25.スープカレー
もう来店はないと思っていたのだが、新たな来客が。
来客は三人。全員が見知った顔だ。
「出遅れたぜ」
「ほんと、勘弁してほしいよな」
来客の二人は仕事が遅くなったらしいダインとガレス、それに彼らの後ろから顔をのぞかせるセレナだった。
時刻はいつもの営業時間ならば、だいたい連合国側の鬼族とドワーフらが帰る頃だな。
しかし、本日は営業日ではなく、酒盛りだったからかまだ帰るものはいない。
店内の様子を見たダインとガレスは立ち止まり口をあんぐりあけて唖然としている。残ったセレナは僅かに眉根を寄せていた。
「神父が溶け込んでる……」
「だな……」
「よおっし。俺たちも混じるぜ。店主、俺にも神父と同じものを」
「……全く」
と言いつつも、自分も冷酒をいただくガレスであった。
そんな彼らに冷たい視線を送るセレナである。
ダインはともかく、ガレスも彼に感化されたのか受け入れるのが早くなったな。
セレナもセレナでリズを見つけ、彼女から果実ジュースを受け取っていた。
酒好きたちに国も種族もなく、ダインに至ってはドワーフに酒をつがれ、飲み干すと今度は鬼族と肩を組んで酒を飲んでいたり、神父以上に溶け込んでいる。ガレスはさすがにそこまではいかず、神父と並んで静かに飲んでいた。
セレナはチルル、リズと果物を楽しんでいる。
楽しい時間もいつまでも続きはしない。
夜が更け、酒宴も終わりとなる。
調子に乗って飲み過ぎたダインがテーブルに突っ伏しぐだっていた。そんな彼の肩をポンと叩いたガレスが、彼を起こす。
「そろそろ終わりだ。ダイン」
しかし、ダインは顔を上げたはいいが、糸が切れたように再び額をテーブルにつける。
「すまん。店主。これは動かん」
困ったように首を振るダインが俺へ向け謝罪してきた。
ダインが寝ていようが、問題ない。
「なら、神父と共に送ろう。俺の研究時間が勿体ないからな」
「助かる」
「セレナとリズも送るぞ」
神父、リズ、セレナ、ガレス、そして彼に首根っこを掴まれたダイン。
「これでいいのか?」
「全員手をつないだな。ダインはそれでいい。触れて繋がっていれば問題ない」
では行くぞ。
いつもの送り先、宿舎裏の林へ転移する。
「不思議な感覚だな……」
「少し気持ち悪くなるかも……」
転移がはじめてのガレスとセレナが目を白黒させていた。
続いて二人が転移に対する感想を述べる。
「いや、店主が戦場に出現したところは見ていたが、体感すると見るじゃまるで違う」
「そうね……ダインはきっと後から悔しがるでしょうね」
はははと笑う二人。
彼らを送り届けた後は、スープカレーの研究だ。
他にも色々研究するものがあってたまらん状況だが、順番的にまずは日替わりから始めるべきだろう。
「レインハルト様。今日はお酒の研究が進みましたね!」
「そうだな。嬉しいことだが、どれを出すか悩ましい」
風呂からあがってきたチルルが酒のことを思い出させてくれた。
大まかには辛さ、肉か魚介か、野菜多めか溶かしこんでいるか、あたりでどの酒を出すのかが分岐する。
反応を見つつ、俺の分析が正しいか見るのも楽しみだ。
◇◇◇
《本日の日替わりはスープカレー》
リョウのリクエストだったが、残念ながら彼はいない。
正直なところ、スープカレーは俺の至高のカレーと大きく構成が異なる。
名前の通り、スープなカレーなのだ。スープカレーはコーンスープのように飲むことができるほど粘性がない。
具材も違う。野菜は大きく切り、スプーンで切れるほど柔らかく煮込む。
肉がメインの具ではなく、大きく切った野菜がメインのヘルシーさ。ナス、ニンジン、ピーマンの三種が織りなす鮮やかな色どりはもはや芸術の域に達する。
完成させるにあたって一番苦労したのは、やはり粘性だな。サラサラのルーとなると、スパイスの調整が大きく変わった。
これまでのやり方が通用しないのがまた新鮮で楽しかったぞ。
「いらっしゃいませー」
チルルの元気いっぱいの声がシア所の客を迎え入れる。
本日最初の客は珍しく猫耳と犬耳の女性客だった。だいたい猫頭と犬頭のコンビが初っ端なのだが、今日は一番ではなかったようだ。
「チルルちゃん。やっほー」
「やはー」
「本日の日替わりはスープカレーです!」
「へえ、スープカレーってどんなのなの?」
「いつものカレーと違って、さらっとしたスープ風のカレーです! お野菜好きな方にもおすすめです」
チルルの説明に顔を見合わせ、本日最初の客はスープカレーとなった。
「お待たせしました。本日の日替わりスープカレーとラッシーです!」
「ありがとうー。わあ、綺麗なカレーだ」
「わわ。お野菜がスプーンで切れるね。スプーンで切って食べるのかな」
パクリと食べたら、猫耳と犬耳が揃ってピンと立つ。
「おいしー」
「とろとろのナスがさいこー」
どうやらスープカレーの調整は問題ないようだな。
その後、意外や意外。カレールーよりスープを飲み慣れている客には概ね好評だった。
更にダインたちまで。
「スープぽいから普段の食事に近いな。パンに浸してもうまそうだ」
「悪くない」
「私はフルーツカレーと同じくらい好きかも」
「これはレインハルト様の新研究であります!」
こ、好評じゃないか。ぐぬぬ。
彼らにとっての至高じゃないにも関わらず、至高のカレーよりも気に入ったのか?
ま、まあ。彼らがおいしいと言ってくれるのなら、それでいいか。
俺が百面相をしていたら、いつの間にやらリズが隣まで来ていた。
「レインハルトさん。本日も食材集めに行くでありますか?」
「そのつもりだ。リズも一緒に研究に行くか?」
「ぜひ、お願いしますであります!」
「適当にくつろいで閉店まで待っててくれ」
尻尾があったら全力で振ってそうなリズも本日の食材集めについてくることになる。
◇◇◇
「ありがとうございましたー」
最後の客をチルルが見送り、本日も閉店となった。
ゴーレムたちが店内の掃除をはじめ、俺は食材の点検を行う。
「俺としたことが……何という失敗を」
「ど、どうされたのですか!?」
血相を変えて寄ってくるチルル。
「スパイスが足らん。寸動で大量にカレールーを作っていたから、無くなるのも当然か」
「スパイス? ですか」
「そうだ。中でも在庫が完全になくなった胡椒が深刻だ。すぐに行く。リズ。すまんが、計画変更だ」
「構いません! スパイスにとても興味があるであります!」
急ぎ、出発の準備に取り掛かる。




