」
獣人と聞き、チルルのネズミ耳がピコンと動く。
「獣人ですますか!?」
「そうだ。チルルと少し異なるが獣人の一族だな」
「あ、あの……」
「そうだな。会いに行くか」
ぱああっと目が輝くチルルであった。
「米があったのは幸いだった。しかし、品種改良が必要だった」
「細長い米から今の米を作られたのですね!」
チルルに向け、静かに頷きを返す。
島嶼で作られていた米は細長い米で、俺の求める日本風のカレーライスの米とは品種が異なった。
細長い米では至高のカレーライスのライス足りえない。
無いなら作ればいいだけだ。幸い品種が異なるだけで、米はあるのだから。
その後、50年ほどかけ品種改良を繰り返し、満足いく米を作った。
「相変わらず、もう呆れるしかない執念だ……」
「無いなら作るしかない。それだけだろ」
嫌そうな顔をするリョウへ当然だと返す。
◇◇◇
再び十種の肉を出してきて、ズラリと並べる。
溶き卵にパン粉を付けて……揚げればカツの完成だ。
「まずはポークから行くか。カレールーをかけた方が味が分かるか?」
「レモンとキャベツの方が量を食べられそうなんだけど、どうかな?」
「問題ない。千切りキャベツとレモンだな」
「あ、あるの?」
どちらも育てているから問題ない。
即収穫し、約二分でリョウへ千切りキャベツとレモンを提供する。
「チルルとヴェルネーゼもよければ食べてくれ。カレールーをかけても良いし、リョウと同じようにキャベツとレモンでも良い」
「わああ。ご馳走ですね!」
「ありがたく、頂かせていただきますわ」
俺も食べてみたが、懐かしい味はしたものの、イマイチカレーと合うかと言われると難しいな。
このままで合わないわけがないのだが、よりベターなものがあるかと問われると、分からない、というのが正直な答えだ。
改良する余地があるかどうか分からない。
つまるところ、この味だ、という味の羅針盤がなければ、研究は進まないのである。
「やはり、俺ではカツカレーの神髄には迫れないな」
「マジおいしい。このカツ」
「ジューシーでおいしいですます」
「海底都市でもこれほど柔らかなポークを出す店はなかなかお目にかかれませんわ」
チルルとヴェルネーゼは味の感想でよいのだが、リョウにはカツカレーに合うかどうかを判定して欲しいのだが。
肉そのものなのか、パン粉や小麦の問題なのか、はたまた卵なのか、揚げる時間なのか、などなど気になる点はいくつもあるだろうに。
「どうする? 色んな肉から試してみるか? 揚げ方は一定にするぞ」
「お、おう……」
「初日だからな。まずは基準調べから入るということでいいのだな?」
「あ、うん」
ポークカツを味わい上の空になっている気持ちは分かるが、次々に行かないと時間がいくらあっても足りんぞ。
「ならば、ひたすらカツを食べてもらうからな」
「え、あ……わ、分かったよ」
と言いつつも、リョウが五種類目のカツを食べたところでギブアップとなる。
彼が食べた中ではビフテキが一番うまいとのこと。カツカレーはポークが多いが、ビーフのものもあった気がする。
他にはチキンカツとカレーを組み合わせたものもあったな。きっと。
極上カレーはビーフカレーなわけで、ビーフカツとの相性は悪くないのかもしれんな。まだまだ研究が足りない。
「も、もう食べられません……」
「今日のところはこんなところにしておくか。一つ考えたのだが、一切れとカレールーを合わせて当たりをつけていくのはどうだ?」
「さ、最初からそうしたかった! 律儀に全部食べてたら、今日くらいで限界だよ」
「はは。食材を無駄にはしないから安心しろ」
今日はこれで終了だな。
明日も店が休みなので、リョウがいるならずっと研究に当たりたいが、どうだろうか。
「次来られるのはいつ頃になりそうだ?」
「今晩には戻らないとヴェルネーゼが、い、いえ、働きます。働きますからあ」
リョウがヴェルネーゼに首根っこを掴まれ、青い顔になり、ブルブル首を左右に振る。
「明日は難しそうみたいだな。店の営業時間でも、空き時間ができたら遠慮なく来てくれ。寝床は扉のある部屋を使っていい」
「ありがとう。不躾なお願いなのだけど、風呂を使わせてもらってもいいかな?」
「もちろんだ。今日はカツの研究への協力感謝する」
「ブ、ブレねえ。さすがのレインハルト」
ヴェルネーゼにも遠慮なく風呂を使ってくれと、直接伝える。
となると、明日はどうするか。
カツカレーの研究はリョウがいなければ進まないし、別の研究を……いや。
「チルル。翌日は米を作る獣人の元へ行くか。現地の細長い米も入手しよう」
「ありがとうございますです!」
わーいとお礼を述べるチルルと入れ替わるようにしてリョウが口を挟む。
「タイ風カレーなら、長い米もいいんじゃないか」
リョウから新たなカレーアイデアが飛び込んできた!
タイ風カレーか。
「リョウはタイ風カレーについて詳しいのか? 実のところ、俺は食べたことがなくてな」
「僕は食べたことがあるくらいで、実際どんな食材が使われているのか全然分からないな」
「再現するのは不可能だな……。タイ風カレーもカレーの一種だから再現したかったのだが、どうしようもない」
「インドカレーには詳しいのに、タイ風カレーはまるでだったんだね」
そうだな。
インドカレーはしょっちゅう食べていたし、日本で生きていた頃に自作したこともあるのだ。
一方でタイ風カレーは数度食べたことがある程度で、どのような作りになっているのかとんと分からん。味についても三百年以上前のことだから、朧気で覚えていない。
至高のカレーもインド風カレーも三百年間食べていなかったが、はっきりとどのような味か覚えていた。
特に至高のカレーについては、その味に恋焦がれぬ日などなかったのだ。
残念ながら、俺にとってタイ風カレーは至高のカレーに比べ重要度が低かった。ただそれだけ。
「長い米はインド風カレーに使えばいい。タイ風カレーは思い出さなかったことにしよう」
「インド風カレーと長い米の組み合わせはおいしそうだね」
「これが至高と思う者もいるかもしれん。試してみる価値はある」
「カレー脳ここに極まれり、である」
リョウが何かのままっているが、独り言のようなので聞こえていないフリをしておくか。




