27.やあ。古代竜
「ま、まさか古代竜……とは天空竜のところでありますか!」
「そうだ。胡椒を急ぎ入手せねばならん」
驚くリズにはてな顔のチルル。
騒ぐ二人へ店員の若い竜人女性も乗っかってくる。
「天空竜様の居城である天空火山の周囲は常に乱流が渦巻き、危険過ぎます」
「ち、地上から行くでありますか?」
店員に質問を返したリズへ彼女がかぶりを振る。
「歩いて行くのも自殺行為です。溶岩の海はたとえ、ドラゴンであってもひとたまりもありません」
「じ、自分たちも同様でありますね」
たらりと冷や汗を流すリズであった。
「あ、あの。ドラゴンと古代竜は異なるものなのでしょうか?」
「ドラゴンの一種であります。ドラゴンのことはご存じでありますか?」
おずおずと聞くチルルに対しリズが食い気味に返答する。
「は、はい。竜のことは。とっても強く、人の手に余る強力な魔者だと」
「ドラゴンは大きく分けて三種いるであります」
「三種もいるのですね!」
カレーの時よりチルルが食いついている気がするが、気のせいに違いない。
本件についても、カレールーのスパイスへ行きつく話なので、カレー関連と言えばカレー関連か。
ならば当然、興味が湧くということか。自分の浅慮に恥じる俺である。
ドラゴンは知性の高さにより二種類に分かれる。
猛獣とそう変わらない種は大まかに二種。いわゆるどっしりとし、翼竜のような翼をもつドラゴン。もう一方は飛竜などドラゴンの亜種とされる一群だな。
そして、残るのが知性の高いドラゴンだ。個体にもよるが人語を解する者もいる。
さて、件の古代竜は、知性の高いドラゴンを指す。
猛獣並みの知性だったドラゴンも長い時を過ごすことによって、力を蓄え、多くの知識を持ち、高い知性を備えるようになる者もいる。最初からそうな者もいるが。
いずれにしろ高い知性を持つドラゴンのことを総じて古代竜と呼ぶ。
古代竜は非常に数が少なく、それぞれ異名を持っている。
ということをリズがチルルへ説明していた。
「空の島に住む古代竜といえば、天空竜であります」
「おとぎ話のようなドラゴンなんですね」
「その考えで概ね問題ないであります」
話がまとまったようだな。
店に寄ったことで既に時間を消費している。そもそも店を閉めてから行動しているのだから、夜までは幾ばくの時間もない。
チルルとリズの腕を掴み、転移する。
◇◇◇
転移した先は洞窟の中だった。といっても窮屈なものではなく広い回廊だ。
「中は暗い。二人とも暗視の魔法をかけるぞ」
「は、はい」
「お願いします! しかと見させていただくであります」
ひょいっと魔法をかけ、進み始める。
歩き始めたところでリズが疑問を口にした。
「天空竜さんのいる場所へ転移しないのでありますね」
「目の前に転移する方が効率がいいのだが、グヴェインと重なってしまう可能性があるから仕方ない」
「グヴェイン?」
「ああ。この洞窟の主だ。リズの言葉だと天空竜だな」
「グヴェイン様というのですね」
進むと、巫女風の竜人の女性が一人に兵士風の竜人の男が二人。
「どのようにしてここまでいらっしゃったのかは問いません。ですが、この先は天空竜様の座となります。お引き取りください」
進もうとしたが、巫女に止められる。
竜人の巫女は竜人にしては小柄で、身長165センチくらいのほっそりとした神秘的な女性だった。
切れ長の目に背中から手の甲までに伸びる薄い青色の鱗。髪色も同じ色。
巫女にふさわしい姿だから彼女を選んだのか、彼女が巫女の素質があったのかは不明だ。カレーに関係ないことなので、興味もない。
「青色の竜の粉をもらえるか? 金は言い値で渡す」
「申し訳ありません。ここでは竜の粉の取引はしておりません」
「ならば、グヴェインの元へ行きたい。通してもらえるか?」
「突然来られた方をお通しするなど……」
そこで待ったが入る。
『良い。通せ。この傍若無人さ。カレーのエルフだろう』
声は音声ではなく、頭の中に直接響く。
「ひゃああ」
「あわわ」
チルルとリズは驚いて尻もちをついていた。
「こ、これは……遠話の魔法であります」
「び、びっくりしましたですます」
はじめて届く頭の中への声に二人が驚くのはまあ理解できる。
しかし、巫女らも驚いているのはいかに? グヴェインの遠話が届けられたのははじめてじゃあるまい。
ここで門番? しているのだから。
「天空竜様が通せとおっしゃるなど初めてのことで……も、申し訳ありません。戸惑ってしまい」
「遠話がはじめてなら仕方ないさ。うちの二人もこうだからな」
「そ、そういうわけではなく」
よく分からんが、そういうわけじゃないらしい。きっと大したことではないはず。大ごとならば、止めに入り説明を始めるだろうから。
◇◇◇
「やあ。グヴェイン」
家よりも大きなメタリックブルーの古代竜が俺たちを迎え入れる。
「久しいな。またカレーとやらか?」
気さくに挨拶を交わす俺とグヴェイン。
「あ、あ、あの方が天空竜様……」
「威厳があり過ぎて膝がガクガクしているであります」
一方でチルルとリズはグヴェインの大きさにおののいているようだった。
「レ、レインハルトさん。無礼じゃないでありますか? こう、平に、平にとか」
「必要ないさ。そもそも、グヴェインは竜だぞ。人の習慣などない」
「いかにも。こやつの言う通りだ。我は敵対する者には容赦せんが、逆もまた然り」
人の社会は何かと面倒なものだ。グヴェインとはそれがないから、話が早くて助かる。
書面を交わしたり、手続きしたり、会った時の儀式なんてものが一切ないからな。
さあ、本題に入るとしようか。




