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26.胡椒が切れた

 スパイス……その中でも深刻なのが胡椒だ。

 胡椒が切れた。

 胡椒が切れたのだ。

「手っ取り早く入手するにはあそこだな」

 既にチルルとリズが手を握ってスタンバってくれていたので、チルルの手を握り、転移する。


 転移先は雲が下に見える大地の上。

「こ、ここは、畑のある空の島ですか?」

「いや、もっと大きい島だ。戦場より広いかもしれん」

 驚きで目を見開くチルル。ネズミ耳と尻尾も同じく。

 もう一方のリズは口を両手で抑えて、ワナワナと肩を震わせながら俺を見上げてくる。

「まるで大陸のような大きな空に浮かぶ島……ま、まさか」

「まさかが何かは分からんが、海底都市より少し面倒だ。門から入れとか小うるさい」

 お次はチルルだ。

「街? 街があるんですますか!?」

「そうだ。確か天空都市とか大層な名前がついていた」

「て、天空都市? それって空の上にあるという竜人の?」

 そうだぞ。と返したら、チルルがひっくり返った。リズも額に装着したゴーグルがずり落ちそうになっている。

 海底都市の時はワクワクしている様子はあったものの、今回は驚きの方が強いのか?

 空の上の島には二回も行っているじゃないか。

 畑じゃなくて街だから? まあいい。普通の胡椒なら育てることもできるのだが、カレーに合う胡椒はここじゃなきゃ手に入らんのだ。

「あ、あの。海底都市という言葉も聞こえたでありますが……」

「先日、レインハルト様に連れて行っていただいたんです。魔人のお二人を送るついでに」

「じ、自分も行きたかったであります!」

「次の食材調達の時にリズも連れて行く。研究できそうな食材が沢山あるぞ」

 バンザーイと体いっぱいで喜びを表現するリズであった。

 

 ◇◇◇

 

 そして、門へ。

 門番はもちろん竜人。それで動じるレインハルトではない。チルルはびくびくして彼の後ろに隠れていた。

 もう一方のリズは目を輝かせて竜人の門番へ熱視線を送っている。

 竜人は薄緑の肌に太い爬虫類のような尻尾。両腕の肩から手の甲にかけて薄い鱗に覆われている。

 鬼族と同様がっちりした体形で筋肉質。どこか鬼族と通じるものがあった。

「背中から翼は生えていないんですね」

「そうなんです。竜人は魔人と同じく魔法で空を飛ぶでありますよ。だけど、魔人ほど使いこなせる魔法の種類が多くないと聞くであります。研究のし甲斐がありますよね」

 チルルの問いに食い気味にリズが答える。その目は研究者独特のぎらついたものだった。

「あたちは魔法が使えないので、難しいですます……」

「竜人は己の肉体を強化することに誇りを持っていると聞いているであります。ですので、使う魔法は主に身体能力強化ではないかと」

「その通りだぜ。他には竜人はブレスという技もあるぞ」

 チルルへ熱く語るリズへ竜人の門番が親指をグッと突き出して割って入る。

 さすがに恥ずかしくなったのかリズの頬がかああっと朱色に染まった。

 しかし、羞恥心より興味が勝ったリズは竜人の門番へ尋ねるのである。研究熱心なことは良いことだな。

「ブレスとはどのようなものでありますか!? ドラゴンのような炎を口から?」

「少し異なるな。両手をこう横につけ、真っすぐ伸ばす。両手から炎が出る」

「実に興味ふかいであります! ただの人間の自分に教えていただきありがとうございます」

「我ら竜人は種族など気にしない。旅人は大歓迎さ」

 無邪気に喜んでいるチルルに対し、リズは表情に出さぬよう表面的には平静を装っている様子。

 研究熱心で何にでも興味を示す彼女だから、言葉の裏にある意味を察したのだろう。

「見ての通り、俺たちは武器もないし、杖も持っていない」

「武器を持っていても構わないさ。天空都市の門を叩く者、全てを歓迎する。魔物以外ならな」

 そう言ってニカッと笑みを浮かべた竜人の門番は俺たちを通してくれた。


 門は門番に挨拶するだけで、素通りだ。

 来た者は拒否しないのなら、別に入口から入らずともいいのに。

「きっと、旅人を見るのが好きなんですよ」

「その発想はなかった」

 歩きながらチルルが自分の考えを述べる。

 天空都市を訪れるということは空を飛ぶことができるということ。

 魔人や竜人ならともかく、それ以外の種族が空を飛ぶには結構な修練が必要。

 竜人は強者が好きなのだ。

 リズが微妙な顔になったのは、空を飛んできたから歓迎するという意図が空を飛んできたから、という意図を察したからだろう。

「リズ。気にしなくていい。空を飛ばず、転移で来たとしても彼らからは分からんさ」

「そういう意図じゃないであります……」

 おや、彼女の意図の解釈を間違えていたか。人の想いを察するのは難しいものだ。

 彼女は誰にも聞こえぬよう小さな声で「自分の力で来たわけじゃないもん」とか言っているが、俺たちに聞かれたくないことだと思い、聞こえないフリを決め込む。

 

「街の様子は帝国の街や海底都市と雰囲気が異なりますね」

「興味深いであります」

 確かに言われてみれば、建物の形が違うな。

 竜人の街である天空都市は、前世の知識で言うとギリシャ神殿風の建物が並ぶ。

 大理石で作った建物と言えばいいか。

 人の住む住居は壁と扉があるが、共用施設はまさにギリシャ神殿といった趣だ。

 

 歩くこと20分ほど。目的の店が見えてきた。

「ここだ」

「お店の様子が楽しみであります」

 リズがグッと両手を握りしめる。もう一方のチルルはふああと神殿風の店を見上げていた。


 店内は赤い絨毯が敷かれ、棚がずらりと並ぶ。

「竜の粉はあるか?」

「こちらです」

 案内された棚には箱に入った色とりどりの竜の粉が置かれていた。

 赤、黄色、茶色、緑……ないな。目的の青がない。

「ダメだな。古代竜の住む島でとれる青い竜の粉はないのか?」

「そ、それは……滅多に店には入ってきません」

「そうか。直接行くか」

「き、危険です!」

 竜人の店主が血相を変える。

 危険などあったか? 店で手に入れるより多少手間がかかるが。

 手間を惜しんで店に来たら、より手間になってしまったというのは皮肉なものだ。

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