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28.胡椒補充

「掃除と体を清めさせてもらいたいのだが、いいか?」

「願ってもない。お主に体を清めてもらうと調子がよいからな」

 グヴェインから了承をもらえたので、胡椒生産大作戦を開始する。

「え、えっと。清掃? 清める? とは。あたちにもお手伝いできますです?」

「自分もお手伝いさせてください」

 手を上げる二人であったが、どうしたものか。

「なら、チルルは青。リズは黒のバケツを持っててくれるか?」

「バケツ?」

「今から出す。開け。転移門」

 いつもの転移だと手を繋がないといけないが、こちらは呼び出し用だ。

 

「きゃ」

「ひゃああ」

 彼女らの目の前に無骨な鉄扉が出現し、一人でに開く。

 これまで転移門を出したことがあったのだが、見ていなかったのかもしれない。

 俺の身長より高い扉だから、目立つと思うのだが。 


 続いて、扉からぞろぞろと色んな形のゴーレムが出てくる。

 もふもふしたのとか、翼があるのとか、バケツを持った小さな人型とか。

「可愛いです」

「これ……全部ゴーレムでありますか」

 両手を合わせるチルルにキラキラとした目になるリズ。

 バケツを持った小さな人型が、青の方をチルルへ。黒の方をリズへ渡す。


「次々とバケツに粉かゴミが運ばれてくるから、地面に置いて構えていてくれ」

 二人にそう告げると同時にゴーレムたちが一斉に動き出した。

 ハケでグヴェインの全身をはたき、次は拭き、そして最後は磨き上げる。

 グウェインの体から出た鱗の欠片は全てチルルらの持つバケツに集められた。

 同時並行でグウェインの巣の掃除も行う。こちらも鱗の欠片はバケツに集められ、それ以外のものは別のバケツに。

 その間、グヴェインは目を細め、じっとされるがままになっていた。

 

「上々だ」

「相変わらず手早いの」

 満足気に翼を震わせたグヴェインがほうと息を吐く。

「こいつはいただいていくぞ」

 バケツに目を落とし、グヴェインに確認を取る。

「うむ。胡椒だったか? 我には必要のないものだ。好きにするがいい」

 もう興味はない、と目を閉じ寝そべるグヴェインであった。

 

 一方、青のバケツには青い粉が8リットルほど溜まっている。もう一方の黒いバケツは満杯になっているが、こっちはゴミだ。

「これが青の粉でありますか?」

「青のバケツの方が青の粉だ。最高の胡椒には青の粉が必要なのだ」

「胡椒は、青い粉とは別なのでありますか?」

「別だ。胡椒自体は街で流通しているだろう?」

 ふんふんと頷くリズ。

「あたちも市場で胡椒を見たことがあります。見ているだけでしたが……」

「胡椒は塩に比べて高いので、高価なイメージがありますね」

「そんなもんか」

 どよんとなるチルルと市場価値を説明するリズ。対称的な二人であったが、俺の意見はそのどちらでもない。

 正直なところ、市場価値と言われても俺には分からないんだよな。

 同じ商品でも数十年もたてば価格が大きく変わることもある。あと、通貨もやっかいだ。

 俺とて一部の食材は市場で仕入れることもある。

 その際困るのが通貨なのだ。

 日本でも江戸時代と昭和で使われていた通貨が違うだろう? 百年も経過すれば国そのものが無くなっていることもあり、使えたものが使えなくなっていることもざらだ。

 ではどうするか? いちいち通貨を用意していては手間で、カレーの研究に割く時間が減る。

 確実なのは、金や銀といった金属そのものを持っておくことだな。金貨ならば大抵の市場で使うことができる。

 

「では行くか」

「はいー」

「転移しないのでありますか?」

「少し寄り道していこう」

 といっても遠い場所ではない。

 グヴェインの巣から出て、真っすぐ歩くと巫女たち門番の間まで到着する。 


「レインハルト様。天空竜様から感謝の意をいただいております」

 俺を見るや深々と礼をする巫女と門番たち。

「ご挨拶するからだったのですね」

 いや、挨拶するだけのためにここを訪れることなんてないさ。

 青いバケツからコップ一杯分の青い粉をすくいとり、残りを門番へ向ける。

「持って行け。街の店で品切れしていた」

「青い粉は希少な品なのですが……これを買い取りさせていただくお金を今持ち合わせていません」

「金は必要ない。俺にとって重要なものじゃないからな。街で青い粉を買えなくなると困るだろ」

「で、ですが……」

「俺も青い粉を買いに行くことがある。店で買うほうが効率がいい」

 彼女らも理解してくれたようで、青いバケツを受け取ってくれた。

 

 ◇◇◇


 お次に転移した先はチルルも二度来たことがある小さな空の島である。

「ここでも何か集めるのですますか?」

「青い粉だけじゃ胡椒は手に入らないからな」

 島になる胡椒の実をゴーレムが集め、大きな桶に突っ込んでいく。

 そこへ青い粉を一振り。

「魔法をかける。少し眩しいぞ」

「きゃ」

「興味深いであります! 魔法で合成することもできるのでありますね!」

 魔法をかけると、青い粉が輝きだし、緑色の胡椒の実が黒に変わり、この後、ゴーレムたちがすりつぶして胡椒にした。

「これで胡椒の確保が完了だ。店に戻るぞ」

 二人と手を繋ぎ、ようやく店へ帰還となる。


「今回も怒涛の展開でした……」

「まさか天空都市に天空竜まで見ることができるなんて夢にも思いませんでした! またご一緒させてくださいであります!」

 さすがに疲労した様子のチルルに対し、元気いっぱいに両手をあげるリズであった。

 彼女は俺と似て研究となれば、糸が切れる直前まで熱を持って動くことができるようだな。

 しかし、俺と同じなら突然、倒れる。そうなる前に休むべきだ。ギリギリを見極めるのがなかなか難しいのだが、彼女はどうだろうか。


 夜も更けてきていたので、リズを転移で送り、先にチルルが風呂へ。

「胡椒は手に入った。しかし時間がかかり過ぎたな」

 明日の新作日替わりの研究時間はともかく、食材を取りに行く時間がない。

 しかし、はいそうですか、とそのまま終わる俺ではないのだ。見ていろよ。

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