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36.カツの研究には鉄扉が必要だ

「リズ。先にリョウたちのことからやる。待っててくれ」

「もちろんであります!」

 びしっと手を上げたリズには待っててもらい、その間にチルルと一緒にラッシーでも楽しんでもらうことに。

「他にも飲み物はあるけど、ラッシーでいいか?」

「あたちは何でも」

「自分も同じであります」

 ふむ。

 ついでにいつもは出さないオレンジジュースも作っておこう。

 普段何故オレンジジュースを出さないのか? 理由は明白だろ。

 カレーにはオレンジジュースよりマンゴーラッシーだからだ。

 だが、喫茶店感覚ならオレンジジュースでもいいかと思ってな。ついでに何かお茶菓子を出したいが、簡単に生成できるものは……特段興味がなかったので、しばらくやっていないな。

 もちろん、こいつはカレー研究の副産物でできた魔法である。

「これでいいか」

 小麦粉に魔法をかけ、クッキーを作った。

「余り甘くないかもしれんが、行ってくる」

「甘いです!」

「小麦粉が一瞬で……もう何も言わないであります」

 チルルは相変わらず素直に喜んでくれた。もう一方のリズも何か思うところはあったようだが、普通にクッキーを口にしている。

 

 彼女らが落ち着いたところで、カウンターで座って待っててくれたリョウとヴェルネーゼの元へ足を運ぶ。

「リョウ。送る。あと相談なのだが、なかなかこちらに来れないのだよな?」

「遠いからなあ。最低三日は海底都市を空けなきゃならなくなる」

「ふむ。夜だけちらっと隣家に来るとかならどうだ?」

「それなら毎夜までとはいわないけど、頻繁に行けるぞ」

 リョウがちらちらとヴェルネーゼの様子を窺いながら、返答する。

 ふむ。ならば、リョウにカツの味見をしてもらうに支障はないな。

「リョウは根無し草でなく、家持ちか?」

「ワンルームマンション……みたいなところだよ」

 じとーっとしたヴェルネーゼの目線に冷や汗をかきながら後ろ頭をかくリョウ。

 二人の間に住居について何かあるだろうが、わざわざ聞き出すことでもないだろう。各人それぞれ語りたいこととそうでないことがあるものだ。ただし、カレーに関することなら余すことなく喋ってもらうがな。

「ならば問題ない」

「え、ちょっと、想像はしたんだが、本当にできるのか?」

 ほお。さすがリョウだ。俺の考えを読んできたか。

 俺の情熱を舐めてはいけない。何しろ三百年、このことだけに費やしたからな。

 こけの一年岩をも通すってやつだ。

 そうそう、この「こけ」は、前世の子供の頃、「苔」と思ってたんだが、そうじゃないんだって大人になってから知った。

 「虚仮」と書く。虚仮とは愚かでつまらない者のことで、俺はこのことわざをどんな些細なことだろうが、ずっとやり続けることで突き抜けることができる、という意味で捉えている。本当の意味は知らない。

 リョウに聞けば教えてくれるかもしれんが、興味もないからな。

「とりあえず、海底都市へ行くぞ。ヴェルネーゼとリョウは手をつないでくれ。俺はリョウと繋ぐ」

 

 ◇◇◇

 

 海底都市へ転移する。

「リョウ。案内を頼む」

「おー」

 歩くこと10分ほど、大通りから一本内側へ入り、垣根で囲われたお屋敷の前で二人が立ち止まる。

「ここの一室を借りているのか?」

「ま、まあ。そんなところだよ」

「ここはロズウェル家の邸宅ですわ」

 ヴェルネーゼ一家が住むお屋敷ってことだな。リョウは彼女の家の一室を借りて暮らしているということか。

「いやまあ、色々あってな」

「構わんさ。俺はどんな形であっても気にしない。今、気にすべきはリョウのプライベート空間があるかどうかだけだ」

「そこは心配しないでくれ。ちゃんと部屋はある」

「ならば何も問題はない」  

 ロズウェル家の邸宅へ入り、二階の一室へ。


「広くはないが、一人なら十分さ」

「だな。広さは問題ない。この辺りでいいか」 

 目を閉じ、魔力を巡らせ、目を開く。続いて、脱力し、朗々と呪文を唱えはじめる。

 結構な長さなのだよな。この呪文。

 唱えること、およそ30秒。足元には光の魔法陣が浮かび上がってきた。

「開け。トラベルゲート」

 力ある言葉と共に鉄の扉が出現する。

「どええええ!」

「し、信じられませんわ……」

 尻もちをつくリョウと、両手を口に当て目を見開くヴェルネーゼ。

「使うことが余りないからな。無詠唱での魔法構築をしていなかったのだ」

 転移扉を常設するより、毎回転移魔法を使った方が効率がいいのだ。

 今回のように俺が関わらずに転移しようとすれば、転移門を用意しなきゃならない。

「こ、これ、どこでもド……じゃない、転移門か?」

「ああ。ただの転移門じゃない。固定型だ」

「こ、固定できるのかよ!」

「この扉を開けば、リョウが泊った部屋があるだろ。あそこに繋がる」

 こ、このエルフ、カツカレーのためにここまでやるか。さすがカレー脳。

 無駄に能力が高い、などとリョウが早口何か言っているが、聞かなかったことにしておいてやろう。

「転移門……実在するなんて……首長ドーチェをはじめ、全会一致でレインハルトさんを招聘しようと躍起になるのも分かりました」

「矢継ぎ早ですまんが、チルルたちを待たせている。こいつの注意点を手短に説明する」

 転移門は鉄扉のため、扉を開くにも力がいる。リョウならその辺は魔法を使って何とかできるはず。

 続いて、転移門は俺が魔法を解かない限り、固定され続ける永続魔法だ。

 しかし、鉄扉が破壊されると強制解除されてしまう。多少削れたりであれば問題ないが、扉の開閉に支障が出るようになると強制解除の対象となる。

「だいたい理解した。そんなに重たいのこの扉」

「試してみろ」

 リョウが力いっぱい扉を引くが、開かない。

「こ、こいつは重い」

「腕力を強化してみたら?」

 腕力を強化することでリョウが鉄扉を開く。

「そんな感じだ。では、またな」

 リョウとヴェルネーゼに向け手を振り、鉄扉から砦跡の拠点にまで戻る。


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